企業の情報システムも安くてヘボい方が勝ち
ソニーが携帯情報端末(PDA)から撤退したと思ったら、今年に入って気がつかないうちにPDAが復活していたんですと。
PDA、世界で回復――1-3月は出荷25%増(NIKKEI.NET)
原因になっているのはこの端末。Palmに比べると、メールやIMなどのモバイル通信系の機能が異様に使い勝手が良く、スケジュールとかメモ帳はクソらしい。まあ、携帯電話でメールやら写メールやらをすごい勢いで使いこなしている日本人からすると「何を今ごろ・・・」という印象しかもてないわけだが。
BlackBerryのことは、あのクリステンセンも著書の中で書いていたが、何でも「エグゼクティブ・ビジネスマンがちょっとした手すきの合間にメールを読み書きしたり文書をチェックしたり」する用途に特化して機能を絞り込んでいるため、欧米の投資銀行や会計・法律事務所などがスタッフ全員を24時間働かせるために1人1台持たせるようになっているらしい(と、こちらのブログに書いてあった)。
Palmに携帯電話の機能を早く付けてほしい、なんて話はいったい何年前から言われてきたのか、もうはるか昔の話のような気がしてすっかり忘れてしまったが、結局今ごろになってようやくそういう端末が出てきましたと。で、こういうITガジェットが大好きな投資銀行が飛びついたと。彼らは、日本の土木建築業界の作業員が工事現場で工程管理のためにカメラ付き携帯電話で進捗状況を撮影してメール送信しているという話を聞いたら、いったいどんな顔をするだろうね。
そういえば、あの「IT Doesn't Matter」でインテルやマイクロソフトに冷や水をぶっかけたあのNicholas Carr氏が、今度は「企業に自前の情報システムなんて要らねんだよ」宣言をしたというニュースがCNETで流れていたが、もし彼の言い分が正しいとするなら、テッテ的に使い倒せるメール端末に特化したBlackBerryの人気はある意味当然とも言えるような気がする。
結局のところ、ビジネスの世界というのは毎日流れていくフローの情報をいかに素早く処理して打ち返すかということに尽きるわけだ。大量に流れる情報のうち、本当に熟考を重ねなければならないものなんて1%どころか、1‰(パーミル)ぐらいしかないだろう。1日5000通のメールを受け取るホリエモンの場合で言えば、経営者としての大きな決断と行動を迫られる内容のメールというのは、たぶんそのうち5通ぐらいじゃないかと思う。
だったら、ナレッジマネジメントとか言いながら流通するゴミ情報をわざわざ増やすような仕掛けを社内にあっちこっち作るよりは、外部からの情報がそのまま必要な人のところに流れ込む単純なシステム(それはおそらくメール)だけ作っておいて、あとはそのメールをいかに効率的にフィルタし、判断し、打ち返すかという部分だけに集中しておけばいいわけで。企業が大仰な情報系のシステムを社内に持つ必要なんか、ないとさえ言える。
結構極論に思えるが、そんなに外れてはいないと思う。以前の大企業にいたときと、中小企業に移ってきた今とでは、何が変わったと言って「受け取るメールの数」がまったく変わった。前の会社では、メールは1日数十通の代わりに、確認しなければならない情報システムの画面がたくさんあった。今の会社は、何でもメールで流れてくるため、1日放置しておくとメールボックスには200~300通のメールがふつうに入っている。
でもそれで処理に困るかというと、全然困らない。ウィルスメールやスパムメールはThunderBirdが自動的にフィルタしてくれるし、フォルダごとに振り分けて整理してから必要そうなものを順番にさっさと見ていけば、処理に困るといったほどのものはない。
むしろ、データベースとしてのメールソフトの機能が非常に発達しているので、なるべく全部の情報がメールで蓄積されていれば、後から必要な情報はメールの検索で呼び出すことができる。野口悠紀雄の超整理法でも言われているように、検索対象となるデータベースは、なるべく1カ所に1つのルール(つまり時系列)でまとめてある方が良い。とするならば、企業独自のデータベースというのは少なければ少ないほど良く、結局全部メールで処理できればこれ以上合理的な情報システムはないという結論になる。
そういう理想論が通じないのは、これまで巨大な独自データベースシステムを社内にいくつも築き上げてきた大企業だ。システムだけでなく、社内の業務フローがそのデータベースに合わせて築かれているから、全部スクラップしてメールをベースにしたシンプルなシステムにしてしまおうと思っても、今さら変えられない。
Nicholas Carr氏の論文は、大企業にとってはどうしても認めたくない類の話ではあるのだが、クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」にあるとおり、「安価でしょぼいシステムで参入してくる新参者に利が大きい」ということの言い換えに過ぎないのだろう。
と、すれば、BlackBerryに飛びついてメールだけでビジネスを回す仕組みにいち早く動いた投資銀行や会計事務所の業界というのは、それなりに時代の先取りをしている…ということなのかも知れないね。
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コメント
メールで済む規模ならよろしいのではないかと。メールにフォーマットを暗に埋め込む訳で扱いの少ない末端にはいいけど管理する側はたまらんのじゃないですかね。
携帯はキャリアがコントロールしている限りリスクが高くて興味を持てないのdeath。機械は良いのに。
投稿: ほ | 2005/05/10 17:12
日本でのPDA普及が苦戦しているのは、まさに携帯電話の影響らしいですね。
携帯電話はメール機能でシステムの親和性を築いている感じですが、
もう少しデータ通信そのものが使いやすくならないかと思いますね。
