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2007/04/09

政治的に(ぎりぎり)正しいメディア・アート

 選挙期間が終わるまでは怖くて(自分も含めて)誰も言い出せなかったのかもしれないが、今回の都知事選で何が面白かったといって、それは「選挙」というものを素材にした、見事な国際的メディア・アートが登場したことであった。そう、「外山恒一の政見放送」である。ここには、ニコニコ動画にアップされたものを転載した、最もサウンド・エフェクトの秀逸なものを1つ貼っておいた。ほかにも、YouTubeで「外山恒一」と検索すれば、さまざまなエフェクトを施された秀逸な動画が無数に視聴できる。

 「メディア・アート」の定義については、このブログの2004年11月の記事でも取り上げているし、あるいは東京芸大の藤幡氏のインタビューを読んでもらえれば良い。狭い意味では、「我々を取り巻く新しいメディアやテクノロジーと、我々自身との関わりを意識化しようとする表現の試み」とでも定義すれば良いのではないか。海外ではそこに「社会批判的メッセージが込められていること」という条件が付くようだが、その定義をすべて適用しても、これは完璧な「メディア・アート」であるとしか言いようがない。

 外山恒一氏のこの政見放送を「政見放送」として聴た人は、おそらくドン引きしただろうが(ニコニコ動画のコメントにも「はぁ?だったら選挙に出るなよ」といったものが多かったが)、そもそも数十万円から数百万円の供託金さえ支払えば、誰でも複数のテレビメディアを5分間好きなように乗っ取れ、選挙公報の紙面の(朝日新聞の広告単価に換算すれば)1000万円以上の広告価値のあるスペースを利用することができるという仕組みそのものは、今に始まったことではない。

 東京都知事選挙は、夜間人口のみならず首都圏の人口を含めれば4000万人以上の人口に対する宣伝が可能で、しかも全国的にも最も注目を集める選挙でもあるため、立候補することによる広告効果は、うまくやれば300万円の供託金をはるかに上回るものが得られる。実際、他の立候補者の顔ぶれを見ても分かるとおり、この制度は当然のようにタレントや個人事業家の売名行為、広告目的に使われており、それは民主主義の代償として仕方ないことであるとはいえ、醜悪なものである。

 その点、外山恒一はこの制度を個人の商業目的には使わなかった。のみならず、彼はこの仕組みを利用して、(本人は意図せざる結果だったらしいが)古いメディアと新しいメディアの両方と社会の関わりとを、強烈な批判の俎上に晒してみせたのである。これをメディア・アートと言わず、なんと言おうか。

 彼がこの政見放送を「ネタ」として行ったことは、ちょっと考えればすぐ分かることだ。演説の中で「多数派」「少数派」といった、70年代新左翼運動のカリカチュアライズを強く意識したようなレッテル貼りの単語を多用していることでも気づくだろうし、「もし私が当選したら、奴らはビビる!私も、ビビる」と、最後に「種明かし」していることだけでもネタだと分かるだろう。また、右に貼り付けたように、実際に外山恒一に電凸した人のルポルタージュ動画がアップされているので、それを見れば政見放送でのしゃべり方が普段の外山氏本人とはまったく別の「演技」であることも分かる。

 この演説を聞いて「こんな危険思想の奴を放置しておいていいのか!」とか憤慨した人は、釣られましたねお疲れ様とお声掛けするしかないわけなのだが、面白かったのはこの動画がちゃっかり中国語韓国語の字幕までつけられてYouTubeにアップされていたことである。既に消されてしまっているようだが、中国語版を作ってアップした人の紹介コメントが、日本語と中国語の両方で書かれていて、日本語では「私には投票権がないが、こうした問題意識を持っている人がいるということを知って嬉しい。選挙後にぜひ彼とともに革命を起こしたい」とあり、中国語では「こんなに笑える滑稽な政見放送が、日本では公共の電波で放映された」とあったのを見て、この人はジョークの分かる人なのだと思って嬉しかった(韓国語版のコメント欄は残念ながらジョークの通じない人によって荒れているようだが)。この動画が、大衆社会の政治やそれを批判する人々自体をカリカチュアライズしたアートをきちんと許容できる文化レベルがあるかどうかのリトマス試験紙にもなっているところが、興味深い。

 そして、国内ではご存じの通り、政見放送という「著作権の生じない著作物」を、ネット上の無料動画共有サイトにアップすることの政治的是非が話題になった。一介の前衛アーティストが、豪快に権力を「釣る」のに成功した瞬間である。これこそ、日本に稀と言われた「社会批判のメッセージが込められた」メディアアートの、金字塔的成果というべきではないだろうか。

