【速報】ライブドア、6月初めに「ブログニュース」欄を開設
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メディアビジネスのバリューチェーン(最終回)

2005/05/21

ネット時代の「マネ下デンキ」戦略の成否

 ライブドアブログニュース問題をきっかけに、さっそくあちこちで釣られた人たちが盛り上がっている。で、さっそく「絵文録ことのは」の松永氏から、格好の釣り餌が垂らされてきた。なんかもう、これに食いつかなかったら「マーケティング」の看板下ろすしかないだろうって感じの(笑)釣り餌なので早速釣られてみる。

 ライブドアは「松下電器型」か。ブログニュースに見るサービス展開スタイル(絵文録ことのは)

 松永氏は『「おんなじものを今さら」やるというのが、ライブドアなのだと思う。そして、そのやり方の先駆者として、日本を代表する家電メーカー松下電器がある』と述べている。…大変いいポイントである(笑)。

 ここでは、現在の松下電器産業がどのような商品戦略を取っているかは、松永氏と同様、とりあえず脇に置いておき、ライブドアの何でもパクリ作戦と、かつての(60~80年代ぐらいまでの)家電の王者松下電器とが、戦略的に同じかどうか?だけを問題にする。結論から言うと、「全然違う」。

 かつての松下電器のような「ソニーが何か新製品を出すと、すかさずそれとそっくりの商品を売り出す」というのは、いわゆる「同質化戦略」と言われる手法である。これは、本来はシェアで劣る二番手、三番手企業の取るべき戦略ではない。ソニーが丹精込めて作った独特の新製品をあっと言う間に色あせさせ、コモディティ化させるのは、その市場において新参者の影響力を可能な限り薄めておきたいトップシェアの企業が取る戦略である。

 まずその点において、家電の流通チャネルで圧倒的なトップシェアを握っていた松下と、ネット企業としての総合的なブランド力やリーチでヤフー、楽天の2社にまだまだ及ばないライブドアは、同列には論じられない。

 いや、そうは言ってもライブドアは既にヤフー、楽天に続く「トップグループ」のプレーヤーじゃないか、という反論もあるだろう。それでも僕は、「ライブドアは松下とは違う」と思う。

 その理由は、まさに松永氏のエントリに彼自身が「松下電器の戦略」について書いている部分で示されている。

製品を出してくるのは二番手、三番手、あるいはそれより後かもしれない。だが、かならず松下電器は先発の製品をよく研究し、そのよいところ、悪いところを見て、消費者になじみやすい「合格点」の、あるいは「無難」な製品を出してくる。こだわりがあるとか、プロならばもっと別の専門的なメーカー、個性的なメーカーの製品を選ぶのだろうが、普通に使いたい一般のユーザーにとって、パナソニックなら「外れはない」というところを突いてくるし、そして大体の家電品については商品ラインナップが揃っていて「安心」できる。
 往年の松下の「マネ下デンキ」たるゆえんは、まさにこの「後からかならず、無難な、合格点の」商品を出してくるというところにあった。

 松下幸之助翁のエピソードは数多いので、僕も実はうろ覚えなのだが、確かこんな話があったと思う。マーケティングの世界で、プライシング(価格戦略)の秀逸な事例として今でも伝説になっている話だ(間違っていたら誰か指摘してください)。

 ある商品(もちろん他社が作った商品の後追い)を作った社員が、幸之助にそれを見せて「どのくらいの値段で売りましょうか」と相談した。幸之助はその社員に「どのくらいで売ろうと思てるねん」と尋ねた。社員が「競合が値下げで追随できないぐらいの価格(確か3割ぐらい下だったか)にしようかと思てます」と言うと、幸之助はこう言ったという。

 「おまえさん、そら、あかん。まず最初は、競合が値下げで追随できるぎりぎりのところに値段をおくんや。2割5分ぐらいや。そしたら、たぶん向こうは必死になってコスト見直して、値段を下げてきよるやろ。下げてきたとたんに、こっちはひょいとまた3割に下げるんや。これで競合は『松下はあれでもまだ値下げの余地があるんか。これ以上正面から打ち合っても勝てん』と諦めて、値下げして来んようになるんや。よう覚えとき」
 なんともはや、えげつない手口である(笑)。これでこそ松下。

