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2006/01/29

Mash it up!!

大豆をマッシュアップ! 金曜日に突然思い立って、土曜日から温泉旅行に行ってきましたですよ。もう、大出費でございます。でも、本当に久しぶりにのんびりできた。雪国だったので高さ3メートル近い積雪も目の当たりにしたし、日曜日はスカッと晴れたので温泉の近くにある小振りなスキー場に行って子供を遊ばせてきた。とても楽しかった。

 帰ってきてから、急いで取りかかったのが「マッシュアップ」。マッシュアップって言っても、別にAmazonとGoogleとYahooとはてなを2.0しようっていうんじゃなくて(笑)、大豆をすりつぶそうという企画。つまり味噌造り。温泉に行く前に、大豆を1kg、水に浸けておいたので、さっそく火にかけてみました。

 手作り味噌にチャレンジするのは、実は今回が初めて。前からやりたいやりたいと思っていたのだけど、材料を買い集めるのが面倒くさくてやらずじまいだった。今回、たまたま生協で「我が家のみそを作ろう!」という企画があって、材料をまとめて売っていたので買ってみた次第。

 使った材料は以下の通り。

  • 十勝産大豆 1kg(588円)
  • 米こうじ 1kg(1134円)
  • 塩 1kg(203円)
  • 種味噌 750g(354円)
あと、5.4リットル入りの味噌かめとポテトマッシャーを買っておいた。

 まず、大豆1kgをざっと洗ったあと鍋に入れ、3倍ぐらいの水に浸けて一晩置いておく。次に水を入れ替えて、鍋を火にかける。煮立ってから最初30分ぐらいはすごい勢いでアクが出てくるが、これを取りながら水が減ってくると水を足し、3時間ぐらい煮る。今回、念入りに少し長め(4時間ほど)煮たので、大豆は十分柔らかかった。

大豆とこうじ、塩を撹拌中 大豆が柔らかく煮えたら、ざるにあけて煮汁を切り、鍋に戻してすりつぶす。この時、煮汁を少し(200~300ml)取っておき、後で練る時の種水にする。今回、一番大変だったのが、この「すりつぶし」の工程だった。まず、パンパンにふくれあがった大豆をすりつぶせるような大きな容器が、そもそもない。僕はパスタ鍋で大豆を煮て、すりつぶしはボウルでやろうと考えていたのだが、いざボウルに大豆をあけてマッシャーでつぶそうとすると、ふちから大豆があふれてしまう。しょうがないので、大豆をゆでたパスタ鍋にまた戻し、その中ですりつぶすことにした。

 僕がよく料理のレシピのネタ元にしているのは「クッキングパパ」なのだが、かの漫画では煮た大豆を二重のビニル袋に入れ、足で踏んでつぶすことになっている。しかし、ちょうど家に透明なビニル袋がないこともあり、今回は生協のお勧めどおりポテトマッシャーでつぶした。

 これは結構正解だった。ポテトマッシャーをひねりながら大豆に押しつけると、非常にきれいに大豆がすりつぶせた。ポテトマッシャーばんざい。これからは大豆だけじゃなくて、じゃがいもとかWeb2.0とか、いろいろなものをマッシャーでマッシュアップしてみようと思った(しつこい)。

 大豆をすりつぶせたら、次はかめの底に種味噌を塗りつける。種味噌は250gのうち半分をかめの底塗り用、もう半分をつぶした大豆に混ぜ込むのに使う。といってもこのあたりは適当。

 種味噌を塗ったら、ボウルに1kgの米こうじと490gの塩を入れてささっと混ぜ、それをすりつぶした大豆と種味噌の入った鍋の中にどーっと入れる。あとはハンバーグと同じ要領で、全部を手でぐっちゃぐっちゃとよくかき混ぜる。すりつぶした大豆が冷めて固くなっていたら、種水を少し足して柔らかくして混ぜる。種水にも塩を10%強入れて、塩分濃度が全体で一定になるようにするのがポイントらしい。

かめに詰め終わりました で、全部がよく混ざったら、おにぎり大の団子を作ってかめの底に並べていく。「クッキングパパ」によると、団子をかめに投げつけるようにして詰め、空気を抜くと書いてあるが、本気で投げるとかめの外側にビーンボールが飛んでいきかねないので自制。何とかきれいに詰めて、味噌の上にラップをぴったりと張り、塩袋の重石を入れてふたをし、新聞紙をかぶせて保存した。

