オリンパスはどこでどう道を間違えたか
2005年にはデジカメ市場の成長が止まるってのは、もう2002年ぐらいからずっと言われ続けてたことなんだけどな。生き残り続けたいと思っていたのなら、なぜそれまでにポジションを確定しておかなかったんだろう、この人たちは。
オリンパスなど老舗3社 デジカメ事業立て直し リストラ、新機種…復権急ぐ(産経新聞 via gooニュース)
デジカメの勝ち組はキヤノン、ソニー、富士写の3強に加えて、ニコン、カシオ、松下が健闘といったところか。産経のやり玉に挙げられているのはオリンパスとコニカミノルタ、そしてペンタックス。ペンタなんて元々レンズ技術だけを頼りにカシオに泣きついたクチだし、コニカミノルタは合併前も合併後もデジカメはヨレヨレだったのでしょうがないとして、かつてはトップシェアかつ業界のリーダーでもあったオリンパスの凋落は、痛々しいな。
産経の記事によるとオリンパスは「マーケティングの失敗で、売れない機種をたくさん作りすぎて在庫の山を築いた」と言うんだが、どうも嘘っぽい。2005年3月期の決算説明資料を見てみると、映像事業の在庫水準は確かに2年前から上がってはいるが、昨年よりはむしろ減っている。今年初めには小宮御大自ら「E-1とE-300はバックオーダーまで抱えてフル生産で絶好調」とか発表していたぐらいだし、在庫云々をにわかに信じられない。
ただ、E-300も欧米では「絶好調」なのだが、日本はそれほどでもなかったところを見ると、特に昨年末以来価格下落の激しかったコンパクトタイプのデジカメで、日本向け機種と海外向け機種の在庫コントロールにミスがあったんじゃないか、という憶測は成り立つかもしれない。
しかし、問題の本質はそうじゃないと僕は思う。この前の「マネ下デンキ戦略」のエントリにトラックバックをもらったhbikimoon氏のブログで書かれているが、どうもこの1年で、デジカメの競争ルールがまた変わってしまったのである。そして、オリンパスはそれについていけなくなってしまった。
もともとオリンパスが一世を風靡したのは、「画素数競争」と呼ばれる競争ルールを、自分で設定したからだった。それまでカシオのQVシリーズなど、数十万画素の、今から思うと「ウェブカメラかよ」と思うほどしょぼい画像しか撮れなかったデジカメに、突然「メガピクセル!」の掛け声とともに大画素数のCCDを持ち込んだのがオリンパスだった。
なぜこの戦略が成功したかと言えば、当時のデジカメの部品で最も希少だったのは、画素数の多い(そして安い)CCDだったからだ。海外ではコダックなどが600万画素とかの超高画素(でも値段も数百万円也)のCCDを作ってはいたが、国内ではビデオカメラ用の十数万画素のCCDをソニーや松下が作っている程度(ビデオカメラ用には画素数など十数万で十分)で、百万画素以上のCCDを作るアホなどいなかったのである。
オリンパスは当時、ソニーが試作した100万画素クラスのCCDを、それまでの国内のデジカメの全出荷台数よりも多い数買い付けた。98年に富士写が150万画素のCCDを実装し10万円を切る価格で「FinePix700」を発売すると、オリンパスも間髪入れずに8万円台の131万画素デジカメ「C-840L」を発売した。
CCDというのは、最初に使ったメーカーがその画質のクセなどを最もよく知り尽くして調整できるので、先行者に常にアドバンテージが生まれる。こうして他社が追随できないまま富士写とオリンパスの2強による「画素数時代」が始まったわけだ。
ところが、2002年前半にミノルタが「DimageX」を、カシオが「EXILIM」を発売したあたりから、デジカメの競争ルールが変わってしまう。「DimageX」は200万画素と、当時400万画素台だったトップ画素数のデジカメからすると2ランクぐらい下のデジカメだったが、カード型で厚さ20mmという奇抜なスタイルと、それに似合わない画質の良さが評判を呼び、デジカメ業界の競争ルールをCCDの画素数から「デザインのかっこよさ」と「画質の良さ」に変えてしまった。
とはいえ、画質の良さなんてそうそう画期的に変わるものでもないので、結局はデザインの良さが店頭での勝負になる。カシオがさらに薄いデジカメを出し、めちゃくちゃ体の細い女性をTVCFに起用して宣伝したことで、「ファッション性」がますます購入要素として大きくなり、商品の寿命はCCDの画素数向上という「シリコンサイクル」から、「ファッションとして飽きられるスピード」に比例するようになった。
オリンパスはこのルール変更についていけず、2001年と2002年の3月期で、2期にわたって映像事業が赤字に転落。結局草創期の「画素数バクチ」戦略を築いた小島祐介執行役員が左遷され、生産畑の小宮弘専務が事業をコントロールすることになった。
小宮氏の取った戦略は、「賞味期限の切れないうちに作って売る」というスピーディーな生産コントロールを、オリンパスの強みにすることだった。それまで小島氏はレンズ以外のキーデバイスを持たないことを「身軽さ」に変えるべく、デジカメの組み立て生産のほとんどを三洋電機に委託してきた。小宮氏はこれを中国の自社工場に順次切り替えることで、販売現場からのリクエストに応じて必要な機種を自社内で機動的に生産できる体制に変え、商品寿命の短縮に対応しようとした。
この試みは2002年から始まっていったんは成功し、2003年3月期、2004年3月期とデジカメ事業を回復させた。ところが、その状況も長くは続かなかった。在庫もそう増えてはいない、売上げも海外では伸びているのに、突然の赤字転落である。
競争ルールの、何がどう変わってしまったのだろう。たぶんそのヒントがhbikimoon氏のブログのエントリにあるように、「IT系企業の参入」である。
