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2005/06/27

マスコミ人の行く末は「没落」しかないのか?

 書いていいことなんかどうかわかんないけど、まあどうせ世の中に出るんだし、書いたらそれなりに編集者は焦ってくれるんだろうから、いいや。土曜日にここの人とここの人とここの人と、4人でマスコミ話をガーッとやってきました。近日中に本になるそうです。お楽しみに。

 だいたいネットワーカーの問題意識というのは深いところで常にシンクロしているもので、その時の話題も今旬なこことかこことかのイシューを巡っていた気がする。で、3時間+その後新宿で飲みながらさらに3時間しゃべった話を自分なりに整理して、さらにしゃべり足りなかったこと(笑)を少し書いてみる。

 与えられたお題は「ネットはマスメディアを救えるか?」みたいな話だったのだけれど、その議論の詳細についてはまとまった本とかを買って読んでいただくとしてですね。

 結局話が行き着くところというのは労働問題なわけだ。いつも。つまり
「マスコミにだってビジネスの“強み”はある」
→「でも強みと弱みをごっちゃにしか認識してないから、後から出てきた、強みだけマネる事業者にあっさり負ける」
→「なぜ強みと弱みをごっちゃにしか認識できないかというと、経営者にそれをきちんと分けて議論する訓練がされてないからである」
→「きちんと分けて議論することができれば、強いところだけうまく生かしながら新ビジネスを立ち上げたり、弱いところを中途採用で補強したりしてまだやっていけるはず」
→「で、そんなに簡単に人の入れ替えってできるわけ?」

 というところで、議論が止まるわけだ。なぜ議論が止まるかというと、マスコミの人間(特に編集・記者畑の人間)というのは、現在所属する企業の外におけるキャリア形成など、考えてみたこともないからである。というか、最近のマスコミの経営のダメダメぶりを見ていると、どうやら社外でのキャリアを考えるという思考回路を従業員に与えて来なかった(がゆえになかなか人材流出が起きない)ことを、自社の「強み」と思いこんで乱脈経営してるんじゃないかと錯覚するほどだ(笑)。

 ま、それは冗談としても、マスコミ人のパーソナルキャリアに関する思考の停止ぶりというのは、最近書かれたこちらのコラムとかを読んでも分かる。彼は思考停止しているというよりは、「記者は社長になれるのか」という、マスコミにおいて問うてはいけないタブーの質問をコラムに書いて、そこであえて「深遠な問題だ」とか言いつつ筆を止めているので、おそらく確信犯だろう。答えはもちろん「否、少なくともそのままでは」だ。

 今のマスコミの記者・編集者に広い視野からキャリアを考えさせることを阻んでいる大きな理由の1つが、この「記者というのはそのままステップを上がっていくと経営者につながる」という、不思議なゼネラリスト信仰的キャリア観だ。

 さすがに今どき「社内政治の最終勝者が社長になるべきである」と、少なくとも胸を張って言う大企業など日本のどこにも残ってないと思うのだが、マスコミというのは、今後はそれじゃいけないから将来の経営幹部と目される層に経営者養成の専門教育を施すとか、そういう発想さえ存在しない企業である。

 だもんだから、世の中のことを何も知らない大卒入社1年目の記者とかまでが、自分のこの仕事はずーっと続けていくとその最終地点は「社長」であるような深遠かつ崇高なるゼネラリスト業務である、と勘違いする。んなわけねーだろが。記者とか編集者なんてどこまで行ってもタダの物書き、ブンヤなんだよ。

 でもそれに気がつくのは、記者として先が見え始める30歳を過ぎてから。で、その頃には一般事業会社でも早いところは同年代で幹部候補としてのキャリアを歩み始めたりMBA留学にたたき込まれたりして、トップクラスは着々と「経営者」に向けた歩みを始めていて、中にはとっととスピンオフして六本木ヒルズの近くで社長やってる奴もいたりして、だから転職市場でもベンチャー企業クラスなら事業部門のマネジャーとしての能力を見られる。タダの物書きしかしてこなかったマスコミ人は、「やっぱり記者ってのはつぶしが利かないんだよね」とかつぶやきながら、諦めて早々に社内に引きこもるわけだ。

 だけど、自分が「つぶしが利かない」って思い込むのは、ある意味サラリーマンとしての自爆以外の何者でもない。記者・編集者という仕事に関して言えば、「他人に読ませられる文章を書く」というのは、意外と汎用的な価値は高い。

 問題は「何について」書くのか、あるいは「誰に向かって」書くのかということだ。今どき、世の中のどんな新商品も「誰にでも売れます、何でもできます」なんて言って商品化を認めてもらえるものなんて存在しない。「どこのどんな人をターゲットに、どのような他にない価値をご提供できます」と言って、初めてユニークさを認識してもらえる。

 梅田氏や楠氏がおそらく念頭に置いているであろうところの「知のチープ革命」の犠牲者たるマスコミは、まあ確かに今はもうすぐ来るべきクラッシュに耐えられないと目される人たちの筆頭だと思うのだが、マーケティングによってはそれも結構高く売れるようになると僕は思うよ。要は、「分かりやすくものを書く」という基礎能力の回りに、どういうマーケットバリュー(誰々の関心を引くような文章なら何でもござれ、とか、この分野の文章はオレがとにかく第一人者、とか)をくっつければいいかを考えればいいのだ。