 やってみると、毎年夏にやっている梅干しよりずっと楽ちんだった。これで4kg、我が家の半年分の味噌ができる予定。梅干しと違って、手作り味噌は原材料費を考えると、市販の味噌と大して変わらない(かめやマッシャーなど道具費を考えれば大幅オーバー)わけだが、その分おいしければいいかなと思っている。

 インターネットで見てみたら、生協でなくとも安く味噌の材料が手に入れられるネット通販のサイトなどもあったので、味をしめたら少し仕込む量を増やしてみようかな。でも最大の問題は、1kg以上の大豆を煮れる鍋がないことかも。やっぱり1kgずつ作るのが限界かもなー。

09:22 午後 グルメ・クッキング コメント (4) トラックバック (3)

2006/01/25

Disney、Pixarを74億ドルで買収

 なったみたいですねえ。今、テレビ東京のニュースで流れてました。買収金額は74億ドル、Steve JobsはDisneyの取締役になるそうだ。とりあえずまだ欧米メディアにしか出てないのでUSATODAYのニュースでもはっとく。

 書かれているニュースによると、買収は全部DisneyとPixarの株式交換。Disneyの時価総額が500億ドルだから、Pixarの評価額が74億ドルということは、Pixar株主はDisneyの7分の1の株を手に入れたことになる。JobsはDisneyの筆頭株主になるそうだ。あと、John Lasseterがアニメスタジオのディレクターに加えて、Disneyのテーマパーク部門のアドバイザーにもなるそうな。

 DisneyのPixar買収は、まあなるべくしてなったというか、このディールを落としたらDisneyもPixarも大馬鹿者として歴史に名をとどめただろうぐらいの言われようだったので、まあ良かったというか。

 むしろ、ここでの焦点はJobsがDisneyにどのぐらいの影響力を持つようになるかっていうことだったと思うのだけど、筆頭株主で取締役ですか。筆頭っつっても10%弱なんだろうから、取締役に入れてもらったっていうのはJobsにとってかなり大きな成果なんじゃないだろうか。JobsがDisneyでどんなことをやろうとするのか、興味津々だ。Appleのハードとの組み合わせを考えたりすると、すごいことになりそう。

 あと、これから楽しみなのは、Pixarのクリエイティビティの源泉であるJohn Lasseterがテーマパーク部門のクリエイティブ・アドバイザーになるということ。これまでDisneyの中のPixarキャラクターは、ライセンスのあるものだけの控えめな露出だったりしたので、もっと大々的にいろいろとキャラやストーリーを使ったアトラクションがテーマパークに出てくるといいなあ。

 というわけで、柄にもなくミーハーなエントリでしたが、今日はとっても忙しいのでこんなところで。

07:25 午前 経済・政治・国際 コメント (8) トラックバック (12)

2006/01/18

ライブドア死すともデイトレは死なず

 ライブドアの件、盛り上がってますね。オジャマモン証人喚問にネタをぶつける陰謀論説が出回ってますが、こんなにみんなが聞いた瞬間に連想するような「陰謀」は、そもそも陰謀じゃないってばさ(笑)。陰謀はだまそうとしてる相手が気が付いたら、意味ないんだから。

 まあ、あえてその黒幕がいるとしたら、政府内の財政再建優先派の人たちじゃない?つまり、このまま日経平均がぐんぐん上がっていったら、そりゃ誰もが高所恐怖症になって「デフレは終わったんだ、金融を引き締めろ」って叫び始めるから、防御戦を張るためにまずは相場加熱の元凶たるデイトレ銘柄の総本山に冷や水をぶっかけとけ、となった可能性はあると思う。ま、これも妄想の範疇の話ですが。

 だから、これはある意味「デイトレ投資家に媚びを売るような企業はこれからも潰しますよ」という見せしめでもあると思うし、そういう資本戦略を描いてライブドアの金魚の糞作戦を実行しようと考えていた経営者や証券屋さんへの警告でもあると思う。あるいは、既にそういう戦略をやってるところはさっさと下降乱気流に巻き込まれて死んでくださいというようなね。

