Video iPodに勝つためには何をすればいいか。
ある映像関連業界の人から表題のような相談を受けた。当面は投資家向けの説明をどうすればいいかっていう話だが、その向こうには今後5年ぐらいのスパンでどう事業をやっていけばいいかという話も含まれているっぽい。知るか、そんなこと。
とか切って捨てるのもかわいそうだし、まあ投資家向けの言い訳はいろいろとアドバイスをしてあげたのだけれど、ゼロベースで考えた時にiPod流のコンテンツ配信ビジネス破壊にどうキャッチアップできるかについて、ちょっと考えたことをまとめてみたい。
iPodでふつうに映像見られるようになったら、地デジとか1セグとかもう要らないし、という話はアイドル並みにちょうカッコイイ孝好先生がこちらとかこちらでお書きになっていらっしゃる。ま、その通りだろう。
携帯電話は、女子高生だろうが主婦だろうがビジネスマンだろうが、世の中から自分が孤立していないことを証明する唯一無二のコンタクト・ポイントである。その意味で、携帯電話の電池が切れることほど恐ろしいことはない。そして、これだけ液晶が高密度になりカメラが付き機能が増えているにもかかわらず、携帯電話の電池寿命というのは1990年代後半から進歩がない。
だから、この端末の上で映像コンテンツを1時間も見たりしたらどうなるか、世の中の人はほとんど完璧なまでに的確にその結果を予測できる。電池切れが起こって、その日の残り半分、充電器のある自宅にたどり着くまでは、自分が世の中から完全に隔離されるということを。何度も言うが、だから携帯電話で3分以上の映像を見ようと思う奴は絶対に出てこない。
「いや、でも別にそれが1セグケータイでなくてiPodだからって外で移動中とかにテレビ見ようとは思わないと思うなあ」と反論する人もいる。例えば、ハコフグマン氏などはそういう感想を述べている。これもまた、まったくその通りだ。
Video iPodの登場の意味は、「テレビ映像を持ち運べて見られるようになった」ことにあるのではない。ここを勘違いしてはいけない。実際のVideo iPodは、おそらく音楽を聴くのに使用時間の99%が使われるだろう。ではいったい何の意味があるのか。既に「映像コンテンツを有料ダウンロードして見る」という可能性が開かれたこと、そしてPodcastingを使って「定期的に購入する」という販売モデルが、既に可能になっていることだ。
iTunesのインストールベースはアップルが公表していないので分からないが、個人的にはiPodの国内累計販売台数の10倍近く、約500~600万ユーザは行っているんじゃないかと思う。例えば、毎週見てもらえるような15分程度の短い映像コンテンツを作り、このユーザーユニバースのうちの1%に定期購入してもらえたとしよう。米国並みに、1回300円の販売収益が出たとすると、それだけで週に1500万円の売り上げが上がることになる!!
アニメやヒーローものなど、ユーザーのsticknessの高い映像コンテンツを作っている制作プロダクションなら、(地上波での放送さえ考えなくて良いなら)馬鹿馬鹿しくて民放キー局などに番組売るのを止めたくなるだろう。ま、そういうことである。しかもこれで番組中に広告主の販促物を映し込んだりしてインフォマーシャルの手法を盛り込んでいけば、バックドアから広告収入も同時に受け取れることになる。そうなると、制作会社は企画力と営業力さえあれば、キー局なんかすっ飛ばしても良いわけだ。iTunesばんざい!電波利権をぶっ壊せ!(笑)
っていう話は、ここの本筋ではない。「映像配信ビジネスで、iPodに勝つ手はあるか?」というのがここでのテーマだ。
音楽の分野において、今さらAppleの確立したポジションをひっくり返すことは、並大抵のことではない。2200万というユーザーベースとほとんどの音楽会社がコンテンツを提供しているというインフラを無視してかかることなど、そう簡単にはできないからだ。でも、ここで述べたようなVideo iPodの戦略は「Video対応のiTunesを今のiTunesユーザーがダウンロード」して、なおかつ「主要な映像コンテンツホルダーがAppleにコンテンツを提供」すればという前提付きだ。前者の蓋然性はかなり高いものの、後者に至ってはまだどうなるか分からない。
だから、映像分野でソニーや松下といった日本勢が音楽業界の轍を踏みたくないのであれば、とにかく今からコンテンツホルダーを囲い込みまくることである。直取引でもコンソーシアム形式でも、何でもいい。とにかくAppleに卸すよりこちらに卸した方がメリットが大きいというユーザー向け映像配信インフラを大急ぎで築いて、それにコンテンツホルダーをかき集めて載せておくことだろう。
ところが、コンテンツ屋というのは、自分が儲からないプラットフォームにコンテンツを売っていくことには非常に慎重なものである。だから、コンテンツ屋を動かしたければ、iTunes並みに利用が手軽なコンテンツ配信インフラをまず軽くユーザベースで100~200万ほど築いてしまう必要がある。いったい、どうやって?
