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2006/07/08

YouTube-Google型企業になるための4つの法則

YouTube 横目で見ているはずだったイノベーション勉強会になぜか引きずり込まれて、宿題もやってないのに飛び入り参加。でもなかなか面白かった。

 他人の褌を借りまくって分析した結果分かったのは、YouTubeが非常に良い意味でプロシューマ、あるいはgeek向けのインフラサービスに特化しているなあということだ。よく考えたら、テクノロジー面の「強み」と思えるようなものが何もない。ある意味全部オープン、それでいて圧倒的なユーザー数を抱える。まさにCGMの王道を行く会社である。

 また、その戦略のそこかしこにGoogleに投資したVC、セコイア・キャピタルの影響を見て取ることができる。ある意味「ネットベンチャーはGoogleから何を学ぶべきか」というテーマに関するショーケースのような企業とも言える。

 結論を言ってしまうと、YouTubeはGoogleが象徴する「ネットインフラ型企業」と、Web2.0と称される「CGMビジネス」のエッセンスをうまくハイブリッドさせた、「インフラ志向型消費者参加型メディア」である。僕がそう考えたポイントを、以下にまとめてみよう。

1.標準技術ばかりをパッチワークのように使い、高付加価値なサービスを目指さない

 動画処理はそっくりMacromediaのFlashだし、通信プロトコルも何の衒いもなくHTTPだ。既存の資産を膨大に抱えるCPやそれを保護しながら送受信しなければならないCDNみたいに、secureであろうという姿勢を初めから放棄しているので、Protocol上の特殊性もない。あるとすればあれだけの転送量をさばくload balancingやcacheの技術あたりだろうが、それとても他社が絶対に真似できないものでもない。その結果、非常に低コストでスケールフリーなサービスを実現した。

 つまりGoogleと同じで、技術的にはデファクト・スタンダードなものばかりを使い、いつでも誰でもやろうと思えばやれることをやっているのである。ところが、それが曲者なのだ。著作権侵害、暴力・グロ・エロ、検索やインターフェースの不便さ、不親切さ。「失うものを持つ」既存プレーヤーは、怖くてそんなところに手が出せない。それこそが彼らの思うつぼというわけだ。既得権者の資産を負債化する戦略である。

2.コンテンツ置き場というインフラに徹し、ポータル=「編集」の機能は外部に任せる

 勉強会では何人かのアップロード利用経験者から一様に「YouTubeのUIはアップロードは非常に簡単だが、サイト内を検索したり動画をいじろうとしたりすると決して便利とは言えない」という指摘が出ていた。これもまた、彼らの戦術だろう。あえて映像を見つけにくくし、Napsterのようにポータルサービスとして完結させないのだ。

 ポータルの機能をあえて持とうとしないのは、いくつか理由があると思われる。1つは、映像という、Google以上に著作権侵害にナーバスにならざるを得ないサービスであるがゆえだろう。ポータル的な機能を備えて、コンテンツの整理やおすすめの表示などの「編集」を行った瞬間に、著作権者から「他人の著作物を勝手に売り物にするな」と訴えられる。であれば、「編集」の機能は世界中のブログやSNS、掲示板などに任せ、YouTubeは動画のホスティングと最低限のタグ付与など、Folksonomy機能だけ持てばいい、という割り切りだ。

3.トラフィックという「余計なもの」ではなく、コンテンツの蓄積に徹底集中する

 ポータル機能を持たないもう1つの理由が、「それは余計な機能だから」というのがある。YouTubeには世界中のブログ、掲示板から大量の人がなだれ込んでいるが、YouTube側のページにはトラックバックなどの機能がないため、同じ映像を紹介している他のサイトを探し出すことが極めて難しい。つまり、YouTubeに入ってくる方向のトラフィックはたくさんあるが、YouTubeから外部へのトラフィックは発生しない。それどころか、YouTubeに来なくてもブログなどに映像を貼り付けて見ることもできる。初期のGoogleがよく言っていた、「ユーザーには、Googleにとどまらずなるべく早くサイトを通り抜けてほしい」というサービスポリシーに酷似している。

 ここから分かるのは、YouTubeがトラフィック(PV)の獲得よりも動画コンテンツそのものの蓄積を最優先しているということだ。CGMなのだからある意味当たり前だと思われるかもしれないが、トラフィックの方がマネタイズが楽なので、かなり有力な資金源がバックに付いており、しかも経営者の肝が相当据わってなければ取れない戦略である。