 その他いろいろな陰謀論メニューは極東ブログの本家がご用意くださっているのでそちらをご参考にお好みをご注文いただくとして、ちょっと気にかかったのはライブドアPJに登録したらしい神田敏晶氏@KNNの「ライブドア家宅捜査とオールドエコノミー的感情論」というオピニオン記事だ。

 ライブドアが強制捜査を受けたとなった瞬間にこれまでの話を掘り返して叩きまくるマスコミの報道ぶりを、「ネット時代の先端企業が直面した今回の問題は、日本のネット産業とオールドエコノミー(つまりマスコミ)との確執」と切って捨ててる。

 罪状も分からないまま特捜が強制捜査に入ったから、マスコミ屋さんはみんな情報がないままニュース枠をでっちあげなきゃいけないんで苦労してるだけであって、あれこれ推測してバラエティやワイドニュースのネタにするテレビ局のお調子者ぶりなんて、別に今に始まったことじゃないでしょ。それとも、ほとんどの質問に証言拒否したオジャマモンの証人喚問を延々流しまくって、ライブドアの話題は「特捜が強制捜査に入ったそうです。目的は何かよく分かりません。そゆことで、じゃっ!」だけで終わらせろとでも?

 まあ、やっぱりマスコミ憎しなネタがネットでは注目浴びるのは事実だから、そっちに振りたいのはよく分かるんだけどさ。しかし「マスコミのやってることのほうが風説の流布だろ」とか、「たかがライブドアくらいの社会の甘さを活用して利益を上げる企業にふりまわされる日本の証券制度や法制度の方が時代遅れ」とか、ちょっとこっちのほうがトンデモ説な感じがするけどなあ。磯崎氏もisologueで言っているとおり、「今取り上げる話なのか?」という疑問はあるにせよ、事実なら法律違反は法律違反ですから。

 あと、気になったのは、ライブドアのビジネスモデルを「目立ちながら、儲けるというユニークな視点は絶賛したい」と褒めてること。いや、これって別にライブドアのお家芸でも何でもなくて、ソフトバンク孫正義の「説明会経営」のコピーなんですけど。どこがユニークですか?

 そもそも日本の証券市場って、バブル崩壊後の大企業は配当も低くて株価も上がらないから、ずっと投資に対するリターンが低かった。だから、個人投資家がそういう企業の株を長期保有していても全然儲からなかった。そうすると、個人投資家の目がブルーチップ(優良大企業)の長期保有ではなく、新興中小銘柄の短期投資(デイトレーディング)に向かう。

 で、短期投資する人というのは、配当性向よりも流動性やボラティリティ(株価の振れ幅の大きさ)のほうを重視する。孫正義は、ヤフーという株価ボラティリティの高い高成長企業を生み、一躍人気になった。ただ、ヤフーは発行済み株式数が(分割を繰り返した今でも)3000万株と少なく、そのうえかつては80%以上を米ヤフーとソフトバンクで握っていた。だから、ボラティリティは高いものの、その分株価も猛烈に高く(1株百万円を超える)、流動性は当然ものすごく低かった。

 これに対し、ライブドアは昨年末の時点で発行済み株式数は10億株、しかも固定株主の比率は30%程度に過ぎない。株の売買単価も安く、個人投資家にとっては手が出しやすい。しかも毎月、毎週のようにM&Aや新サービス、CEOの目立つ行動が報じられたりして、売買のネタには事欠かない。株価も当然それなりに活発に動くわけで、デイトレーダーにとっては「理想的な投機銘柄」である。

 ホリエモン自身も、おそらく自社が「短期売買を投資スタイルとする個人投資家」という、資本市場における「(急成長中の)顧客セグメント」のニーズに最もよく応えている企業という自負はあっただろう。ライブドアが頻繁なM&Aを繰り返したり、株式をいじったりしてみせるのも、根本にはそうした顧客ニーズがあるところへの合理的行動なのだ。