一番簡単なのは、パソコンのソフトを作ってタダでダウンロードさせることだ。だけど、ダウンロードさせること自体をユーザーの自発性に頼らなければいけないのでは、これは相当のメリットがなければユーザーは動かない。とすれば、あとはあの手しかない。「ヤフーBB商法」である。
一番安い携帯音楽プレーヤーを、街頭で100万個ぐらいタダで配ってしまうのだ。で、パソコンとの接続には専用ソフトがなければダメで、それをダウンロードするとごくわずかの月額課金がかかるようにする。最初から料金を取るのは大変だから、コンテンツ購入にも使える「ソフト使用料最大3ヶ月無料の1000円クーポン」というのを無料配布するプレーヤーにつけておき、月額200~300円の課金を最初は無料にして最大限楽しんでもらい、生活にとけ込んだところで課金を始めるという仕組みがいい。定額課金とインターネット接続環境を既に持っているユーザーがターゲットなので、端末ばらまきは既存の大手ISPを通じて全ユーザーに送りつけてしまうのもいいだろう。
インフラができてしまえば、あとはもっといろいろな機能のついた高価格のプレーヤーをアップセルするなり、魅力的なコンテンツをガンガンダウンロードさせるなり、いろいろと儲ける手口もできるだろう。
だが、ここまで達するのにおそらく間接コストを含めて400~500億円の初期投資は優にかかる。それだけの赤字を垂れ流してリッチコンテンツ配信ビジネスの主導権をアップルから奪い返そうというソフトバンクのような豪胆な日本企業が、いったい出てくるだろうか。その時の競争相手はAppleだけでなく、そういう業界破壊的なアプローチを取ることに猛反発する同業他社でもある。また、日本国内で仮にシェアを奪回できたとしても、海外市場を握るスケールメリットではAppleに最後まで勝てないかもしれない。
といったことを考えると、もはや第2第3のソフトバンクなど出てこないかも知れないね。楽天とか、TBSなんていう電波利権業者買収ごときに900億もつぎ込んでる場合じゃないでしょ。ライブドアなんか、フジテレビから1000億もゲットしたんだったらこっちにぶちこんでみない?あーあ、やっぱりダメかなあ。みんなiPodの軍門に下れってか。
しっかしさあ、これって総務省とか自民党政治家とか一部国粋主義的なジャーナリズムとかが一番嫌がってる、「外資にメディア業界の主導権を握られる」構図そのものじゃねえの?そこんとこ、どうよ?いや、僕は別にまったくどうでもいいと思うんだけどさ。
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コメント
Appleが嫌がることをすればいいだけだと思う。
Macと同じアプローチ。つまりシステムはオープンにして競合ポイントを規模だけにシフトさせる。
IPの諸々のように認証局、課金、ショーケース、コンセルジェを独立させたうえで共存させ
ユーザー側だけでなく弱小コンテンツメーカーでもエントリーできるオープンで自由度の高い環境を
規格化し誰でも勝手に使えるようにする。
Appleは狼少年だから誰も手を組みたがらないからバトルロイヤルに弱い。
そして実はAppleはコンテンツの販売ではあまり儲かっていない。iPodという誰でも作れる箱で
儲かっているというビジネスにも注目すべきだ。DRMはタダの箱を売るためのギミックに過ぎない。
Appleと同じ方法、価値観で勝つことは出来ない。それがAppleが用意したゲームだからだ。
しかし別の視点で見ればいくらでも勝てるだろ、と思うのだった。
投稿: b | 2005/10/15 13:22
VideoiPodの意味がわからん。
中古ノートじゃだめなの?
そろそろマカーにパンピーはついていけなくなってきておる。
投稿: Cyberbob:-) | 2005/10/15 13:42
>iTunesのインストールベースはアップルが公表していないので分からないが
この前のJobsのプレゼンで大まかな数字は発表していましたね。
ハッタリかもしれませんが、そんなに外れていないとも思える。
投稿: otsune | 2005/10/15 15:14
楽天はPodcastingするソフトが欲しいんじゃないですかね。元取れるのかしらないけど
投稿: noto | 2005/10/15 15:29
まずいったんiPodの軍門に下る。その後、侍ジャイアンツ的に勝つ、ってのはどうでしょう。
具体案なし。ただ、iPodが扱えるのは音声なり動画なりの単独ファイル。複数のデータを構成して提供する仕組みがその次にほしい。
ビデオiPodは動画コンテンツの終着駅ではないはずだから、いずれは誰かが勝てるはず。
投稿: fratdrive | 2005/10/15 15:45
アップルのDRMを簡単に解除できるソフトを開発して
ばらまく。そんでアップルの信用を落とす。っていう
ダークな方法はどうでしょう。
投稿: nisemono | 2005/10/15 17:24
小型燃料電池が開発されて、小瓶のアルコールでいくらでも携帯の電池が持つ、という前提をおいたら、どう結論は変わるのだろうか??
