禿に関する一私論
昨夜、10分1000円の散髪屋に行ったらもう閉店時間だというので、しかたなく近くの普通のフルサービス4000円の散髪屋に。そこはあんちゃんがおしゃべりでしかも僕とは割とフィーリングの合わないタイプなのであまり行きたくなかったのだが、背に腹は代えられない。
で、のぞいてみると日曜日の夜なのに奇跡的に空いていた。で、40分ほどそのあんちゃんとおつき合いすることになったわけだが、あんちゃんは相変わらずこっちの気持ちをまったく読まず、心理的な間合いを詰めようという努力の気配も見せず、僕をシートに座らせて髪を切り始めた瞬間からいきなりセールストーク全開ですよ。
「お客さん、結構頭の皮が日焼けしてますよね。頭皮の脂を落とさないと、髪がなくなりますよ。うち、10月まで皮脂を落とす特別マッサージ、1回2000円を1500円でやるキャンペーンやってるんですけど、いかがですか?」
お兄さん、せめてもうちょっと禿の話を切り出す時には素振りだけでいいからデリカシーを見せようよ。いきなりそこまで突っ込んで話しかけられて「お、そうかい、俺の頭皮そんなに禿げそうかい。じゃあその特別マッサージとやら、いっちょやってくんな」なんていうキップのいいお客さん、いないと思うんですけど。いるんですかね。いたら申し訳ない。自分にデリカシーがないくせに他人にはそういうの要求するタイプなんですよ僕って。
にしても、もうちょっと説得力のある勧誘というのはできないものか。一応これでもうちの血筋、誰一人として禿のいない家系なわけですよ。親父も爺さんも、お袋の親戚も男性はみんなフサフサ。だから自分も全然禿げる気がしない。そういう人に向かって「お前、頭皮が日焼けして禿げそうだからうちの商品を買え」ってのはいくら何でも説得力なさすぎ。せめて「お客さん、ご親族に頭の薄い方とか、いらっしゃいます?いやね、実はね、お客さんの髪の毛、もともとはすごく丈夫そうなんですけど、ちょっとこの日焼けがずいぶんひどいのが気になりましてね…」とか、言葉の綾の駆使の仕方ってもんがあるでしょうが。
それともあれかな、やっぱり説得するには数字とビジュアルを使ってやらにゃ、てことかな。例えば頭に霧吹きで水をかけている最中に頂上の髪を1本プチッと抜く。んで検査機にかけ、毛根の成分比率とかをガスクロでさっと検査して、さらに顕微鏡写真を標準の毛根の写真と並べてインクジェットプリンタでプリントアウトし、カットの終わったお客さんに見せながら「お客様の頂上部と額上部の頭髪の毛根をちょっと調べさせていただいたんですが、標準の毛根に比べて皮脂や汚れが多くなっておりまして、頭髪年齢はもう56歳、あと数年でいっせいに定年退職じゃなかった、抜け毛が一気に増えるというサインが出てます。ま、危険信号ですね。これ以上の診断と処置のアドバイスをお求めになりますか?」などと語ってくれたりするとものすごい説得力と危機感が漂うな。
理容店業界向けのサプライヤーで、そういう脅迫ソリューションを考えついて実践する人ってのは誰かいないのだろうか。そもそもQBネットの登場以降、理髪店では「髪を切る」以降のプロセスのサービス価値というのが急速に薄れている。お客からすれば、「だいたい髪だけ切ってくれれば10分1000円ですむものを、人が座って身動き取れないのを良いことに勝手に洗髪だのシェーブだの俺様が自分でもできるような余計なことばかりしやがって、俺様の顔中血だらけにしたうえに俺様の貴重な30分の時間と3000円の追加料金ぼったくるとは不届き千万」とか思われているわけだ。だったら気持ちよく4000円を払ってもらえるように、カット以降のプロセスに理髪店でなければできない付加価値というものを付けられないかどうか、もう一度考え直してみたらどうか。
既に理髪店業界において使われている最も安易な手口は、「洗髪やマッサージを可愛い女性理容師がやってくれる」というもので、前に住んでいたところの駅近くにある理髪店はカット、洗髪、シェーブ、マッサージ、整髪をすべて違う女性理容師が入れ替わり立ち替わりやってくれるというシステムを導入していた。入口には怖い顔の置屋のお婆さんみたいな店長がどっしり構えており、店内を忙しく走り回る若い美人女性美容師たちを見張りながら「○○ちゃん!次、そこのお客さんに洗髪!早く!」とか時々叫んでいる。理容師たちは交替するたびにいちいち「よろしくお願いしま~す!」と黄色い声を上げながら客に向かって深々と頭を下げてあいさつするので、そのたびにワクワクするというか、まあ普通の男性なら若い女性に優しく頭や顔を触られたりなでられたりするのが嬉しくないわけがない。実際その理髪店はすごい勢いの流れ作業で進める30分のカット1回に対し4700円と法外な値段を取るにもかかわらず平日も客足が絶えず、土日ともなると黄色い声のお姉ちゃんたちに顔をなでてもらいたい男どもが朝から晩まで長蛇の列をなしていた。これはどうみても理髪店ではなくて風俗の一形態である。もうね、アホかと。バカかと。