この1年でデジカメの何が変わったのか。デジカメはおそらく変わってない。変わったのは「携帯電話」である。そう、数百万画素のCCDを積んだ携帯電話が当たり前のように手に入るようになり、普及クラスのデジカメは携帯電話と価格比較されるようになってしまった。デジカメ屋にしてみれば「携帯電話なぞと一緒にされるなど心外」もいいところだろうが、後で月額課金できる携帯屋と売り切りのデジカメ屋では、価格で勝負になるわけがない。
では何で勝負するか。一眼レフなど、より高級カメラの市場へと逃げるか、あるいは付加価値のあるパーツを自社以外にも外販して稼ぐか、どちらかしかないだろう。今年のデジカメの勝ち組6社を見れば、それは明らかだ。自前で独自のCCDを製造する能力のあるメーカーが6社中、5社もある。しかもこの5社のうちソニー以外の4社は、レンズも自前で生産できる。つまり、レンズとCCDおよびそのコントローラーチップなど、付加価値の高い部品をすべて内製できる企業しか、この市場では生き残れなくなったということだ。
例外はカシオだが、同社は部品も技術も完全に外部に依存しながら、マーケティングだけで薄利多売の激戦をくぐり抜けていく知恵と度胸とスピードのあるメーカーだ。オリンパスが今後取るべき道は2つに1つ。もっと身軽になって機動力を上げて、工場さえ全部放棄し、徹底したマーケティングの会社として生き残るか。それとも、「ズイコー」ブランドのレンズなど付加価値パーツの外販を積極的に展開し、自前でシェアトップにはなれなくても大手メーカーに欠かせない「部品屋」として食べさせてもらうか。
前者は既にカシオという偉大な先人が既に存在し、それ以外の企業はほぼ撤退したもようなので、これからオリンパスが入っていくとすれば相当厳しいだろう。となると、総力戦で戦う体力もないオリンパスとしては、高級カメラの市場に特化するか、レンズや映像処理チップなどを外販していくかしか生き残る術がない。
とはいえ、高級デジカメ市場はすでにキヤノン、ニコンが鉄壁の牙城を築いており、フィルムカメラでは生き残れたミノルタやペンタックスもはじき飛ばされたほど。オリンパスがこれから1人でかかっていっても、割り込むのは相当難しいだろう。
そうした高級デジタル一眼レフ市場攻略+ズイコーレンズの売り込み、の一石二鳥という意味で、松下電器とのアライアンスは的確な打ち手ではあったと思う。ただ、これで安泰が保証されたわけでも何でもない。松下だって山形で業務用ビデオカメラのレンズを自前で作ってきた実績があるし、今さらズイコーでもないだろうに。
オリンパスとしては、これでデジカメ市場から撤退して引き下がったら、内視鏡とICレコーダーの会社になってしまい、消費者に名前を忘れられてしまうというお家の事情があるのだろう。それとも、・・・もしかして松下に会社ごと買ってもらえれば、とでも思っているのかしら。
だがそれにしても悔やまれるのは、なぜ2003年に儲かりまくっていた時に、キヤノンのようにCMOSチップの実用化やレンズ外販に投資しておかなかったのだろうかということだ。冒頭にも言ったが、あの当時から2005年に市場の成長が止まるということは、彼ら自身も予想していたはずなのに。
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コメント
オリンパスと言えば、数年前に「画素数4500万画素」というデジカメを試作機レベルで完成させていたはず。
商品開発力と技術力のアンバランスが同社のキュートな所でもあると思うのですが、やっぱ部品屋向きなのかな・・
投稿: p-style | 2005/06/09 15:09
オリンパスの凋落は残念です。
いち消費者からすると、オリンパスデジカメは防水(あるいは水中ハウジング等)の点で一日の長があるような気もするのですが、残念ながらデジカメの買い替えサイクルが頻発してきた事による、メモリカードの共有ができなかった(XDピクチャカードって…(´・ェ・`))事が孤立化をより一層深めているのではと思います。
ご指摘の通り、いまや100万画素程度なら携帯で十分ですし、ウェブでの写真(ブログなど)であれば撮影から転送までが1ハードで可能なデジカメ付き携帯電話(私は携帯付きデジカメと呼んでいますが)の方が向いているんですものね。で、携帯でSDカード使っているとデジカメもSDカードを使えるもの、という思考になるのは当然でしょう。 オリンパスもSDカード(あるいはCP)に鞍替えすればあるいは… と思うのは早計でしょうか。
と言うか防水デジカメがSDカードで出てくれないかなぁ という個人的慨嘆でありました。
登山ブームを背景に多少の雨でも平気のデジカメでニッチ市場を狙って欲しいものです。
投稿: N | 2005/06/09 15:36
デジタルの一眼レフって売れないと思うんですけど。
制約条件が違うのに光学のノリが抜けないんですな。
主戦場のコンシューマ機は戦略というより需要が戻るのを
待つしかないんじゃないかと思いますが。
何してても誰かが消耗するだけだと思うんです。
投稿: aaa | 2005/06/09 18:05
SDカードの防水デジカメならペンタックスがOptio WPというのを出してますね。
投稿: ma2i | 2005/06/09 18:31
レンズ性能自体は悪くないから、防水、省電力、複数枚メディアが使えるとかなら山や工事現場で生き残れそうですけど
投稿: sakimi | 2005/06/09 20:49
「道を間違えた」とあるのは、つまり何処へどう行けば「間違えない」になるのでしょうか?
