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2005/09/09

インターネット経営から退却するHP

Mark Hurd, CEO of HP CNETのトップページに、HPのマーク・ハードCEOの記者会見の概要が載っていた。なかなか面白かったので、ちょっとコメントしてみよう。

 HP、CEOが新戦略を明らかに(CNET Japan)

 翻訳元の記事はこちら。っていうか、翻訳記事は途中までしか訳してないんで、ハード氏が狙っているHPの改革とは何なのか、読んでもちっともわかんない。ちゃんと最後まで訳してくれないとねえ。

 今年4月の就任当時は「テニス好きな口べたの田舎紳士」みたいな言われ方して、演説でどんな相手でもメロメロに酔わせてしまうフィオリーナ前CEOとのあまりのギャップの大きさに全米が爆笑したマーク・ハードCEOだが、どうやら本当の人柄も経営手法も前評判そのまんまのベタベタだったらしい。

 8月22日号の日経ビジネスに載ってた編集長インタビューも読んだけど、「僕たちは世界最高の企業です。目標は成長することです。大切なのはお客さんに信頼されることです。社員はみんなまじめでいっしょうけんめいです。これからもがんばるのでみなさんもおうえんしてください。おしまい」みたいな内容。途中で突っ伏して眠りたくなっちゃうほどノーテンキでつまんなかった。フィオリーナが就任して初めて来日して講演したときは幹部から末端社員まで涙を流して感動したって言われたけど、ハード氏の来日スピーチってどうだったんだろ。半分ぐらい寝ちゃったんじゃないのか(笑)。

 それは冗談だけど、しかしこのテニスお兄さん、繰り出してくる打ち手はなかなか堅実というか、むしろめちゃくちゃ手堅い。なるほど、こういうやり方があったのかという感じだ。

 CNETの記事によると、HPの新戦略をハード氏は次のように説明している。

HP's overarching game plan, Hurd said, is to be an infrastructure technology company, using its vast research and development resources to collectively serve as a foil against competitor Dell. HP would leave IBM, meanwhile, to focus on business processing, he said.

 (和訳)Hurdによると、HPがとる戦略の概要としては、同社をインフラストラクチャーテクノロジー企業にすることだという。そのため、同社は研究開発に膨大な費用を投入し、ライバルのDellと違いを示すという。また、当面は、ビジネスプロセス分野に集中するIBMには対抗しないつもりだともHurdは述べた。

 しかしこの一方で、今年7月にハード氏は既に発表した1万5000人の人員削減に絡んで、“パソコンの生みの親”であるアラン・ケイも関わるプロジェクトを含め、パロアルトの本社で進めていた4つの研究開発プロジェクトを中止させてもいる。もちろん、アラン・ケイ自身も解雇だそうな。

 「インフラストラクチャーテクノロジー企業」と聞いて、一瞬僕の頭の中に「e-Speak」(※1)という恐ろしげな単語が横切ったのだが、ハード氏のこの言葉で指しているのはそういう何だかわけの分からないネットワーク上のデジタル・テクノロジーのことではないらしいことが、その後の文章(英語)を読んでいけば分かる。

HP also plans to take an inquisitive, opportunistic approach to potential acquisitions, Hurd said, pointing to the company's recent announcement of its planned acquisition of Scitex Vision's assets. Scitex, which helps companies print billboards and banners, will be used to bolster HP's printing and imaging efforts.

 (和訳)HPは将来的には買収に対しても前向きに、興味を持って取り組んでいくつもりだとハード氏は言う。これは、同社が最近発表したScitex Visionの株取得の計画のことを指している。Scitexは掲示板のポスターや垂れ幕の印刷会社だが、これがHPのプリンティング・イメージ事業を補完することになりそうだからだ。

 なんつーか、天下のHPがこんなにベタでいいんでしょーか。要するにハード氏は、「おたくの会社の書類作りに関することなら、プリンターから垂れ幕作りまで何でもHPに任せておくんなはれ!」という、日本でエプソンがやっているようなベタベタな商売をやることを「インフラストラクチャーテクノロジー企業」と呼んでいるのである(笑)。

 ただしそれは、IBMようなビジネスプロセスに関するところをHPで成り代わるという意味ではない。誤解を恐れず単純化して言えば、IBMは「どうやって垂れ幕を印刷したらいいかも分からない人に、垂れ幕の印刷方法を教えてあげつつその印刷システム一式を売りつける」のが商売である。一方、ハード氏の目指すHPは「書類であれ垂れ幕であれ、とにかく何でも徹底的に安く効率的に作って差し上げる。その代わり印刷方法ぐらいはお客さん、自分で説明書読んでよね?」というものだ。

 で、徹底的に安く効率的に作って売るというところではDELLとバッティングすることになるので、DELLの元CIOを引き抜いて社内のシステムを効率化する、というのがハード氏の戦略である。事業の1つ1つを徹底的にコンパクトで効率的にし、成長戦略や技術開発も事業ごとに判断してやればいい。だからこそフィオリーナ氏がくっつけたばかりだったPCとプリンターの事業もあっさり分離したわけだ。

 ある意味、めちゃくちゃ分かりやすい。JavaだLinuxだXMLだ、というような姿も形も見えないIT魔法使いどもの脳内妄想なんど、オラ知らねえ、難しくてわかんねえだ。お客さんから「これが一番安くて使いやすい」って言われるようなプリンター、PC、サーバーをひたすら作って売ってればいいんだ。これが、僕が見る限り、オハイオから出てきた田舎のテニス兄ちゃんの考えていることのようだ。タンジブルなもの、ばんざい。インターネット詐欺師に背を向けて、目の前のプリンターだけを信じろ。

 まあ、シンプルなのは大切だよ。しかしそれって本当にこれから大丈夫なのか?どこか不安になる。もしかしてその発想、5年ぐらい前の松下電器そのものじゃないのか。これってひょっとすると、HPにとって「デジタル・ネットワーク経営」からの退却なんじゃないの?