 マスコミが指摘するべきだとしたら、「六本木ヒルズ族に対する懲罰」とかそういうことではなく、「デイトレ投資家に最適化するような行動を取る企業が出てくる日本の証券市場の構造をどうにかしろよ」ということなんじゃないのか。今の日本では、楽天なんかまさにそうだけど、株式の長期保有にふさわしい「堅気な企業」になろうとした途端に株価が下落し、M&Aなどを使った成長戦略が描けなくなってしまう。資本市場のせいで、堅気になりたくてもなれないというジレンマがあるのだ。

 これって誰のせいかと言われれば、長期保有株主をコケにしまくってきたNTTを初めとする日本の伝統的大企業の資本政策のせいであり、また投資家の長期的利益を尊重した経営をするように大企業に株式市場を通じた圧力をかけてこなかった「ぬるま湯の創造者」たる年金基金や投資信託といった大口機関投資家のせいである。つまり構造的な問題なのですよ。

 だから、たとえ今ライブドアを潰しても、日本の証券市場では短期売買の方が儲かるという(個人)投資家の信念を変えない限り、第二、第三のライブドアは生まれてくる。ライブドアの存在は、資本市場のプレーヤーの信念と持ちつ持たれつなのだから。霞ヶ関の方面に黒幕な方々がいらっしゃるようでしたら、ぜひそこんとこをよくお考えくださいな。

 念のため付け足しておくと、神田氏@KNNの「もし証取法違反が事実だったとしても、最高5億円の罰金はライブドアの経営自体を窮地に追い込むことにはなり得ない」という指摘は、まったくその通りだと思う。ライブドア本体は「流動性とボラティリティの高い株式」を提供するのが主な商売の会社かも知れないが、その子会社には見るべきものを持った事業会社がたくさんある。

 だから、個人投資家の皆さんはここぞとばかりにライブドアの上場事業子会社の株を拾いまくっておくと良い。セシール、ライブドアオート、ターボリナックスなどお勧めだと思うよ。そういう企業の株は、ライブドア本体の資本市場におけるメッキがはげ落ちたとしても、逆にこれから価値が出てくるだろうから。ま、株式投資はあくまで自己責任でよろしくってことで。

(13:10追記) ちょうどこの記事のおかげで、さっきアクセスカウンターが300万を超えたっぽい。ここまで続けてきた自分を褒めてあげたい(嘘)。ご愛読ありがとうございます>皆様。

12:11 午後 経済・政治・国際 コメント (33) トラックバック (30)

2006/01/14

MS+AMD vs Intel+Apple という構図

 シスコで行われているMac World Expo 2006でのスティーブ・ジョブズの講演内容を日経ITProの中田記者が大胆に予測し、ものの見事に外したことで、その反省の弁の記事が出て、コメント欄が盛り上がっている。面白いのは、コメントの内容が「当てずっぽうでいい加減なこと言うな」という批判と、「年に1度のお祭りなんだから、こういう記事もありでしょ、がんばって」という激励と、見事に2つに分かれることだ。

 中田記者がジョブズの講演の前日に出した予測は、「AppleがIntelのViivプラットフォームに対応したMacを発売するだろう」というものだ。Appleとスティーブ・ジョブズの戦略をよく観察している人なら「それはあり得ない」とすぐ分かるのだが、しかしそれが分かっている人なんて非常に少ないだろう。予測記事を批判している人の中にも、それが分かっているように見受けられる人はほとんどいない。「マスコミは間違った事書くな」と繰り返すだけの、実に低レベルな批判ばかりだ。

 むしろ「予測を外した」という以外の点においては、僕は中田記者が今のPCメーカーやデバイスメーカーがどこに集中して戦略的な意思決定をしようとしているかを良く分析して、ポイントをつかんでいると思う。こういう「予測外し」とその反省をリアルタイムで発表していくことはとても有意義だと思うので、彼がどのへんで的を射ていて、どこで外したかを少し分析してみたい。

 最初の記事「Jobs氏は明日『AppleViiv』を発表するだろう」で、中田記者はAppleがIntelのメディア・パソコン規格「Viiv」に乗ると予測する理由を、デジタルテレビ放送の標準DRM(デジタル著作権管理)規格と目される「DTCP-IP」を擁するViivに対して、「iTunesのDRM」の域を超えないAppleのFairPlayが結局はぶら下がらざるを得ないだろうという読みに求めている。