 最初に製品を作ったメーカーの商品には「世界初」「日本初」などのブランド・プレミアムが乗る。松下にはそれがない分、オリジナルより少しだけ使い勝手の良い商品をオリジナルが追随できない程度の低価格で売る必要がある。その、「追随できない」ということを、2段階で相手に思い知らせるというのが、経営の天才と呼ばれた幸之助独特の心理作戦の真骨頂であった。

 翻って、ライブドアのサービス戦略はどうだろうか。消費者向けのネットサービスはほとんどタダなので、プライシングの工夫は存在しえない。とすれば、幸之助の「2段階」をサービス内容のみでやって見せなければならない。つまり、競合より「ちょっと使い勝手の良い」サービスを、ちょっとずつ改良して見せて、常にこの分野でトップは譲らないよ、ということを示さなければならない。

 だが、これまでライブドアが競合のマネをして始めたサービスが、競合より「ちょっと良かった」試しなどあるだろうか。あったら実例を教えてほしいものだ。ヤフーの劣化コピーのようなサービスはいくらでも存在するが、ヤフーより「ちょっと良い」ものなんて、ほとんどないのではないか。

 一方、最近のヤフーはかつての「松下」的な戦略に忠実である。はてなをパクろうとした「知恵袋」こそコケたが、業界最後発で参入したブログも、なんだかんだ言われつつ作成者数のシェアでは10%、ネットユーザーのリーチで24%(ブログ閲覧経験者の中では39%)も取っている(詳しい調査データはこちら参照)。ネット業界の「マネ下」の称号を冠するなら、ヤフーこそそれにふさわしいと思うんだが。

 前のエントリで僕が「追求すべきはエキサイトブログニュースとの違い」と書いたのも、既に「ブログニュース」のサービスではエキサイトが(中身はともかく)トップブランドであり、後発で勝ちたいならエキサイトより「ちょっと良い」サービスをやらんとダメだぜ、という意味を込めたものだ。これが「サービス内容は同じだけど、価格がちょっと安い」なら分かるのだが、ネットサービスに価格もくそもない(しかもヘッドラインをクロールするブログがうちを含めてエキサイトと似たようなラインナップになることが既に見えている)以上、巡回サイトをエキサイトから切り替えるだけのメリットみたいなものが、やはりユーザー側に提示されてしかるべきと思うのだ。

 …とまあ、これはネットのサービス=リアルの製品、という比喩が成り立つものとして論を立ててみたわけだけれど、実際に劣化コピー的サービスの山を築きながらもここまでのし上がってきたライブドアを見るにつけ、実はもう「マネ下」的な同質化戦略の効果というのはほとんどなくなっているのかも知れないと思う。

 その証左というか、まさに本家本元の松下が2000年に入ったあたりから「V商品」とか「破壊と創造」とか叫びながら、製品戦略においても「他社よりちょっと良くて安い」という往年の松下流をかなぐり捨てようと必死になっているのを見ると、そのあたりの競争のルールそのものが、何やら根本から変わってしまったのではないかという気もしてしょうがない。

 経営学とかマーケティング理論とかをまじめに考えている人がいたら、ここらへんを「なぜ」で掘り返していくと、意外と面白い発見があるかもしれませんよ。やる気のある方はぜひどうぞ。良い理屈を考えついたら、ぜひ教えてください。

11:28 午後 メディアとネット

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狭い世界では、「ベキ法則」が通用しないんだろうか? トラックバック FIFTH EDITION @2005/05/22 0:57:09
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ライブドアと棲み分け理論 トラックバック Dancin' in the Dark @2005/05/22 1:22:52
ライブドアのニッポン放送買収、ついつい気になってしまいます。 とは言っても、ライブドアがニッポン放送を傘下に入れて、あるいはフジテレビに影響力を行使できるようになったとして、具体的に何がしたいのかよく分からない現状では、ただ成り行きを見るしかできないのですが。 ライブドアの拡大過程をみて面白いのは、いわゆるアメリカ流の事業戦略のセオリーに一見反しているように見えるところです。 ふつう、事業戦略を考えるとき、ある製品・サービスにおいて何らかの形でリーダーシップを取ることが求められます。競争優位性とい... 続きを読む