4.視聴者ではなく、表現者の囲い込みと“経済圏”の構築が今後カギ

 ここからは多少僕自身の推論が入る。YouTubeがGoogleと異なるのは、彼らが映像を勝手にネット上から集めてくるのではなく、ユーザーにアップロードしてもらって初めて意味をなす「CGM」である、という点である。この点で、ひたすらオーガニックサーチの研究に没頭していれば良かったGoogleとは、少し向かうべき方向が変わってくる。ユーザーがアップロードするコンテンツをたくさん蓄積するためには、当たり前だがアップロードするユーザーをリスペクトし、囲い込むことがまず必要だ。彼らが今、最も戦略的にフォーカスしているのは、だから恐らく「映像をアップロードするユーザーの数」を増やすことだろう。

 そのためにはまず、表現者たる彼らに最大限の自由と利便性を提供することだ。そして、e-Mailアドレスをしっかり把握することで、緊密に連絡が取れるようデータベースを常に洗い替えしておく。おそらく、今後数ヶ月以内にYouTubeは動画への広告の自動挿入とコンテンツ-広告の自動マッチングの技術を開発し、動画に挿入された広告が視聴された回数に応じて表現者のユーザーに広告収入を還元する「動画版Adsense」をリリースするだろう。

 面白い映像をアップしてたくさんの人に見てもらえた表現者の手元に、1本で何万円という広告収入が転がり込んでくる可能性がある。すでにNBCがPodcastingで配信している有料番組では、1DLあたりのマージンが$1.50という数字で「美味しすぎる」という話が出ている。プロの制作した動画でもこの程度のリターンがあれば「十分すぎる儲け」と言えるのであれば、仮に動画に挿入する広告のフィーをこの10分の1とし、YouTubeが50%のマージンを取ったとしても、1000PVを獲得した動画をアップした表現者の取り分は8000円ぐらいになる。トップページに載っている、何万というPVをたたき出した動画などは、何十万円の収入にもなるのではないか。

 というわけで、次にネットで小銭を稼ぎたい人は、今のうちに面白い自作のショートフィルムをたくさん作り貯めておくか、そういうものを作るノウハウを研究したほうが良い。コンテンツは初動がすべてである。今年の後半から来年にかけて、「YouTubeバブル」の津波がやってくる気がする。

参考:ブロードバンド2.0(池田信夫blog)
   YouTubeを強くするのは動画版AdWordsと家電連携だ(キャズムを超えろ!)

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コメント

んなわけない

投稿: とおりすがり | 2006/07/08 13:36

でも、そうだといいなあと夢くらいは見られるね。

投稿: 通りすがり | 2006/07/08 14:20

なんかトラフィックという言葉の使い方に違和感。
つーか、他に適当な言葉はなかったんか。

投稿: 通りすがり | 2006/07/08 16:34

>YouTube側のページにはトラックバックなどの機能がないため、同じ映像を紹介している他のサイトを探し出すことが極めて難しい。つまり、YouTubeに入ってくる方向のトラフィックはたくさんあるが、YouTubeから外部へのトラフィックは発生しない。

"Links to this video:" っていうのがその機能だと思うのですが、、、。

投稿: 通りすがり | 2006/07/08 19:25

そういやW-ZERO3esはFlash対応のおかげでYouTubeの動画も鑑賞できるみたいですね。

国内でのwindowsモバイルの普及はこの辺がキーポイントになりそうで。前にエントリした普及はまだまだかも、という意見は早々と撤回しそうな雰囲気です。まあうれしい誤算ではありますが。

投稿: mgkiller | 2006/07/09 04:41

ごめん。トラバ通ってなかったけど、このエントリ本文中でとりあげてる。


ショートフイルム、この前10分くらいの短い奴を友達と作ったけど、それでも8万円くらいはかかった。
カメラと編集ソフトの金15万円を別にしても。

友達や自分だからタダだけど、人員的には8人日(8時間換算)
編集作業日が5人日かかってる。


正直、上の計算じゃあ商売にするのには難しい。プロがおいしいって言ってるのは、既存の使いまわしだからだろ?

映像1回創ってみろって。勉強だと思って。

投稿: 孝好 | 2006/07/16 10:56

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