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2006/01/09

新年のごあいさつとメディア業界についての予感

 あけましておめでとうございます。更新再開が大変遅くなったのは、ごらんの通り1年ぶりのデザイン&コンセプト・リニューアルをくわだてていたからでした。今年もよろしくお願いします。

 今年の年末年始は家の中とか持ち帰りの仕事とかいろいろあり、ずっと自宅で過ごしていましたが、そしたら思いっきり寝正月というか冬眠正月というか。外があまりに寒いものだから家族全員で引きこもり三昧、体重も爆増で、年明けから激しく焦りまくりの2006年です。

 メディア業界は、さっそく年初から何やら雲行きが怪しい。そんな状況を象徴する2つの記事を見つけたのでちょっとご紹介。

 1つは、日経ビジネスが年明けから連載開始した「TVウォーズ」の本誌連動企画。本誌のほうはまだ読んでないが、ウェブには大リーガーの松井秀喜と、橋本NHK会長、氏家日テレ取締役会議長3人のインタビューが掲載されている。

 テレビ業界の経営トップ2人の発言は、要旨をまとめると「今のフレームは変えたくないし、変わらない」という一言に尽きる。それをNHK的にやんわりと言うか、ナベツネの盟友らしくべらんめえ調で脱線しながらしゃべるかだけの違いなのだが、氏家氏の脱線ぶりが結構面白い。これが、テレビに限らずメディア業界のトップの典型的な本音というかレトリック、といってもいいと思う。

 ツッコミを入れる記者の質問もちょっとぶれていて、初めのほうで「通信と放送が融合したら、コンテンツをタダで流すだけでなく有料販売などで2次利用していくべきではないか」って振っているのに、途中から氏家氏が「メディアの最も重要な役割とは報道の内容についての客観性、信憑性の検証だ」という、テレビ業界の現場が誰も信じてもないようなテーゼ(笑)を掲げて記者を煙に巻いたために、ツッコミの矛先がうやむやになってしまい、結局話が核心に触れずに終わってしまっている。

 テレビ業界の今後を考える場合の「核心」とは何だろう。それは広告だ。氏家氏もその発言の中で「広告売り上げは成長から安定に入ったが、経済成長率と同じ程度は成長していく」と見通しを語っている。まあ、映像広告という点で見ればその通りかもしれない。だが、問題はそのパイの分配の構図だ。

 昨年、すでにラジオがネットに広告売り上げを抜かれた。そのネットがいよいよブロードバンドの普及と共にマス化し、映像コンテンツにまで本格進出し始めたのも2005年の特徴だったと思う。

 今のネットには個人や組織の著作者名がついていない、「どこの誰かも分からない」人の作ったテキストコンテンツが大量に氾濫している。ネットがコンテンツで強いのは、こういう「コンテンツを作る権利」を一般人に解放する機能を持っているからだ。今はまだ一般のユーザーが映像コンテンツを気軽に作ってアップするような状況はどこにもないが、Googleがオンデマンド映像配信を有料で請け負うサービスを始めるとリリースしたから、この市場も立ち上がりのためのインフラは確立しつつある。

 となると、氏家氏の言うような、市民記者だか一般人だかが作った嘘だか本当だかも分からないネタ映像のネット上での大量洪水に、たぶん視聴者から見たら大して区別のつかないレベルのテレビ局の映像コンテンツが押し流されるような時代が来るのも、もはや時間の問題と言って間違いないだろう。

 で、その頃にはGoogle様かどこぞのベンチャー企業が、他人の作った映像の内容をセマンティックに解析してその間に適切なCMを挟む技術を開発しているだろうから、映像広告の市場のテレビと広告代理店による独占が破れるのも、これまた時間の問題だろうと思う。

 というように、ほぼ最後の「寡占メディア市場」と思われていたテレビ業界にさえ、ネットとの市場のパイの分配争いがひたひたと迫ってくる足音が聞こえ始めたのが2005年だった。

 年後半にはNHKの民営化という話題もあったが、今の動きを見ていると、政府は少なくともNHKに「コンテンツ」の市場は開放しても、「広告」の市場への参入は許さないような気がしている。つまり、NHKは適当にコンテンツを有料販売することで生計を立てつつ、事業規模の縮小を粛々と進めましょう、というのが政治的な落としどころになるんじゃないだろうか。民放連会長としての氏家氏の“仕事”は、NHKの広告市場への参入を断固阻止する、これだけだろう。したがって、テレビ「業界」の今後を考えると、NHKの存在は大した問題ではないようにも思える。