 今回の外山氏のパフォーマンスを、私は「政治的に(ぎりぎり)正しい政見放送(The Politically Barely Correct Election Broadcast)」と名付けても良いのではないかと思っている。外山氏には、こうしたラジカルなメディアアートに対する理解者が、東京都民だけで1万5000人もいたということを支えに、ぜひ国際的なメディアアーティストとして末永く活動を続けてほしいと期待するものである。

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コメント

こんなことになってますね:
「諸君、この国は最悪だ」——都知事選候補・外山氏が着うたに
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0704/09/news045.html

投稿: まるお | 2007/04/09 16:07

でも、ネタに1万5千票は入れすぎだってw

投稿: 通りすがり | 2007/04/09 18:03

 おもろいね。

投稿: ハナ毛 | 2007/04/09 20:11

 ちょろっと詳細見てきたんだけど。
>1,143 世田谷区
 を筆頭に23区内中22区内で3桁取ってんのね。田舎に逝ったら票数減るのは已む無しとしても、
>1 檜原村
>5 奥多摩町
>13 大島町
>0 利島村
>2 新島村
>2 神津島村
>1 三宅村
>1 御蔵島村
>4 八丈町
>0 青ヶ島村
>10 小笠原村
↑この人たちが洒落なのかマジなのか、微妙なところなんじゃないの? なんつって。ファンキーな田舎者って意外と多いし、東京23区なんて田舎者の巣窟じゃんとか思うので別にいいんだけど。

>こうしたラジカルなメディアアートに対する理解者が、東京都民だけで1万5000人もいた

 とか言う以前に「このうち推定数パーセントは意外とマジだったりする」可能性を笑ったほうがいいと思う。明らかに洒落と分かってそれを笑うのって観客的に普通じゃん。凄く微妙すぎてどっかの誰かがマジ受けしちゃうのを笑わないと。こういう手合いは(今の人が覚えてないだけで)昔から結構居るし。なんつって。

投稿: ハナ毛 | 2007/04/09 22:36

 最近そういや「マジかよアッハッハ」で笑う人って少なくなったよね。又吉さんとか。「ネタだよへっへっへ」が昨今の潮流なんかな。他人様がマジんなってるのを笑うのは失礼ですからな。マジもんは放置して一瞬マジ系の作り物で笑う、みたいな。上手に作る人に拍手喝采、みたいな。そういうのが江戸っ子文化の粋なんですかな。知らんけど。
 私とか田舎もんと江戸っ子のローブリットなんで、早速友人に「外山がおもすれー」とか報告したけどフーンで返されてがっくしですよ。

 文化の壁って意外と分厚いよね。

投稿: ハナ毛 | 2007/04/09 23:08

本人はネタのつもりでもマジになっちゃう奴がワラワラと出てきちゃう。
オウムも初めはネタだっただろうに。

投稿: cyberbob:-) | 2007/04/10 05:52

↑どうなんでしょ。アレは多分「商売」だったと思いますよ。田舎逝ったらよく居るでしょ。潰れた銭湯や床屋のおやじが急に神様商売始めたとか。ある程度の都市圏でやるなら外山さんみたいに完全アートwに徹しきれるんでしょうけど、オウムの人は田舎者じゃん。生活苦とか、洒落にならなさそうな経歴もお持ちのようでしたし、そこで宗教に飛んじゃうのは、どーやっても「商売」だと思うんですけど。
 そういうのを「笑え」とか言ってる私は人の不幸で喜ぶ駄目人間ですかね? 外山さんみたいにアートに徹しきってないと「笑えない」ほうが、いいのかもね。

投稿: ハナ毛 | 2007/04/10 06:13

 アートとしての面白さを求められるとさ。突き抜けなきゃ駄目じゃん。それが凡人には一番難しいっつうか。ある意味人間を超越しないと出来んし。野球少年がやくざになるようなもんで、ああいう類の面白さを喜んでると、そのうちマジもんが出てきてびっくらしちゃうと思うよ。実はそれ希望なんだよとか言われるとぐーの音も出んのだけどさ。
 そのへん(無意識的に)分かってるから、圧倒多数(笑)は無視してんじゃねえのかと。笑っちゃう人ってチキンラン大好きだよね。ひとりふたりは「確実に堕ちる」の分かってんだろと。そういうのは放置すんだよね。ぅわぉ前らスゲー残酷、とか思っちゃうんだけどさ。それだったら堕ちたの分かって「おいおい大丈夫か」で笑って手を引っ張ってやるほうが親切だと思うんだけどな。手間掛かるけど。どぉなんだろ。

