新卒学生に見放されるマスコミ業界
東京では満開の桜ももう終わり。昨日の雨で、ほとんど散ってしまった。言いようもない侘びしさを感じる。
さて、少し古い話だが、「札幌から ニュースの現場で考えること」の高田氏が、3月26日のエントリで秀逸なメディア経営論を書かれている。本人は「ぼんやりと感じたことをランダムに記した」と言っているが、ランダムに書いたつもりのメモでもロジックを貫き通してしまうのが優秀な記者というものだ(笑)。
(4/14 20:16 リクルートの発表に合わせて少し追記しました)
このメモランダムは、そのまま既存の通信社のビジネスモデル批判であり、地方新聞社の経営の可能性を示唆する内容になっている。ありていに言うと、密かに書こうと思っていたことを、全部書かれた。orz それはともかくだが、マスコミの現場最前線の人間からの知見として、これ以上の重みを持った言葉もないだろう。
マスメディアとネットのかかわり方について、昨年からいろいろなエントリを書いてきた。当時はまだあまり注目してくれる人も少なかったが、今年2月のホリエモンの一件以来、まさにこのことが日本全体の大きなテーマになった気がする。2005年はマスメディア大変化の年だなあ。
そういえば、高田氏のブログのコメント欄に、「マスコミの終焉って感じのデータが3月末に出てくる」と書いた。もったいぶったくせにその後その話に何も触れてこなかったのはそれなりの理由があったのだが、あまりもったいぶっていてもしょうがないし、ちょこっと書いておこう。
そのコメントを書いた高田氏のエントリで触れられていた、共同通信の小池氏の発言に絡むことなのだが、マスコミの中の人に言われるまでもなく、今どきの学生はマスコミを見捨て始めていますよ、という話だ。
とあるところで入手した、2005年卒と2006年卒(予定)の新卒学生が「就職したい」と答えた業界の比率の、変化のデータである。
メーカー | 27%→35% |
金融・商社 | 17%→19% |
情報・通信・コンサル | 14%→12% |
人材・サービス | 16%→17% |
マスコミ | 25%→14% |
出所はちょっと言わないでおこうと思うが、サンプル数は万単位、信頼精度はかなり高い調査である。「求人企業の広告の影響を受けていない団体の調査」であるとだけ言えば、業界の人は分かるだろう。
さすがに僕も最初見たときは、マスコミ業界のこの突出した落ち込みぶりに「でっち上げじゃないのか」と目を疑ったのだが、現時点では残念ながら検証可能な別のソースからのデータがない。なので、嘘だと思うのは読者の勝手ということにしておこう。
実際のところ、就職市場におけるマスコミ人気というのはここ数年はげ落ちかかっていた気配はあったのだが、実際にここまで露骨な数字になると、きついものがあるね。
原因は僕もよく分からないが、そもそも就職における企業の人気というのは、ベタなところで学生が日常的に接する企業ブランドの多さみたいなものに比例する傾向が昔から強い。いかに優良企業であっても、BtoBのビジネスだけに特化した会社は新卒学生を集めるのに苦労する。
それから考えると、マスコミ人気の低下の原因は、おおざっぱに言って若い世代のマスメディア接触頻度が落ちて来ているからというのはあるんじゃないだろうか。もちろん、共同通信の小池氏のように「志の高い奴は来るな」と放言したり、インターネットへの対応を聞かれて「僕の目の黒いうちは紙の新聞や雑誌はなくならないよ、はっはっは」などと呑気に答えて学生に呆れられてしまうような業界内の偉い人のせいというのもあるだろうけれど。
少なくとも業界の中の人間が、ぬるま湯な思考停止的態度か極度に悲観的な自虐的態度しか示せないというのは、口コミ情報のウェイトが飛躍的に高まってきている新卒就職の市場では致命的な問題には違いない。僕自身も、以前(といっても数年前だが)にOB訪問しに来た学生に、「これからこの業界はものすごい勢いで給与水準の是正と企業淘汰が進む。そういう縮小均衡業界で果敢に戦ってやるという気概がない限り、ここに就職しても辛いだけだよ」と話したことがある。言葉は多少違うかも知れないが、学生の身の上を思ってアドバイスすると、結局小池氏のようなことを言わざるを得ないのが今のマスコミ業界なんだろうなとも思う。
以前にある企業の人事担当者が、「採用市場というのは、突き詰めると『学生に自社の将来をどう売り込むか』というマーケティングなんだ」と言っていた。そういう意味で言えば、今のマスコミ業界には新卒採用のマーケティング戦略が全然足りない、ということが上のデータの意味なのかもね。