 ジョブズという経営者の異常なまでの負けず嫌い、プライド、そして執念深さを知らなかった、というのが彼の予測が外れた最大の理由ではあろうが、しかしその目の付けどころ自体は悪くない。

 この記事の中で強調されている見立ては大きく2つある。1つめは、「ビデオ+テレビ」あるいは「DVDプレーヤー+テレビ」というおきまりのパターンからどう変化するかが読めない次世代ホームメディアの主導権を巡る争いというのは、つまるところ「DRMのデファクト」を巡る争いのことだ、という見立てである。これはすごく正しい。あらゆるハードウェアがパソコン化、つまり誰でも入手できるパーツを寄せ集めたコモディティに向かっている中、かつてのVHSやCDのように、記録媒体やハードの規格を握っただけでは市場を占有できないということは、もう誰でも分かる。

 では、ホームメディアの市場は完全にDellのような「コモディティを圧倒的な生産性で安く作りまくる企業」だけが勝つ世界になるのか?といわれると、どうもそういうふうにはなりそうもない。ユーザーが求めるのはやはりデザインの格好良さや使い勝手の絶えざる革新だ。

 ここで、使っているパーツはコモディティでも、単なる見てくれの猿真似では到底達し得ない、本当のデザイン性と使い勝手の良さを組み合わせた強みを作ることが可能であるのを証明してくれたのが、AppleのiPodとiTunesだった。Intelが「Viiv」というメディア規格プラットフォームを打ち出し、その核心にDRMを据えたのも、あらゆるものがコピー可能なデジタル技術の世界で、DRMこそが「他の誰にも真似できない自社だけの独占技術」になり得ることに気がついたからだ。

 中田記者の記事にもあるとおり、Viivの面白いところは、ただのDRM規格というだけでなく、プラグインによって他のDRMと接続できるという、「DRMのメタ規格」を目指しているところである。しかし、DRMというのは要するに暗号技術のことだから、これを他の企業が開発した暗号技術の規格に接続した時点で、その戦略的なコントロール機能を失う。

 今のAppleにとって、北米の携帯音楽プレーヤー市場で7~8割という圧倒的なシェアを握るDRMをメタDRM規格に開放するなんてことは、「今後、最新のIntelチップはAppleにしか提供しない」ぐらいの交換条件でも提示されない限りあり得ない選択肢だろう。その、将来とれるかどうかも分からないホームメディア市場がいくら欲しいからといって、現時点で持っている最大の武器をライバルに明け渡すという戦略判断をAppleが下すと考えたのは、どうみても中田記者の短絡だったと言うほかない。

 ただ、また別の角度から考えると、Appleにとってその動機が薄かったとしても、Intelから見た時にはそれだけの交換条件の提示があってもおかしくなかったのではないか、という読み方はあり得る。これが2つめの、デジタル機器の各レイヤーにおける個々のプレーヤーの製品戦略だ。

 中田記者の見立ては、ここでも非常に鋭い。自社製品の普及戦略を、あくまで法人あるいはビジネスユースから図ろうとしているのがMicrosoftとAMD、そうではなくて個人と家庭が自社製品普及のドライバー(原動力)と見ているのがApple、Google、そしてIntelではないか、というものだ。

 今後各社が打ち出してくる手によってはまた変わってくる部分もあるだろうが、この見立ては非常に興味深い。ビジネスユースの市場は、低価格化が進み製品あたりの利幅は薄くなるだろうが、将来の市場ニーズと規模とがある程度確実に読める。これに対し、パーソナルユースは(Appleのような)誰かがある日突然画期的なデザインや機能を持った製品を出すことにより、勢力図が急変したり新規市場が忽然と生まれたりといった可能性を常にはらむ。市場変化のリスクは高いが、その代わりイノベーティブな製品を出せればブランド価値や製品の利益率は一気に高まる。

 その意味で、これ以上利幅を落としたくないIntel、個人やスモールビジネスをパワーの源泉と見ているGoogleが、パーソナルユース市場での潜在力ナンバー1のAppleと、MS・AMDの「ビジネスユース」連合に対抗していつかは手を組むだろうと予想するのは、おかしなことでも何でもない。ただ、それが「今」のタイミングであるべきだったのかどうかということだけだ。そう考えていくと、中田記者の推測記事も学べるところが多いと思う。