 ただ、問題は氏家氏が意図的に触れなかったのかどうかはともかく、現実の問題としてテレビ業界に「広告のパイの分配方式を現状維持する」ための経営努力が可能なのか、ということにある。むしろここはテレビ業界と表裏一体になって広告の市場構造を維持してきた電博という広告代理店の側の問題であるとも言える。

 この点で、昨年末に電通からGoogleに転職したタカヒロ氏のブログmediologic.comの「広告業界の人材枯渇に関する一文」という今月6日のエントリが、広告ビジネスの置かれた状況を非常にストレートに指摘していて面白い。というか、この文章、昨年3月に僕が書いていたこんなコラムとそっくりだと思うのは僕だけか。

 インターネットが普及した結果、一介の個人や事業会社にとっても適切な戦略さえ立てれば「メディア」的になることは簡単にできるようになっている。つまり、広告でもテレビでも雑誌でも、「メディア」業にかかわったことのある人材がその能力を生かせる可能性の領域というのは、飛躍的に広がっているのだ。

 逆に言えば、これまで多くの事業会社にとって「こんな良い製品、良いサービスがあるのに、まだ見ぬ顧客へのコミュニケーションの手段が『既存のマスメディアに露出すること』しかないので、その価値を届けられない」という事業戦略上のボトルネックはどんどん緩くなっていると言える。そのことを直感した経営者と、メディアビジネスを経験したことのある人材とが出会えば、すごくハッピーなことが起こると思うのだけどな。

 というわけで、これからもマーケティングやメディアという切り口から世の中を見て思ったことを、綴っていきたいと思います。今年もぜひご愛読をよろしくお願いします。

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コメント

民放連会長は日枝さんだよん。
訂正しといて。


氏家さんは前会長。
確か視聴率不祥事の時に辞めた。

投稿: 孝好 | 2006/01/09 15:28

「ちわー!グーグルでーす。」
「ご苦労様、今日はこれとこれね。全部代金引換です。」
「今の時間なんで明日のお届けで、こちら控えです。」
「はい。」
「それから、今度ウチが音楽・映像配信もやることになったんですよ。これパンフです。」
「へえ、安いわねえ。グーグルさんはご商売が盛んでいいわね。」
「ええ、うちのシステムは他より新しいんで。もし他社さんでご利用でしたらお得意様用の見積もり出しますよ。」
「そうね、グーグルさんのおかげでネット小売が楽になったわ。」
「おかげでお店の競争は厳しいみたいですけどね。」
「うちは頑張るしかないわね、お客さんの数は変わらないんだし。」
「それじゃ、お試しでも使ってみてくださいね。細かい事もご相談に乗りますんで。」
「はい、それじゃよろしくお願いね。」
「ハイ、毎度ありがとうございマース!」

投稿: o | 2006/01/09 15:50

>昨年、すでに雑誌はネットに広告売り上げを抜かれた。

ネットに抜かれたのはラジオじゃなかったっけ?

投稿: FiresideChats | 2006/01/09 16:45

うえー、年初からいきなりぼこぼこ。ご指摘ありがとうございますー。それぞれ訂正させてもらいました。>孝好さん、FiresideChatsさん

なんか三河屋さんみたいなグーグルですな。そんなに牧歌的なら言うことないんですが、どっちかっつーと無言で迫ってくる的なイメージが…。>oさん

投稿: R30@管理人 | 2006/01/09 18:06

管理人様、
トラックバックの件、わざわざご連絡いただきまして、ありがとうございます。
親切なご対応、感謝いたします。
とても楽しい内容だと思いましたので、これからも拝見させていただければと思います。

投稿: chocolatier | 2006/01/10 09:50

 新装開店おめでとうございます。

 春頃関東方面出没の件ですが、頃合はだいたい4月上旬頃かと。基本的に初筍が取れてからということで算段しているので、中~下旬にずれ込むかもしれません。
 奥方、筍の調理とか出来ますか? ダメそうなら持って行かないので、そのへんも通告していただければ幸甚。対応可のようでしたら、3~5本程度を目処に進上予定。閲覧、いたずら書込み等で随分楽しませて戴いた返礼ですので、お気遣いなさらず。

>舌禍系ブログ

 非常に正直で、宜しいんじゃないかと。

投稿: 私 | 2006/01/12 02:18

うんこの書き込み好きだったから再開してよ

投稿: >私 | 2006/01/13 02:38

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