しかしこのシステムは一方で店の中に少なくともカット・洗髪・シェーブ・マッサージ・整髪役の5人の美人女性理容師が常駐していなければならないという欠陥を持っており、客が大量に集まる繁華街でならまだしも、うちの家の近くのそのあんちゃんの店のように、休日でも理容師が3人そこそこいるだけのようなヒマな店では到底成り立たない。やっぱりここは頭髪検査設備に投資して、今日は3000円ぽっきりと思って来店した1人のお客さんに、あれよあれよという間に皮脂含有量の検査データとびっしり汚れがまとわりついた毛根の拡大写真を見せながらパワーアップ・クレンジング・シャンプー・アンド・スカルプケア・マッサージのキャンペーンを納得させ、気が付けばコンサルティングフィーを含めて8000円を巻き上げて「これできっと髪の毛すっきり、毛根ぴかぴかですよ!」なーんてさわやかな声をかけて見送るような科学的理髪サービス営業システムを構築してみようという理髪店、あるいは理髪店向けのサプライヤー企業はないものだろうか。あったら面白いんだけどな。でもそんな店には僕は絶対行かないと思う。マジ怖いから。やっぱりQBネット最高。あれ、何の話でしたっけ?
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コメント
>何の話でしたっけ?
都会っ子の自慢話。
投稿: x | 2006/09/11 11:43
いつも読んでますが、今日は少し趣向が違いますね。
でも、メッチャ面白い。腹かかえて笑ってしまいました。
投稿: Johnny | 2006/09/11 14:18
単に「禿」をいじめたいだけのエントリーのような(笑)
いや、良いんですけどね。
テリーサバラスは好きです。
投稿: トリル | 2006/09/11 22:41
オヤジ系読者としては、ガソリンスタンドにレースクイーン、新幹線にバドガール(バドワイザードレインだ)なんてのを期待しますねw
投稿: iseeker | 2006/09/11 23:29
今日は妙に必死ですな。
投稿: あああ | 2006/09/12 00:11
オイオイ(w
って見事なネタ振りにつられてしまいました・・・
投稿: ossann37 | 2006/09/12 02:59
>駅近くにある理髪店はカット、洗髪、シェーブ、マッサージ、整髪をすべて違う女性理容師が入れ替わり立ち替わりやってくれるというシステムを導入していた。
宣伝ありがとうございます。その節はお世話になりました。3日とあけずにご来店いただいていたのに、最近お見かけしないので気になっておりましたが、お引越しされていたんですね。
お店は遠くなりましたが以前と変わらぬサービスに努めますのでぜひまたご来店ください。
かしこ
投稿: おしゃれさろん | 2006/09/12 09:57
もっと更新してくれたら嬉しい
投稿: な | 2006/09/12 23:59
1ヶ月くらいたつと、1000円と3500円のクオリティの差が実感できます。
どっちを取るかは、好みの問題ですね。
投稿: ひろ | 2006/09/14 00:17
俺とか3500円のお店に逝って「1000円のクオリティでいいよ」って言いますけどね。
んで、差額の2500円分言いたい放題モード。店長と一緒んなって好き勝手言ってますわ。たまに他の来客に不都合なこと言ったときの押さえ役というかフォロー役というか、そういうのを2500円で買ってる感じ。
たかだか30分程度の放言ですから。言っても言われても高が知れてるんですけどね。でもまあ、一見客とかキレるときはキレるんで。そういうときに、店長にさっさとフォローして貰わないと。できるものも出来ない。不憫なご時世ですなあ、と思ってみる。
投稿: ハナ毛 | 2006/09/16 11:03
特に肌が弱いわけでもないのに顔面血だらけにされるのは、それは床屋の腕がどえらく悪いか
あるいはラザーミキサーという自動泡立器を使用している可能性大。
ミストマシンのような高価な装置は使ったことないけど、こういう中途半端なお手軽ツール
使うよりも、髭ブラシを使ってこまめに肌を手作業で泡立てながらシェービングする
原始的なやり方の方が、実は圧倒的になめらかなのだ。
投稿: 床屋 | 2006/10/03 15:09