投稿: ハナ毛 | 2007/04/10 06:43

あれがアートに見えるそうですがこれが日本の社会なのかなあと寂しくなります。finalventさんがアンデパンダンなアーティストをご紹介してますがこの人たちは基本的に自宅に秘宝館を作ってしまう手合いで、その違いは金と地位の初期値でしかありません。ご本人はなんとでもご自由にでありますが、こういった人たちの跡をアートとしてついていく若手が居て破綻するさま(いまだ数多く居る!)を考慮すればスルーすべきものだと思います。そして今後アートとして宣伝利用を肯定するなら経済的にバランスが取れるまで供託金が増えたり「立候補の自由」が侵害されると思うのですがそれについてはどう思っているんでしょう。まるで中学生の選挙に冷やかしで出たヤンキーを理解してみせる背伸びした子供のようだとおもいますよ。

投稿: art? | 2007/04/10 06:50

というか、
一年間週一かニ、公益ボランティアをした人は、みんな、無料で立候補できるようになった方がいいんでないの?
ただし、保証金として前納できる人は今まで通り、できない人は、ま、名誉立候補みたいなもので、あくまで、公文書に名誉ある形で名前を残せるということ。チャンスがあれば、選挙期間中に保証金を寄付で集めて納めることができる。それと、生活が苦しい人でない限り、一度収めた保証金は返納してもらわないで、自治体の歳入にする。

で、だ、当然、これを期に、従来の立候補者も一年間の公益ボランティア活動があったかなかったかは告知されるようにした方がいい。

現職の知事だろうと、どっかの知事の経験があろうと、地域に根付いた活動しないものは、首長としてふさわしくないぞ。

政治家が威張っている限り、ニホンは悪くなるばかり。威張り大会で、技ありをだしても、なんかなぁ、アートなのかなぁ。一発芸でないことを望む。

投稿: noneco | 2007/04/10 08:23

>こういった人たちの跡をアートとしてついていく若手が居て破綻するさま

二番煎じ以下はもはやアートではないでしょう。
そんなことの分からない馬鹿は放っておいても自然淘汰されるでしょうし、要らぬ心配というものでは。

投稿: マグナカルタ | 2007/04/10 14:11

>nonecoさん
横レスね。
「威張る」ってのは、随分周囲の事情ってのも有ると思うよ。
純粋な芸としての太鼓持ちならいいけど、権威・権益の周辺にはそれ以上の役得があるのは直ちに想像できるし、そういうのが居るなら、保身のためにひたすら平身低頭するのも居るでしょう。

投稿: トリル | 2007/04/10 16:38

元々金儲けのための立候補でしょ?
http://stillwantto.be/blog/2007/04/post_45.html

投稿: 通りすがり | 2007/04/11 03:15

俺はああいうのタダじゃないと絶対見ないから、金出すって感覚が分からん。路上芸人なら1000円入れてもいいんだけど。

投稿: ハナ毛 | 2007/04/11 12:24

>>シャチョサン
 なんかブログやってたら人が来るんでキモいんですけど。どうすればいいですか?

投稿: ハナ毛 | 2007/04/11 21:06

(1)プライベートモードにする
(2)来た奴のIPアドレスを片っ端からアク禁にする
(3)暗号でエントリを書く

このあたりでどうでしょうか?>ハナ毛さん

投稿: R30@管理人 | 2007/04/11 23:50

(1)プライベートモードにする
↑やり方知りません。
(2)来た奴のIPアドレスを片っ端からアク禁にする
↑だるいです。
(3)暗号でエントリを書く
↑めんどくさいです。

 な ん て 馬 鹿 な ん で し ょ う (大改造!! 劇的ビフォーアフター調で)

 ただ放っとくという真似が、なぜできぬ、みたいな。露骨に近親者だけってのも閉鎖的で嫌なんで開放感は欲しいんですけどね。まぁ、無茶な要求なのは百も承知なので。今晩寝たら諦めます。
 mixiへの訪問は、今月いっぱいうろたえてからにしておきます。今逝ったら「喪前ら殺すぞ」大連発だと思いますので。
 小心者を苛めないでほしいです。

投稿: ハナ毛 | 2007/04/11 23:57

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