メディアビジネスのバリューチェーン(その3)
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青梅についてのあれこれ

2005/04/18

サラリーマン経営はオーナー経営より強し

 「ああ、とうとう勝負あったか」と思った。今朝の日経のニュース「メディセオとパルタックが経営統合」を読んで、ふとそんなことを考えた。

 一般人からはあまり見えない業界の話なので、ピンと来ない人も多いだろう。少し説明しておくと、メディセオホールディングスは、2004年にクラヤ三星堂とアトル、エバルスという3つの医薬卸が合併してできた国内最大手。パルタックもこれまで多くの問屋が合併してできた会社で、日用雑貨卸の国内最大手である。

 メディセオの前身であるクラヤ三星堂は、国内最大の製薬メーカー、武田薬品工業の系列卸であり、病院や薬局に圧倒的な取引の強みを持つ。ここ数年、医薬卸は業界再編が相次いでおり、メディセオは武田直系という商品力に加えて、規模の競争でもその先頭に躍り出た。

 ただ、メディセオにも弱点があった。それは大衆薬である。大衆薬の国内最大手は大正製薬。武田の商品力にものを言わせられない分野だ。しかも、主要流通ルートであるドラッグストアは近年ものすごい勢いで成長し、しかも安売り乱売合戦を重ねてきたので、厚労省が決める「薬価」などというカルテルは存在しない。

 しかも、ドラッグストア向けは他に日雑、食品の卸も入り乱れての競争となる。メディセオのドラッグストア向け卸売り事業は、1兆2000億にのぼる連結売上高のわずか4.5%に過ぎない。今年4月にスズケンから大衆薬卸部門の譲渡を受けて医薬卸業界の最大手にのしあがったコバショウ(売上高1650億円)の3分の1の規模しかなく、タケダブランドを使ったごり押し以外に売り上げ拡大のすべがなかった。

 武田薬品の強みはなんと言っても医家向け医薬品であり、ドリンク剤や風邪薬といった一般向け医薬品で特段の目玉商品があるわけでもない。メディセオにとっても、たかが5%にも満たない売上高など、これだけ医家向けの取り扱い規模が拡大すれば、切り捨てても何の不都合もないだろう。そのうちスズケンのように、大衆薬に見切りを付けるのではと思っていた。

 ところが、メディセオはドラッグストアをあきらめていなかった。日用雑貨卸で国内最大手のパルタック(売上高3846億円)を株式交換で吸収合併した上で、メディセオの大衆薬事業を譲渡するという「ウルトラC」を打ち出したのだ。

 コバショウの強みは、小林製薬という、製薬メーカーでありながら芳香剤で圧倒的なシェアを持つ会社の傘下で、日雑と医薬の両方をカバーする品揃えを握っていたことにある。ドラッグストアが物流合理化などの意識を強めれば強めるほど、武田薬品の薬以外なら日雑と薬のどちらも扱え、物流システムのノウハウを持つコバショウが有利になると見られていた。

 ところが、低コストの物流構築では圧倒的なノウハウを持つパルタックがメディセオに合流することで、この分野の業界地図はまったく変わる。ドラッグストア向け卸の売上高では、メディセオ+パルタック連合が約4400億円と、コバショウの2.5倍という圧倒的な規模に達する。品揃えも、これまで他の医薬卸が決して扱えなかった武田薬品系のラインナップが加わることで、ほぼ完全なフルラインとなる。これをひっくり返すのは、並大抵のことではできないだろう。

 ところで、僕が「勝負あったか」と思ったのは、大衆薬卸のシェア争いのことではない。大衆薬あるいはドラッグストア分野における、卸と小売りの覇権争いのことだ。

 ここ数年、ドラッグストア各社は医薬分業の進展を追い風にものすごい勢いで売上高を拡大してきた。だがこれは、はっきり言ってしまえば医薬卸がパパママ経営の零細調剤薬局向けに提供していた運転資金提供の仕組みを逆手に取って実現した成長で、実はドラッグストア自身の経営イノベーションがもたらしたものではない。

 だから、本当であれば急成長のために悪用した医薬卸の仕組みが消える前に、その果実をきちんと確定するべきだった。つまり、ある程度の店舗網を作り上げた会社は、それをうまく利用しつつさらに小売り側から覇権を狙えるだけの仕組みを作った会社に身売りして規模を拡大すべきだった。

 でも、そうはならなかった。業界内にはいくつかの規模拡大の核になりそうな会社(マツキヨ、イオンウエルシア等)が出てきたものの、結局寄り集まった仲間をうまくまとめるのに失敗し、規模を生かした次のステップへ進むことができないでいる。

 その間に、今度は卸の側がM&Aを繰り返して規模と取り扱い領域をどんどん拡大し、ドラッグストア側に制度悪用されないような対策を打ち始めた。おそらく、その象徴がメディセオ+パルタック連合だ。