投稿: ひろ | 2005/10/16 00:20
ああ。これを語っていただきたかった。
orz
投稿: 丹 | 2005/10/16 00:57
どうなんでしょうねぇ。面白いやり方だとは思いますが、いくつか不安要素も思いつきます。
まず、プレーヤー道端で配られたり、勝手に送られてきても、既に他のプレーヤー持ってる人は
結構困るんじゃないかという事。そもそも使ってもらわなければ意味ないですよね。
(手持ちのプレーヤと音楽ファイルの互換性があるなら別ですが)
新規ユーザー層の開拓には効果的だと思いますけど、配ったときには無知同然の素人でも、
日々使っている事で、課金する頃には携帯音楽プレーヤーの市場への意識が
あがっている人も多いでしょうし、自分好みの他社製品に乗り換えられるも結構ありそうかなぁと思います。
それを防ぐためには・・・音楽ファイルの独自フォーマットでの縛りに頼らざるを得ない・・・?^^;
そうなるとプレーヤー持っているユーザーに対する求心力が大分落ちる気がします。
また、「どうせ無料で貰ったものだしぃ」という意識から、財布を痛めて買ったものに比べて、
乱雑に扱われる可能性も高いでしょうね。モデムと違って基本的に常に持ち歩くものですから、
その意識は故障の恐れと直結するかと。
ユーザーによっては、元々タダなんだから壊れてもまた無料で・・・みたいな意識もあるでしょうから
故障や、配布製品のグレードアップ(するならば)に対する交換も認めるか否か?が問題かなと。
これを認めずに、プレーヤーに改めて金払え、って突きつけられると、他に魅力的な製品があれば
そっちにいっちゃいますよねぇ。
実際こういう事業を始める企業が出てきたら、競合他社もかなーり警戒するでしょうし、
今までの製品にかなりの上積みを載せて来るでしょう。(特にAppleとSONY)
そうなると、結局完成度の高いプレーヤー(とは言えその基準もまた人それぞれ)の開発が必要になってきますよね。
流石にここまでフォローするとなると、この事業、かなりのバクチになる悪寒がします^^;
投稿: Buu | 2005/10/16 04:41
いろいろおっしゃられていますが、「どうでもいいと思うんだけどさ。」というのがシャレではないことを考えるとなんだか。。サイト主さんのような、こんな感じのスタンスの方が最近増えてきたような気がします。
投稿: katshi | 2005/10/16 06:48
>katshi
「どうでもいいと思うんだけどさ。」だけどさ、
>こんな感じのスタンスの方が最近増えてきたような気がします。
のさ、「気がします。」と同じニュアンスだと思うんだけどさ。駄目ですか。
投稿: 地球発 | 2005/10/16 18:49
ヤフー商法の予言面白かったす。
いろいろコメ書いて消して整理してたら
開眼した!ような気が。
要するに衛星放送+HDR+TVが持ち歩けるようになったら、ペイパービューは盛り上がるか否かってコトですかね。
CDウォークマンの発売でCD買う人は増えたかっつー話に本筋は近いのかな。
投稿: @ | 2005/10/17 03:58
TBどうもです。上記エントリを読んで、さらに考えて新しいエントリをTBさせていただきました。
投稿: hakohugu | 2005/10/17 12:28
重要なのは「コンテンツ」でなく「編成」。
そしてビデオはテレビになれないし求められていない。
ウヨ的に煽るなら編成者をどうやって防衛する
仕組みを用意するかとなる。
メディア横断の放送事業は規定路線だろうから
多分それは許認可から資本的な話になるのでは?
そしてもうそれは進行中でご愁傷様なのは中抜き
される広告代理店か。
20世紀は広告の時代だったがそれは終わるのかもしれない。
なにしろアクセスが聖書のように教会でなく
愚民の食卓に置かれるようになったのだから。
だからAppleを成功者として模倣すんなっての。
世界が音楽で出来てると思っていいのは中二まで。
投稿: pg | 2005/10/17 12:41
いつも思うのですが、こういう新しいメディア生まれたときに一番、フットワーク軽く行動が速いのはアダルト業界だと思います。アダルト動画配信、コンテンツオンライン販売はもうとっくに主流になっていて、素人目から見てもおそらくVHS、DVD販売を凌駕しているのではないでしょうか?