 …と書いてみると、今のMicrosoftって、古川享氏もブログで嘆いていたけれど、PC草創期のIBMみたいな方向に向かってるように見えるよね。本当はPCやキーデバイスなどのハードメーカーとの強力なネットワークこそがMSの強みの根源だったはずなのに、いつの間にか自分自身のブランド力と技術力が強みだと錯覚してしまって、手堅いけれど面白くも何ともないビジネス市場に逃げ込もうとしているという。チップ屋さんやハード屋さんたちは、最高にイカしたイノベーションを別のところで日々起こしているというのに。MS、これから大丈夫だろうか?

 あと、付け足して言うと、あの記事に対して「責任ある媒体の記者たるものは根拠を持って予測をすべきだ、こんな与太記事飛ばしてる奴は首にしろ」とか批判してる人というのは、そもそもこれだけの企業戦略分析を積み上げたうえで立てられた憶測というのが、ジョブズの基調講演やAppleの製品リリースをそのまま「事実」として報道するより100倍も知恵と勇気が必要で、かつ学ぶところ(つまり読者にとっての価値)も大きいということを理解しない、「Web1.0」的な人なんだと思う。もっと言えば、そういう発想の人こそが、既存の企業でもやる気のある若手の才覚とイノベーションのタネを潰して回っているのだろう。

 マスコミを批判するのは自由だが、そういう勇気あるクリエイティビティを批判すること自体がマスメディアにおける言論の多様性を潰しているというか、まあ大げさに言うと「マスコミの健全さを殺す」役回りに立っていることを、あの記事に噛みついている人は少しは自覚した方が良い。念のため、あの記事のはてなブックマークからたどれるはてなダイアリーの言及エントリをざっと見て回ったが、はてなユーザーの中にはそういう批判的コメントをしている人は1人もいなかった。

 1人の記者を育てるのも潰すのも結局は読者である。その意味で、インターネットは本当に頭を使う労力を厭わない記者、勇気のある記者にとって最高の仕事環境を提供するようになってきたと、心から思う。

10:00 午前 パソコン・インターネット コメント (12) トラックバック (5)

2006/01/09

新年のごあいさつとメディア業界についての予感

 あけましておめでとうございます。更新再開が大変遅くなったのは、ごらんの通り1年ぶりのデザイン&コンセプト・リニューアルをくわだてていたからでした。今年もよろしくお願いします。

 今年の年末年始は家の中とか持ち帰りの仕事とかいろいろあり、ずっと自宅で過ごしていましたが、そしたら思いっきり寝正月というか冬眠正月というか。外があまりに寒いものだから家族全員で引きこもり三昧、体重も爆増で、年明けから激しく焦りまくりの2006年です。

 メディア業界は、さっそく年初から何やら雲行きが怪しい。そんな状況を象徴する2つの記事を見つけたのでちょっとご紹介。

 1つは、日経ビジネスが年明けから連載開始した「TVウォーズ」の本誌連動企画。本誌のほうはまだ読んでないが、ウェブには大リーガーの松井秀喜と、橋本NHK会長、氏家日テレ取締役会議長3人のインタビューが掲載されている。

 テレビ業界の経営トップ2人の発言は、要旨をまとめると「今のフレームは変えたくないし、変わらない」という一言に尽きる。それをNHK的にやんわりと言うか、ナベツネの盟友らしくべらんめえ調で脱線しながらしゃべるかだけの違いなのだが、氏家氏の脱線ぶりが結構面白い。これが、テレビに限らずメディア業界のトップの典型的な本音というかレトリック、といってもいいと思う。

 ツッコミを入れる記者の質問もちょっとぶれていて、初めのほうで「通信と放送が融合したら、コンテンツをタダで流すだけでなく有料販売などで2次利用していくべきではないか」って振っているのに、途中から氏家氏が「メディアの最も重要な役割とは報道の内容についての客観性、信憑性の検証だ」という、テレビ業界の現場が誰も信じてもないようなテーゼ(笑)を掲げて記者を煙に巻いたために、ツッコミの矛先がうやむやになってしまい、結局話が核心に触れずに終わってしまっている。