 今、地方で群雄割拠する中小規模のドラッグストア企業は、どこも従来のような勢いでの店舗網の拡大も利益の増大も狙えなくなり、窮地に陥っている。おそらくこれから2~3年の間に、倒れる企業が続々と出てくるだろう。

 いや、むしろ誰も倒れないかもしれない。卸各社は小売りを「分割して統治」するのが一番おいしいことを知っているから、倒れそうになった会社は必死で経営指導して何とか生き返らせ、オーナー経営者をちやほやして、他の大きなチェーンに吸収合併されるのを嫌がるようにし向けるだろう。

 ドラッグストアが急成長していたころ、「もしかしてこの中から米国のウォルグリーン(米国最大のドラッグストアチェーン)になるような会社が出てくるのではないか」という期待が漂っていた。だけど、たぶん日本のドラッグストアチェーンからは、これ以上型破りな規模に成長するような企業は、出てこないだろうと思う。卸がその前に規模を拡大して、強くなってしまったからだ。

 小売りよりメーカー、卸のパワーが強い分野では、小売りは絶対に一定規模以上に大きくならない。衣料品ではそういう巨大メーカーが存在しなかったから、ダイエーやイトーヨーカ堂、ジャスコのような巨大小売りが出現した。一方、食品分野は菱食、国分などの卸が非常にしっかりしていたので、食品スーパーはせいぜい2~3県をまたぐ規模のチェーンしか生まれなかった。

 ドラッグストア業界は、日雑と医薬と美容という3分野に商品がまたがっているだけに、強い卸が出てこなければ全国制覇する小売りがもしかしたら生まれていたかもしれない。だが、メディセオとパルタックという「サラリーマン経営者」の経営する会社が、猿山のボスザルのような「オーナー経営者」だらけのドラッグストアチェーンよりも、結果的に先に規模の旗を立てた。こうなっては、もはやマツキヨといえどもタダの「首都圏地盤のドラッグストア」に過ぎない。

 日本の流通業界を見ていると、経営者たちが自らのオーナーシップにこだわるあまり、業界としてのイノベーションを起こせずに企業を立ち枯れさせていくケースがあまりにも多いと感じる。もしかして、「ウォルマートのような企業が生まれない」という意味ではそれがいいことなのかもしれないが、どこか寂しい気持ちもするのは僕だけか。

05:30 午後 経済・政治・国際

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医薬品・日雑卸の再編 トラックバック 一日一喝 @2005/04/19 9:14:41
「中小小売店」保護政策はあっても、「中小卸」保護政策に政府が取り組んだという話は聞いたことがありません。しかし実は、「卸」と「小売」の境界線は人為的なものです。例えば自動車ディーラーは消費者に直接売っている車のほうが多いのに、メーカーと直接取引をしているという理由で「卸」扱いされることがしばしばあります。配送センターを持ちメーカーのトラックで直接商品を受け入れるスーパーマーケットチェーンは、卸が従来担ってきた機能の多くを自分のものにしています。  家具(例:イトーキ)、おもちゃ(例:河田)、医薬品... 続きを読む

「メガ卸」の時代幕開けーメディセオ×パルタック 業種の枠超え... トラックバック 両国さくらのファッション・イン・ファッション(FashioninFashion) @2005/04/21 0:07:35
今日は、同じ日経MJの「電子マネー、普及に弾みーエディ、1,000万枚突破へー」の記事について書こうか、昨日の高松塚古墳の話の続きにしようか、それとも上記タイトルにしようかかなり迷ったのだが、他のテーマについては後日また書く機会があるだろうし、あまり他の...... 続きを読む

Comments

豪腕イオンもさすがにお山の大将たちをまとめきれませんでしたね。
イオンウエルシアは早くも離脱するドラァグストアーチェーンが出てきてますし。
話は変わるかもしれませんけど、小生の暮らしてる九州にはホームワイドというホームセンターチェーンがあるのですが、気付いたらイオン傘下になってて驚きました。
ベスト電器はどうなってしまうのかしら、、、。

POSTED_BY:█░█▓さん @2005/04/18 18:05:47

面白く読ませて頂きました。パルタックの吸収で、雑貨系のチャネルがOTCメーカーにも一挙にひろがるわけですが、このチャンスを生かせるメーカーがどれぐらいでてくるのでしょうね。
雑貨系のメーカーが医薬品をやると面白いと思うのですが、ちょっと技術ノウハウ、開発力、工場の基準などで難しそうです。

POSTED_BY:大西 宏 @2005/04/18 18:14:54

 面白かったですよ。今後の動向に対する洞察なんかも入ってると、さらに良かったかもしれませんね。諸刃の剣っぽいですけど。

POSTED_BY:うんこ @2005/04/18 19:41:39

さらに、たばこ産業と合併するといいぞ。きっと。

POSTED_BY:野猫 @2005/04/18 21:16:28

私利私欲から放たれているから強いのですかね。オーナー経営はその人があってこそ、その人以上にはならず、という。

すげー関係ないけど、うんこはきんちゃんなん?