スケジュールデータや写真のデータなど、
キャリア間どころか製造メーカー、機種ごとに違う統一性の無いデータフォーマットは
BlackBerryに大きく負けている点ではないでしょうか。
投稿: 終始 | 2005/05/10 18:00
何にかぎらず、「簡単操作で手間要らず」が一番ってことでしょうに。業務用なら、とくにね。いんぐりっしゅで言えばシンプル伊豆ベストですかそうですか。
諸外国の例はどうだか知らないけど、日本の大企業の場合、個々の事業の担当者が下請けに「より良いものの提供」を求めて下請けがまた馬鹿正直に「そのときできるより良いもの」を提供しちゃったりなんかするから、そのときときで「より良いもの」がずんずん積み重なって迂闊に前任者の構築したシステムを崩せなかったりすんだよね。
メンタリティが、(そのときいいと思って買った)漫画本やビデオを取っときっぱなしで片付け出来ないおたく青年と変わらないんでしょ。アホですな。
投稿: うんこ | 2005/05/10 20:31
>Palmに携帯電話の機能を早く付けてほしい
スマートフォンというやつですね。
アメリカでは何年も前からTreoという製品が出ていて、ヒットしてますよ。
日本じゃ携帯会社の意向のせいか、いつまでたってもスマートフォンは出てこず、そうこうしているうちにPalmの日本語版がなくなりつつあります。
結局日本でGSMを採用しなかったツケと、インセンティブに頼った普及戦略のツケが、こういう形でも出てるんでしょうね。
携帯鎖国ニッポンの悲劇ですな。
投稿: Baatarism | 2005/05/10 20:57
うる覚えですが、ホリエモン一家に導入されてるのが、まさにそのメールを中心にした情報システムだったような気が。
詳細はコチラ。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4492501312/249-5879164-7722761
投稿: tomo | 2005/05/10 22:15
ほりえもんメール術は面白いですね。立ち読み斜め読みのうろ覚えですけど。ただ、実現するには資本もそうだけど会社の規模や利用者の人間性にもよるんじゃないでしょうか?
2,30人程度でやってる会社に導入しても、現場権限つーか個人パワーが強すぎてすぐにシステム踏みにじられるでしょ。
小っこい会社って「ものぐさなんだけど妙に優秀な人」が意外と幅利かせてたりするし。それでうまく回ってたりすることもありますし。
個人的感想としては、20人以上の社員(部署5つ以上)、総従業員100人規模にならないと、具体的な必要性って感じないんじゃないかと。零細企業だと発想の根本だけ頂いてメモや貼り紙等で代用しても全然間に合うわけだし。
それに、要は「命令系統の一本化」「周知徹底」「交流速度の向上」が達成されればそれで良いわけだから、「メールで」というのは手法のひとつに過ぎない。
ここで「あ、メールがいま流行りなんだ!?」「ほりえもんがやってんだ」とか言って安易にIT技術に流れてもしょうがない。そういう手合いに限って、使いこなせないくせにシステムが悪いとか無茶な文句垂れるし。
ハイテクローテクアナログデジタルにこだわらず「会社としてやるべきこと」を追及すれば、おのずからやるべきことは見えるんじゃないんかな? と思うわけですが。
あと、PCアレルギーのあるやつは、幾ら便利だ凄いといっても絶対に適応できないという根本的な問題がある。そういう人たちに対して冷厳であることは、必ずしも社会にとって良くないでしょ。会社にとっては切ればいいだけのことなんでしょうけど。
この手の話って、やみくもに上見て話するよりも「立場上最底辺はどうすればいいのか」に話を落とし込まないと、また一過性で終わりそうな悪寒。
つかイデオローグじゃなくてテクニカルな話題だからこそ落とし込みが重要だと思うので、そこのところ履き違えなきよう。
投稿: うんこ | 2005/05/10 23:48
あっちの方は忙しくてタイミングを逃してしまっていまさらの感じとなってしまいました。
(scottさん、済みません。)
ところで、BlackBerryが欧米で根付いている大きな要因の一つに、日本とは異なり残業(もしくは残業代支給)という概念がないからじゃないっすかね、とにかくある程度の時間になったら引き上げますから。そうはいっても時差とかあるし、関係者からの連絡は気になる。
そんなとき、BlackBerryは便利です。
だけど、添付ファイルへの作業までしたい日本人には物足りないかもしれないですね、「続きはまた、明日」なんてメンタリティが根付いてくればいいですけど。
投稿: antiECO | 2005/05/11 08:41
BlackBerryは、元々ポケベルの機能を使ったメール端末として発売されたもので、機械自体は結構古くからあったそうです。
(参考)
http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/keyword/23251.html
投稿: 通りすがり | 2005/05/11 10:47
メールですべての情報管理を行っている人がどうしているかしらないが、情報発信と情報蓄積、情報管理は分けて考えたほうがいいと思う。
すべての情報がメールで発信されたらユーザはたまらないし、情報を取り出すときに、きちんとまとめられている保管場所からの方がいいにきまっている。
投稿: freedom | 2005/05/13 11:32
確かに電子メールというツールは便利だと思いますが、そんなに汎用性があるのでしょうか? 電話に比べて1.記録が残る 2.相手が不在でもメッセージは残せる3.多数同報も簡単などの利点はあるでしょうが、会計処理、在庫管理などの企業内のどちらかといえば地味で確実性を求められる処理にはむいていないのではありませんか。
投稿: ダンコース | 2005/05/19 12:31