 以前のエントリでも少し書いたけど、マーケター的視点で外から見ていると、マスコミ業界の経営はもはや法律で消えゆく既得権益を必死に強化でもしてもらうほかないくらい、クラッシュ寸前なのだ。「明日から記事の半分を外部ライターに書かせるから、キミたち給料半分にするか退職金もらって辞めるかどっちか選んで」とか、いつ言われてもおかしくない状況なのだ。それに気が付いてないのは、実は中の人間だけ。マスコミ人って、自分の会社のことについて驚くほど何も知らない。

 別にマスコミ人に限らないと思うんだけど、人間って今の境遇が恵まれていればいるほど、そこからずり落ちることを想定した努力っていうのには頭が向かないんだよな。だから僕の知っている相当優秀なマスコミ人(マーケティングすれば、他の分野でも高く売れそうな能力持ってる人)でも、自分が置かれてる境遇(社内の政治とか評価とか)を嘆くばかりで、自分の能力にちょっとでも付加価値つけて副業を手に着けようとかいう努力をしないんだ、これが。

 別に転職するだけが能力じゃなくて、マスコミなんてペンネーム作って会社に見つかりさえしなければアルバイト原稿とか社外の講演活動とかやり放題なんだからさ。ちゃんと付加価値付ける努力をしましょうね。やってる人はもうやってますよ、真面目な話。そこのあなたが知らないだけで。

 そういうわけで、梅田氏や楠氏が「特権階級の没落」とか「悪夢」とか、背筋が寒くなるような“北風”言葉をビシバシ使っているので、R30はやさしく“太陽”言葉でフォローしてみました(笑)。

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コメント

マスコミ業界ほどコミュニケーション能力、営業能力、対人能力、そして人間力<だけ>に優れた人が多いところもないと思っていたのですが、そういう業界が真っ先に危なくなるという指摘は面白いですね。

あ、皮肉です。

投稿: kiya2014 | 2005/06/27 02:14

↑どこからどこまでが皮肉か分かんないけど、とりあえず

>マスコミ業界ほどコミュニケーション能力、営業能力、対人能力、そして人間力<すら>優れていない人が多いところもないと思っていたので、そういう業界が真っ先に危なくなるという指摘は当たり前ですね。

と読めば納得って感じ。

 新卒で入った人はどうだかわかんないけど、中途で入った人(キャリアなし)の場合、そこ以外行き場の無さそうな人が多かったような気も。人材の掃き溜めって言葉を昔の先輩が使ってたけど、言い得て妙だなと感じたことがありますな。


>>シャッチョサン
>R30はやさしく“太陽”言葉でフォローしてみました(笑)。

 灼熱地獄で御座いますとなぜ言わぬ。

投稿: うんこ | 2005/06/27 22:24

本って、いつ、どんなタイトルで出るんでしょうか?

投稿: ハーミット | 2005/06/28 09:01

 クラッシュの兆候を気付いてる人間、メディア内部でそんなに少ないですかね。
 クラッシュしてもいいんちゃう?とすら考えてる人間、身近に複数いますけど。
 焦土にしないと立て直せないところまで来てる、という認識は一定の層には存在してると思います。

 「勉強力」の論議、興味深いです。現場にいると実感します。
 「もう特権じゃない」ことを、どうカバーするかっていう点は大切です。だからこそ肝となる人材育成は大変なんス。現場でわw
 副業とか社外キャリアとかやってる人、いなくはないですが、そういう連中は他人の面倒を一切見ない、っていう問題もあります。

 内部で「改善」に取り組む限り、自己犠牲をけっこう払わないといけない。「社内に引き篭もる」状態に見えるかもしれませんね。それを中途半端な諦観と捉えるもよし、バンザイ・アタックだと笑うもよしw

投稿: クラッシュ君 | 2005/06/28 10:01

オレは地方のテレビなんですけどね。
いや、もう完全にクラッシュして欲しいわけです…。
再構築をもうはじめないと…。
今やればまだなんとかなりそうなのに…。
でも当然、一定の年齢を超えると、
保身のために思考のダイナミズムは完全に失われています。
そいつらの保身のために巻き添えを喰うのか喰わないのか。
ここ数年で、賢い奴はもうほとんど会社辞めましたけどねw
太陽…。オレの目には黒点が見えるほど近くにありすぎてあちぃーんですが。

投稿: 飴市 | 2005/06/29 01:02

飴市さん
キー局ネット配信事業開始で地方テレビ局は絶命確定なんじゃないですかね。
あと、マスコミはお給料がとってもお高いのはなぜですか?

投稿: JOLF | 2005/07/16 08:27

なかなか面白いですね。
実際、目端の利く記者などは、取材先の広報なんかに転職していってますよ。
私は、マスコミに就職してから今日まで、後退戦ばかりだったように思いますが、経営陣に上り詰めた人たちはそうは思ってないようですね。
でも、客観的に見て、経営能力は低下の一途をたどっています。
今、私は日本新聞協会の「記者クラブに関する見解」の批判をまとめつつありますが、こんな「見解」しか出せないのが新聞経営の「経営陣」の能力です。
こんな体たらくでは、いずれは、誰も新聞を読まなくなるし、CMばかりの放送も見なくなると思うのですが…

投稿: deha大河2005 | 2005/07/31 18:48

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