インタビューする技術
なんか企画元のFPNをはじめ出演者、編集協力者入り乱れて宣伝されまくっているので、今さらAmazonアフィリエイトのリンクなど張ってももはや誰もここからは買ってくれないだろうと勝手に諦めたりしている「アルファブロガー」の本(と言いつつ一応アフィリエイトリンク)。何も触れないのも不自然だしなー、どーしよー。本のインタビューを受けた感想でも書いておくか。
僕のインタビューを担当してくださったのは、本では徳力さんのクレジットになっているが、実際には3分の2かそれ以上渡辺さんだった。渡辺さんとは以前にも2人だけでネットやメディアの未来とかのディープな話題で2~3時間話し込んだりしたことが数回あり、こちらの手の内はかなりばれている。ので、まあ今回はきっと身ぐるみ剥がされるんだろうなあと思って四谷の翔泳社に行ったら案の定2時間で身ぐるみ剥がされました(笑)。
僕の出てるパートは前に織田さん、後ろに磯崎さんと錚々たるメンツが並び、いったいここで1人だけ顔隠して後ろ向いて背中で語ろうとしてるイケてない男ダレこれ?みたいな感じでちょう恥ずかしい。ま、それはどうでもよくて、僕が今回感心したのは渡辺さんのインタビュアーとしての卓越した能力の方だった。
これまでずっと自分がインタビューする側だったので、どういうふうにインタビューの質問をぶつけるかということは自分なりの手法では必死に考えて10年ぐらい過ごしてきたつもりだし、今でもマスメディア出身じゃない人と一緒に誰かにインタビューをしに行くとよく「話を聞き出すのが絶妙にうまいですね」とか感心されたりするのだが、もはや自分でもなぜそういう絶妙な質問を繰り出せるのか形式知化できないぐらいに体に染みついてしまっていて、あるいは自分が絶妙なのかそれとも大して絶妙でもないのかさえも判断できないようになってしまっていて、褒められても感心されても嬉しくない。
一方、インタビューを受ける側の経験というのももちろんしてきてはいるのだが、なまじ自分が相手をうまく調子に乗せてしゃべらせる能力をそれなりに持ってしまっているので、ああこの人はこっちがしゃべろうかどうしようか悩んでいたことまで全部引っこ抜いて持っていきそうだ、と思わせるようなムードを醸し出してもらえたインタビュアーというのはこれまでほとんど会ったことがなかった。
ところが、今回の本のインタビューは、そのあたり渡辺さんに見事にしてやられたなという印象である。上がってきたゲラをざっと通読してうちのカミサンが一言、「このインタビューした人、誰?すごい人ね」と感嘆の声を上げたのだから間違いはない。ネットとメディア、という最近おきまりのネタではあるが、R30の本音をここまでしゃべらせてしまうインタビュアーというのは、分野は違えど似たような文筆の仕事をしているカミサンから見てもやはり凄腕に見えたようだ。
もちろん、聞き出した内容や雰囲気がビビッドなままにうまく読み手に伝わるように原稿を書く能力というのもこれはこれでまた別に必要なのではあるわけだが、インタビューというのは、さすがに相手がしゃべってもいないことを書くわけにもいかないし、いくら鉛筆なめがうまくてもそもそもの素材(つまりテープ)がつまらなければ飾り立てるにも限界がある。というわけでこの本のR30インタビューの面白さは、やはり渡辺さんの卓越した「口滑りを誘発する」能力のゆえかなあと。
思うに、自分がしゃべろうかしゃべるまいか悩んでいたこと、あるいはしゃべるまいと思っていたことをしゃべってしまうきっかけというのは、やっぱり今一番頭の中にこびりついている問題認識、考えなきゃと思っていることについてネタを振られるというか、それを引き合いに出して語らざるを得なくなるような質問をされることなんだろうと思う。
人によってはそういう問題意識ずばりそのものを突っ込まれると、警戒して貝のように口を閉ざしてしまう人もいる。だからそのものずばりではなく、そこから微妙にずれたところをくすぐらなければいけない。インタビューは、この微妙さ加減が難しい。1時間という時間を無難に過ごして出て来たいなら、へらへら笑いながらおべんちゃらを言いつつ話を聞いていればいい。だけどそれでは表面的な話以上は聞けない。だからやっぱり相手が一番悩んでいそうな部分をぐさっと刺さなければいけないのだ。
「アルファブロガー」の本の中で、僕が質問に対してきちんと答えられていないというか、ぬるい答えを返して終わっているところがいくつもある。そこは、まさに渡辺さんの質問が核心を突いていて、非常に苦しかったところだ。そしてそれこそが、これからのブログやネットの夢だったり課題だったり可能性だったりする部分でもある。
僕自身まだ全員のインタビューを読んだわけでもないが、この本は単に2004年末の日本で有名だったブロガーを11人集めましたというアイドル名鑑のような本ではなく、近江商人JIN氏が言うように「ブログ、SNS、Web2.0、これから10年のインターネット」を11の視座から多面的に考えることのできる、ものすごく刺激的な思考実験の本になっていると思う。僕が見た範囲だけでも結構なボリュームがあるので、これで1600円というのは(収録されている人の顔ぶれだけでなく、編集に携わったメンバーの労力から言っても)かなりお買い得な本ではないだろうか。
購入される方は、ぜひ僕以外の10人のブロガーがどんなことに悩み、希望を見つけ、行動しようとしているのかという、個人のダイナミズムに注目して読まれることをお勧めしたい。きっと得るものがたくさんあるはずだ。僕のところは質問文以外読まずに飛ばしてもらえると、なおありがたい。
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コメント
この前ギルモアさんの本をチラと覗いたんだけど、なんか「What’s New」がなくて買う気にならなかった
ギルモアさんが本が書かれてから、この本をベースにいろんな人が発言をされたので、いつの間にか既知になったということでしょう
この本、本音を聞き出されたつうとこに期待しています
不遜なようですがこの中の2、3人から「What’s New」が聞ければ十分です
発売日が10月20日と近江商人さんトコに書いてありました、あと1週間ですかワクワク
投稿: マルセル | 2005/10/14 11:15
ダメですよ、裏事情ばらしちゃあ(笑)
僕が楽してるのがばれちゃうじゃないですかー。
投稿: Tokuriki | 2005/10/14 11:40
あらあら、何時の間にこんなエントリが。ありがとうございます。
取り急ぎでトラックバックも送らせて頂きます。
"渡辺さん"ことSW
投稿: SW | 2005/10/14 14:18
今日、本の仮版ができてきましたよ。中身改めて読んでみて、「カタメ志向」のネットコミュニケーションとインターネットのこれから10年を考えるにはよい本かもです。
ていうか、R30さんにリンク張っていただいて増えた流入の方のアクセス元ISPのYahoo!BB比率が低いのが特徴的でおもしろいです。
投稿: 近江商人JIN | 2005/10/15 03:06
インタビューはコミュニケーションだから、聞き手と話し手の関係性によっても変わってくるし、聞き手の技術というのは、たしかに重要だけど、もっと重要なものがあるんじゃないかあと思います。
投稿: fratdrive | 2005/10/15 15:52