そして、その場合の「間違えない」とは、何なのでしょうか。その部分がぼやけたままタイトルに「どこでどう道を間違えたか」と書かれると、なんだか不思議な気分になります。
投稿: うんこ | 2005/06/09 22:57
>それまでにポジションを確定しておかなかったんだろう
厳しい競争のなかでは、したくてもできないことがたくさんあります。
利益の出る内視鏡の分野で高いシェアを持っているのに、なぜあのデジカメという消耗戦に突っ込んでいってしまったのかという疑問が残ります。身の丈経営と言うのが重要なのではないでしょうか。残念ながらこの分野
では、オリンパスさんは競争優位にたてる特徴がないような気がします。
デジカメとい市場にこだわったことが間違いだったのではないでしょうか。
投稿: 大西宏 | 2005/06/09 23:38
全くの推測でしかありませんが、内視鏡に限らず医療分野でのプランド力はあるようなので、医療シフトは強まるんじゃないでしょうか。それはそれで一つの道かな、という気がしますが。
投稿: Marc | 2005/06/10 01:04
レンズを自社開発できる技術力というのは以外に大きいポイントだと思います。ニコンキャノンの二強でも一部のレンズしか自社開発していなく、あとのレンズはシグマ等のレンズ専門メーカーに開発を依頼しています。この強みを巧く生かしてもらいたいものです。
オリンパスはもし、生き残れるとすれば、固定レンズ型の一眼レフタイプでしょうね。また、松下とのアライアンスがどう効果が出てくるか。E-300/E-1でもデジタルズイコーとライカ用レンズが併用できるようになればいいなぁと思います。
実際、素人さんほど、ぱっと見て優位性が無いとか言っちゃうんですが、オリンパス製品は結構使って解る良い点とか多いんですよ。でもほら、そういう視点で購入する人はあまりいないのですね。その点、オリンパスも営業努力に猛省が必要でしょうね。ソニーのデジカメなんかみるとそこそこ使えて後デザインよければいいみたいなところありますから。何処で作ったカールツァイスですか?と聞きたくなります。
投稿: raijin | 2005/06/10 18:18
あと、ニコンなどに比べて、オリンパスの絵の作り方がプロ向きではないとは思います。あくまでナチュラルな感じで、ニコンみたいにシッカリした絵が欲しいプロに取ってみれば敬遠されるでしょう。オリンパスの方向性は間違ってはいないと思いますが、技術とユーザーが追いついていないとは思いますね。
投稿: raijin | 2005/06/10 18:50
デジ一眼の開発コストが予想以上だったのではないでしょうか。
キャノン、ニコンとも銀塩式の流用で開発コストを削っている
ように感じます。実際あのF6は殆んどがD2流用で新規開発は
シャッターユニットくらいとニコン自身が言っている位ですから。
E-300の価格もKissDやD70よりも価格のアドバンテージがまず
欲しかった・・・そんな気がします。
オリンパスのカメラ工場は殆んどが中国工場であるのに、E-1は
発売当初は国内工場だったらしいです。そのE-1から短い期間でE-300を
中国工場で一貫生産できたのか疑問に思います。
国内工場で作った部品を中国工場で組み立てている割合が高いのでは
ないでしょうか?
E-300はオリンパスが言うようにかなりのバックオーダーを抱えるくらい
売れていても黒字にならなかった、いや大幅赤字を縮小できなかったのは、
E-300の利益率がKissD,D70に比べ低い事が要因だと思っています。
投稿: taisyou | 2005/06/10 23:26
オリンパスは個人的に大好きなんですよー。肌色が他社とは違うので。
電気屋さんのデジカメでは全然無理・・・
フォトショでいじっても微妙なニュアンスって出せないので、
どうしてもオリンパスを買ってしまいます。頑張ってほしいなあ。
投稿: miyu | 2005/06/21 09:37