 あれだけ膨大な特許を持っている企業だから、これから数年間ぐらい脇目もふらずに既存事業の拡大再生産だけやっていてもそれなりに食ってはいけるのだろうけど、その後が恐ろしいな。今のところ株式市場や取締役会からの評判も上々なハード氏にとっての次なる課題は、個々の事業をDELL方式で効率化している最中に、どこまで次なる新事業に繋がるバリュー・ネットワークの網の目を張りめぐらせておけるかというところだろう。さて、どうなるんですかね。

※1)e-Speak:フィオリーナCEO就任後の99年に、IBMとマイクロソフトに対抗するためのキラーテクノロジーとして発表された、異なるミドルウェア間の通信を可能にするHPのJavaプラットフォーム技術。いつの間にか名前を聞かなくなった。なんだったんだあれ。

01:40 午後 ビジネス

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DJammerを出したらHPに偉いっすよと言おう トラックバック 極東ブログ @2005/10/12 13:52:31
 日本版ニューズウィークの今週号(10・19)をパラッとめくって、ま、そんな感じかなっていう感じでめくり終えようとしたとき、最後のページにDJammer(ディージャマー)の写真が載っているじゃまー、である。や、やるのか。本気か、マーク! そ... 続きを読む

Comments

 丸一日経っても誰も書き込まないので哀愁の1ゲット。

POSTED_BY:うんこ @2005/09/10 6:50:00

>なんつーか、天下のHPがこんなにベタでいいんでしょーか。

ベタ?

もともとHPのプリンタ関係は高収益部門なんだけどな・・もともと企業価値の柱。それなのにベタベタな商売に戦略変更するっていう書きっぷりは一体?それを言うなら今現在もベタベタです。IBMだってベタベタベタくらい(笑)

>これが一番安くて使いやすい」って言われるようなプリンター、PC、サーバーをひたすら作って売ってればいいんだ

いまだってそういう事業が一番儲かってるんだけどな。素人見だとHPってもっと前衛的な企業でデジタルネットワーク経営(笑)で儲けてるように見えるんでしょうか。

新社長が戦略変更するって言ってるのはまぁ、既存の事業に集中し、いったん広げた風呂敷をたたむという極めてフツーの戦略です。

なんでこんな記事にここまで反応するのかしら・・と思ったら、

>IT魔法使いどもの脳内妄想

あーらら・・。なんかそっちから引っ張られてますねぇ。

POSTED_BY:ケンシロー @2005/09/11 0:47:42

HPの他の動向を分析するといった「裏取り」をすっ飛ばして、キャッチーな見解を示されようとしたかのように見える点、残念です。(*)


いくつかの他の動向から推察する限り、

まさに、HPは「IBM」と「Dell」の間を狙うのだとみえます。
例えば、R30さんのエントリーのあとのリリースなので恐縮ですが、
http://www.hp.com/hpinfo/newsroom/press/2005/051007a.html
http://www.hp.com/hpinfo/newsroom/press/2005/051011a.html
など。

ネットワーク/ブロードバンド時代だからといって、果たして身の回りの業務の効率は上がったのか?

その点をビジネスプロセスのサイドから突いて攻めていくのがIBM、
特定の機器に注力し、製品のスピードとラインナップの柔軟さを意識しながら攻めていくのがDell、
幅広いハードを擁し、(それらをセグメンテーションしながらも)リンケージによる「使い勝手」「生産性向上」を訴求してくのがHP(当然そこでネットワーキングは十二分に意識してますよ)、
と今のところは見えるように思いますが・・・

いずれにしろ、HP、リストラは今後ももしかすると避けられないかもしれません。
IBMは高い人件費をカバーする作戦として、Dellは徹底的な省力化を志向する延長線上の作戦として、上記があるわけですから、
まずはHP、闘えるレベルまでのスリム化は必須でしょう。そのうえでどう付加価値をつけられるのか、が彼等の勝負ポイントになるのではないでしょうか。


p.s. * について;

職業柄、仕方ないのかもしれませんが・・・ 
でも本ブログは、裏とりなしでガンガンいく、というところよりも、ある程度の分析力で支持を得ていると思われますから、
今後、ブログの世界が成熟していく中で、エントリ数を減らしてでも、分析に注力する時間を増やされないと、今後厳しさが増すかもしれないとも思いますよ・・・
論座やアルファブロガー本といったところに浮かれすぎることなく、
既存紙媒体に負けないぐらいに、地道に中身&分析をより濃くされるべく、頑張って頂きたいと思っています。。。(他のブロガーetc.とのネットワークも、そういったところに益々活用いただけると。)

期待させて頂いております。

POSTED_BY:Chuck_UGOne @2005/10/14 15:39:52

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