ところで、最後にアナウンス。もう気がついている人もいるかもしれないが、自分自身、その議論を振り返る意味で過去のエントリを読み直し、月別のバックナンバーを1行コメント付きで一覧にまとめてみた。まだ全部完成してないが、昨年11月から今年2月までの3ヶ月分を入れてみたので、興味のある方はご覧ください。右メニューのカテゴリー欄の「バックナンバー一覧」から見られます。
(4/14 20:16 追記)リクルートから恒例の「就職人気企業ランキング」(PDFファイル)の発表が出た。フジテレビ、朝日新聞、NHKの定番御三家とも大幅下落。つられて電通もなぜか順位を下げている。一方でベネッセ、講談社、博報堂、テレ朝などがなぜか健闘(笑)。他の新聞やテレビなどが分からないが、御三家のランクダウンがやはり影響しているっぽいね。
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コメント
「SPA!」の記事「貧乏さんはR25を貯めている」に大笑い。
投稿: レッツバリボー | 2005/04/12 13:15
>バックナンバー一覧
タイトル一覧とそれへのリンク集ならばCGIでの自動作成とかもできるので、依頼あれば基本データ部分を作りましたのに。
↓ちなみに、R30::に対応してみました。(ココログ偵察衛星)
http://www.jienology.com/cocolog/index.cgi?t=r30&new=15
投稿: ウェブログ図書館 館長 | 2005/04/12 13:28
こんにちは。半減近くですか、衝撃ですね。ところでマスコミというとテレビはともかく新聞、雑誌ですかね、大きく下げたのは。項目別の数字だったらもっと凄いかもしれませんね。特に新聞はネットに食われているのが肌で感じるくらいですから学生なんて行かなくて当然ですよね。
投稿: hasenka | 2005/04/12 14:44
拙文ではありますが、トラックバックいたしました。
学生の志望比率についてマスコミが半減してますが、半減というよりも本来あるべき数字に戻ったような感覚を最初に受けてしまいました。
その理由がどこにあるかは自分でもよくまとめきっていませんが。
ひとつはマスコミの主要な収入源であるはずの広告(もしくは広告の効果)について、学生に限らず社会的にもそろそろ如実に見抜かれてきたということではないのかと考えています。
投稿: scapa | 2005/04/12 17:52
マスコミ幻想もそうだけど、ある一時期にパーっと人気が出て時の商売になるものは、たいてい5~10年で廃れるものですよ。5年…かな? 10年保てばたいしたもんだ、とも。
ひと昔前は土地取引や不動産関係の職場が人気だったしスチュワーデスとか航空産業もそうだし、最近ではゲームバブル、ITバブルなんかもそう。ある一時期にマスコミその他の媒体でググッと人気の出る職種は、大抵入ると地獄絵図だったりするんで、人気の有無で職を選ぶよりは「自分の身の丈・やりがい・つまらなくても耐えられるか否か」を基準に職を選んだほうがいいと思います。あと、給与水準としては250万前後でも納得とか、そのへんから入らないと。
結局、人気商売ってのは流行り始めの数年(正味2,3年)がいちばんの稼ぎどき。ということは、新卒者はともかく、高校とか大学入りたてとか、そのへんの人が憧れても、いざ「実際に入るとき」には既にグダグダになってたりするもの。
で、子供の頃に感じていた幻想性とグダグダな現実のギャップに苦しんで辞めたりヘタれたりするだけなんよね。
先見の明を謳うなら、いま切先の人気職じゃなくて、5~10年後に流行りそうな職種を思い描き、そのとき目指して辛抱するくらいのほうがいい。そういうのを見る目がなければ、そりゃまあ「人気職群ガリーノ→地獄絵図→都落ち・半狂乱」路線でもしゃーないかなー、と。
仕事選びは大事だよー。
投稿: うんこ | 2005/04/12 19:41
学生時代、マスコミ志望だった私としても驚きの結果でした。「マスコミ死亡」とさっき変換され、苦笑してしまいましたが。
結局、こんな感じですか。
NHK→不祥事→解体の道をたどりそう
フジ→ホリエモン攻撃で旧体制の象徴に
読売→巨人戦の視聴率低迷で先行き暗そう
朝日→全体に迷走気味でわけわからん
毎日→つぶれそう(毎日の人、ごめん)
出版→本なんて学生が読んでない
あと、全体に理不尽な多忙さを押しつけられて、人生の時間も無駄にしちゃいそうだなと思っているのでは?