Mission トラックバック @kira log @2005/05/22 18:00:55
[R30]: ネット時代の「マネ下デンキ」戦略の成否 この記事を読んでいて気付いた事を少し。 続きを読む

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思わず、にやりとするような記事を発見。まえまえよりウォッチさせてもらっている、R 続きを読む

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Comments

>「なぜ」で掘り返していくと

良い言葉です。

なぜの嵐ってわけですね。

POSTED_BY:mrcms @2005/05/22 0:12:32

はじめまして。古い記事なのですが、TBさせていただきました。
ネット時代の戦略は従来とルールが違って面白いですね。たぶん、土俵が無限大(?)なので競争からこぼれ落ちないという読みなのでは。
あと、私のblogは他の記事は野球ネタばっかりなので、適当にスルーしていただければ。

POSTED_BY:kazu-ct @2005/05/22 1:33:12

R30さんは優しいね。

POSTED_BY:M @2005/05/22 7:54:34

R30チンはヤケになったか?

極東ブログ落選模様に…
しかし、栗先生には! あはは

POSTED_BY:noneko @2005/05/22 9:55:40

極東ブログは知的&達観過ぎてライブドアの知能欠如社員の理解の範疇を越えていたんだよ、と言ったら他のブロガーが怒りますかそうですか。

POSTED_BY:くれふ @2005/05/22 16:34:25

ライブドアは極北志向だから極東とは反りが合わないんじゃない?

POSTED_BY:うんこ @2005/05/22 19:32:28

R30さま
釣られて書いてみたものをTBさせていただきました。まずはざっくり、ですが、このテーマ、深堀りするとおもしろそうですね。

POSTED_BY:tsujita @2005/05/23 1:24:43

ライブドアがヤフーよりちょっといいサービスっていうと、地図とかどうでしょうね。 http://map.livedoor.com/
MapFan のサービスを買って来て構築してるだけですが、UIがシンプルなのと、MapFanではID登録が必要な「るーとMap」の機能がID登録無しに使えるんで、気にいってます。

ライブドアのIDは持ってないんで、ID登録がないと利用できないサービスの善し悪しはわかりませんが(笑)

POSTED_BY:崎山伸夫 @2005/05/23 3:11:33

あ~、松下ってそういう戦略だったのね~・・・
しかし、消費者の選択の基準に、ネットでの口コミってのが加わってくるとマネ下戦略はどうなんでしょ。
無難だからありなのか?模倣は駆逐されるのか?

考えてみると同じ戦略とってる大企業が他にもあるねぇ
ホンダとソニーがよく比較される理由もまさにこの辺にあるわけか・・・

POSTED_BY:くりすた @2005/05/23 23:00:46

R30さんのマネ下情報は古いです。現在は2005年です。感想はそれだけです。

POSTED_BY:黒姫 @2005/05/24 21:44:56

↑だから「60~80年代ぐらいまでの」て書いてるのでは?
何を指して古いと言っているのかよく判りませんが、そう思いました。

POSTED_BY:nac @2005/06/09 18:29:18

>ネットでの口コミってのが加わってくるとマネ下戦略はどうなんでしょ。
今、松下は営業の主体をネットでの口コミ作戦に移している。松下の商品を必死に褒め上げ、敵となりそうな商品は徹底的に悪い口コミで蹴落としている。2ちゃんねるの口コミ、アマゾンなどのサイトの口コミには大勢の松下の工作員が必死に評価のコントロールをしている。もはや、口コミの評価は殆どあてにならない時代になった。

POSTED_BY:まねちゃん @2008/01/22 22:12:08

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