POSTED_BY: @2005/04/18 22:50:07

たいへん納得ができました。
地方の零細企業経営の私にも読み応えがあります。
ほんとうなら、こういうお話を商工会議所や
地方の商業団体で聞けるようにしないといけない
んですが、そうでないところが問題です。

POSTED_BY:斉藤久典 @2005/04/19 1:01:49

メディセオの前身の片割れのクラヤ三星堂の前身の片割れのクラヤって、バリバリのオーナー一族支配だったと思うんだけど、あれ?違ったっけな?

POSTED_BY:antiECO @2005/04/19 8:32:26

あはは。そこまでさかのぼったら、みんなオーナー経営ですがな。合併を重ねて、単純なオーナー経営を脱するんですよ。>antiECOさん

POSTED_BY:R30@管理人 @2005/04/19 9:31:03

クラヤは昔薬届けにきてたなぁ。なんでMRと給料があんなに違うのか疑問だったが、まあ合従連衡が進んで、また人が切られるんだろうと思うとなんかなあ。

POSTED_BY:ash @2005/04/19 15:47:10

>R30様
いえ、それくらいあの会社が強烈だったものでついつい。
それも10年くらい前の話なので、この10年でこんなに変わるものかと思って。
今は、あの営業車のマーク(確かオリジナルキャラクター)はどうなったか気がかり。

POSTED_BY:antiECO @2005/04/19 16:37:27

今回の統合を前向きに捉えている小売の人もいるようです。
http://www.kenko.com/blog/genri/2005_04_17_genrigoto_archive.html#111389838359584023

POSTED_BY:商人 @2005/04/20 1:15:13

ちょうど、医薬品業界について調べていたところだったので勉強になりました。
合従連衡が進む医薬品業界は、約6兆円の産業で、メディセオ、スズケン、アルフレッサでそれぞれマーケットシェアを約20%ずつ、上位3社で60%を占めています。メディセオ統合後の売上合計が、2兆580億となり、2位のスズケンの1兆3300億を大きく引き離しますが、このメリットは、やはりOTCの流通チャネルでしょうね。各社とも利益率はこれまでよりさらに厳しくなってきてます。
スズケンは、大衆薬に見切りをつけてしまいましたが、2番手の取るべき策は何でしょう。ちょうど、同じタイミングで、スズケンは、希望退職を200人募りました。

POSTED_BY:nuke @2005/04/21 0:43:18

> 今回の統合を前向きに捉えている小売の人
ケンコーコムの後藤さんですね。
実家が後藤散で有名な「うすき製薬」。元アンダーセンコンサルティング、大前研一のABS1期生の方です。

POSTED_BY:nuke @2005/04/21 0:49:19

nukeさん、商人さん、コメントどうもです。

異業種卸の統合がEコマース企業にとっては朗報だというのは、僕も気がつきませんでした。なるほどーという感じですね。

> 2番手の取るべき策は何でしょう。ちょうど、同じタイミングで、スズケンは、希望退職を200人募りました。

ということですが、実はドラッグストア向けのサイトを短縮するだけで、医薬卸業界は最大700億ぐらいのキャッシュがドラッグストアから戻ってきます。メディセオがパルタックという、悪しき商慣行のない日雑卸と手を組もうと考えたのも、自社のOTC部門より規模の大きいパルタックにサイトを合わせようと考えたからではないかと思うのです。

したがって、2位の卸の戦略も同一チャネル向けでシナジーがあり、しかもサイトのより短い卸と組むという、同じ戦略を取ってメディセオに振り落とされないようにするのがまず先決かと。まずはコバショウが日雑トップのあらたと合併すべきでしょう。

それから医家向け医薬卸ですが、少なくともメディセオは今回のディールで医薬の売上げが増えたわけではないので、アルフレッサ、スズケンと三雄横並びの状況は変わりません。今後はスズケンのように赤字部門を売却、リストラを進めてより低コスト体質になること、さらに他社を買収して取引を増やし物流設備の稼働率を上げることを目指していくしかないのではないでしょうか。食品などのように鮮度管理とかに付加価値を生めればいいのですが、薬や日雑は物流段階での付加価値がつけにくいですからねえ。難しいものです。

POSTED_BY:R30@管理人 @2005/04/21 1:37:26

上のコメント、読み直していて思いついた。

薬の物流の付加価値ですが、将来的には中小の調剤薬局に患者の飲み合わせチェックなどのネットワーク顧客管理システムを提供する方向があり得ますね。これは既にマツキヨ、スギ薬局などが実現しようとしているシステムです。もっとも現時点では複数店舗をまたがった処方箋受付履歴の共有は薬事法違反となるため不可能で、規制緩和を待たなければなりませんが。

POSTED_BY:R30@管理人 @2005/04/21 10:37:23

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