投稿: hakohugu | 2005/04/12 19:57
二年以上のデータが気になるところですね。
もともと年度ごとに変動の激しい種のデータなのかもしれないし。
不祥事続発が直撃したという印象ですね。
これだけでは、業界全体の浮沈をいうのは難しいかもしれない。
一年でメーカー8%伸びてるのも接触機会の増加というより
2004年夏のデジタル家電好調の報道が大きいのでは。
>うんこ氏
人気職群ガリーノは資本主義と民主 主義が高度化した社会なら当然で、
20歳そこそこに先見の明を求めるのはつらいんじゃないかなぁ。
辛抱能力が大事になるのは同意ですが。
投稿: ねなし | 2005/04/12 20:30
>ねなし様
いやぁ。そのために皆さん大学逝って真面目にお勉強したり会社訪問やOB・OG訪問して見聞を広めるんじゃないの?
20歳そこそこに求めるのは厳しいかもしれないけど、でも、ある意味「求められて当然」だから、高度学歴社会なんじゃないかと。
ってまぁ高度学歴社会なんて嘘っぱちですから、一部の真摯な方々を除いて「20歳過ぎても」人気の有無で仕事選ぶ幼児性の強い人がいても、そりゃしょーがないのかなって思います。
どうせそれなら、中卒高卒で夢見て爆走後玉砕してる人たちのほうがずっと立派ですよね。
で、そういう人たちが「人気職」を作るんですよね。往々にして。
どうせ世の中そういうものですから、一生懸命お勉強してる人たちは、だからこそ、流行り廃りに惑わされず自分の人生をしっかり考えてほしいと思いました。
おわり
投稿: うんこ | 2005/04/12 20:43
つーか、逆張りでいうと狙い目がマスコミだったりするのですか。
ある程度覚悟の上で粘ればネット進出とオピニオンリーダーでウハウハですか。
投稿: ねえ | 2005/04/12 21:17
それだったら吉本でも入って自分自身が売れる素材になるべきだと思います。
単純に逆張りしただけだと、いいとこADが関の山じゃないですかね?
より以上のクラスは、良くも悪くも学閥閨閥で占めるでしょ。普通に。
投稿: うんこ | 2005/04/12 21:26
カリスマ記者路線もあり。
まあ本人の実力次第だけど、競争相手は少ないほうがいいに決まってるわけで。
投稿: ねえ | 2005/04/12 21:30
メーカーって何だ。食品とか鉄鋼とか車、家電も一緒か。エネルギーはサービスに含まれるのかな。
おい、うんこ、農業がないぞどうする。
製造業は他業種と比べて賃金安いけど安定的という印象だけど学生が流れ込むほどの魅力あるのかなあ。
理系なら専門性が高くて大した選択肢が無いんで変動は文系浮動学生の意識ってことでいいのか知らん。
投稿: ゴル | 2005/04/12 22:06
文系の人こそ自分で仕事を作り上げる能力が必要なのかなとも思うけど…。
理系の人が一念専心で仕事を成し遂げ文系の人が流行り廃りに流されるようでは、真の学歴社会とは言えませんね。
>ゴル様
農業は仕事のうちに入ってません。いまのところ。20年待ちでしょ。
投稿: うんこ | 2005/04/12 23:19
内部に潜りこんで企業内起業。
リスクを低く創業できるようになるのが流れではないかと。
・・・日本でもプレゼン次第ではありな気がしないでもないような。
これが最後のレスです。くどくてスマソ。
投稿: ねえ | 2005/04/13 00:59
そんなことねえよ。
投稿: a | 2005/04/13 21:40
>内部に潜りこんで企業内起業。
それやる気が全くないからワークシェアリングとか派遣差別とかやってんじゃないの? しらんけど。
投稿: うんこ | 2005/04/13 21:48
ここ数日、急にアクセスが増えるので、どうしてだろと思っていたら、かなりの方がR30さんのブログ経由のようです。影響力の大きなブログに取り上げられると、一気に注目度が高まる、、、種々の問題はあるんしても、これはまさに、ブログがメディアになりつつある実例かもしれませんね。
今後とも、どうぞよろしく。
投稿: 高田昌幸 | 2005/04/14 03:02