要するにアダルト業界は利権構造が希薄で組織の硬直性など無縁の業界なので、潮目の変化に敏感に対応できるんだと思います。すでにiPodなんかなくてもWindowsMediaPlayerなどの既存のコピーガード技術で対応している。今回Appleはそういうアダルト業界のように柔軟でない音楽業界やら映画業界にうまく切り込んで今のポジションを得たということでしょうが、そんなに磐石なのかな?と思います。さらに別段フロンティアでもない。要するに必要なのは「合意」ということだけであって、たとえば、Amazonが音楽業界、映画業界と手を結んで非Apple規格で音楽ダウンロード、映像コンテンツダウンロード販売をはじめますよ、なんてのは十分ありだと思いますけどね。ポータブルの再生ハードもその非Apple規格で自由にやればいいし。その点は現状のMP3プレーヤーと同じだと思います。
投稿: ken | 2005/10/17 16:16
特許の取得競争、さらに、いざとなったら特許を侵害したとして
訴えたり訴えられたりも考えられるので、金があるだけでは難しいかと。
投稿: ぷー | 2005/10/19 13:46
というか、アダルトを松下あたりが取り込んで、何でもありにすれば、それはそれでアップルに打撃を与えて普及する原因になると思う。ken様の仰るとおり、最初に反応するのはアダルトですし。(真っ先にPSP対応のアダルトソフトを販売している。)
アップルの隠れた傾向である「コンテンツを実は選別する」を最大限生かすわけ。当然アメリカでも、ジェリースプリンガーショーやらサウスパークやらの「アメリカの隠しておきたい身も蓋もない現実」を再生できるようにする、と。日本だったら、アダルトに加え、「8時だよ、全員集合!」などの膨大な量のコンテンツはあるけど、下品でかつ面白くて膨大な量があるコンテンツを提供すればいい感じでは?
なんだかんだいって、組み立てメーカの悲しさ、b様の仰るとおりバトルロイヤルになれば「電源が弱い」という弱点が牙をむくのは必至ですし,作りのちゃちさで最後は自爆というのがMacの伝統ですし。
投稿: うみゅ | 2005/10/20 14:49
iPodにしろ、iTunesにしろ「PCがなければ何もできない」ということに着目すべきではないでしょうか?
PCが苦手な人は、世の中にまだたくさんにいるだろうし、すべてをモヒカン族の価値観に合わせてしまっては、
林檎の人の策術に嵌るだけかと…w。
脱パソコンの思考で、ここは日本の得意分野の携帯電話とゲーム機で勝負すべきかと…
ってもう始めているワケですが(汗、でもまだまだ熟成が足りてないと思う。
音楽配信に関しては、音楽プレイヤーと携帯電話がもっと高い次元で融合した端末を作る。
それはきわめて簡単に操作でき、しかも各種配信サービス料金が安く設定する。
だから先にiPod携帯とかが出てくるとマジでヤバイかもw。
映像配信に関しては、ゲーム端末に着目、何故ならテレビに接続しているから。PCで映像を見ないことに着目。
まぁネットTVは過去に何回も挫折してるけど、要は時期が早すぎただけで、
通信速度と課金システムとコンテンツ品質のトライアングルが旨くバランスがとれてくれば、光明はあるはず。
テレビモニター上で、衛星放送より簡単で割安かつ画像品質がV局並な、ネット配信ができるかどうかが勝負かと…
投稿: uiui(あぁなんか好き勝手に書いてるなぁw) | 2005/10/20 23:02
iTMS-JがMoraとほげほげ言ってた頃なら、Mora対応ソニックステージfor PS2無料配布とかでどうにかなったろうけど(遅いけどUSB付いてるしHDD搭載可能とか安めの端末になる素地はあった)でも多分動画コンテンツ我慢できるほどのパワーはないので新しい方式を探さないとダメですな。
PS3がもうでてるならその辺追いつかせることは可能だが、今度は動画を扱えるパワーをソニーと組む配信業者が持てるかってテキトーこいてみる。
前調べたときにはネットオーディオとか言うジャンルでエニーミュージックが出てきて、ソニーよ、お前やる気あんのかとか思った所で思考が止まってそれっきり。
投稿: 遊び人 | 2005/10/21 17:57
いまからやって勝てる可能性があるのは、任天堂のゲームボーイくらいでは?
投稿: ひ | 2005/10/31 04:19