 テレビ業界の今後を考える場合の「核心」とは何だろう。それは広告だ。氏家氏もその発言の中で「広告売り上げは成長から安定に入ったが、経済成長率と同じ程度は成長していく」と見通しを語っている。まあ、映像広告という点で見ればその通りかもしれない。だが、問題はそのパイの分配の構図だ。

 昨年、すでにラジオがネットに広告売り上げを抜かれた。そのネットがいよいよブロードバンドの普及と共にマス化し、映像コンテンツにまで本格進出し始めたのも2005年の特徴だったと思う。

 今のネットには個人や組織の著作者名がついていない、「どこの誰かも分からない」人の作ったテキストコンテンツが大量に氾濫している。ネットがコンテンツで強いのは、こういう「コンテンツを作る権利」を一般人に解放する機能を持っているからだ。今はまだ一般のユーザーが映像コンテンツを気軽に作ってアップするような状況はどこにもないが、Googleがオンデマンド映像配信を有料で請け負うサービスを始めるとリリースしたから、この市場も立ち上がりのためのインフラは確立しつつある。

 となると、氏家氏の言うような、市民記者だか一般人だかが作った嘘だか本当だかも分からないネタ映像のネット上での大量洪水に、たぶん視聴者から見たら大して区別のつかないレベルのテレビ局の映像コンテンツが押し流されるような時代が来るのも、もはや時間の問題と言って間違いないだろう。

 で、その頃にはGoogle様かどこぞのベンチャー企業が、他人の作った映像の内容をセマンティックに解析してその間に適切なCMを挟む技術を開発しているだろうから、映像広告の市場のテレビと広告代理店による独占が破れるのも、これまた時間の問題だろうと思う。

 というように、ほぼ最後の「寡占メディア市場」と思われていたテレビ業界にさえ、ネットとの市場のパイの分配争いがひたひたと迫ってくる足音が聞こえ始めたのが2005年だった。

 年後半にはNHKの民営化という話題もあったが、今の動きを見ていると、政府は少なくともNHKに「コンテンツ」の市場は開放しても、「広告」の市場への参入は許さないような気がしている。つまり、NHKは適当にコンテンツを有料販売することで生計を立てつつ、事業規模の縮小を粛々と進めましょう、というのが政治的な落としどころになるんじゃないだろうか。民放連会長としての氏家氏の“仕事”は、NHKの広告市場への参入を断固阻止する、これだけだろう。したがって、テレビ「業界」の今後を考えると、NHKの存在は大した問題ではないようにも思える。

 ただ、問題は氏家氏が意図的に触れなかったのかどうかはともかく、現実の問題としてテレビ業界に「広告のパイの分配方式を現状維持する」ための経営努力が可能なのか、ということにある。むしろここはテレビ業界と表裏一体になって広告の市場構造を維持してきた電博という広告代理店の側の問題であるとも言える。

 この点で、昨年末に電通からGoogleに転職したタカヒロ氏のブログmediologic.comの「広告業界の人材枯渇に関する一文」という今月6日のエントリが、広告ビジネスの置かれた状況を非常にストレートに指摘していて面白い。というか、この文章、昨年3月に僕が書いていたこんなコラムとそっくりだと思うのは僕だけか。

 インターネットが普及した結果、一介の個人や事業会社にとっても適切な戦略さえ立てれば「メディア」的になることは簡単にできるようになっている。つまり、広告でもテレビでも雑誌でも、「メディア」業にかかわったことのある人材がその能力を生かせる可能性の領域というのは、飛躍的に広がっているのだ。

 逆に言えば、これまで多くの事業会社にとって「こんな良い製品、良いサービスがあるのに、まだ見ぬ顧客へのコミュニケーションの手段が『既存のマスメディアに露出すること』しかないので、その価値を届けられない」という事業戦略上のボトルネックはどんどん緩くなっていると言える。そのことを直感した経営者と、メディアビジネスを経験したことのある人材とが出会えば、すごくハッピーなことが起こると思うのだけどな。

 というわけで、これからもマーケティングやメディアという切り口から世の中を見て思ったことを、綴っていきたいと思います。今年もぜひご愛読をよろしくお願いします。

02:03 午後 日記・コラム・つぶやき コメント (7) トラックバック (5)