AdobeとMacromediaはXMLの夢を見るか
AdobeとMacromediaのM&Aについては特にコメントするつもりもなかったのだが、極東ブログがこの件で業界内をざっと概覧するエントリを立てていたので、それに対するカウンターでもやっておこうかと思う。
DTPやウェブ開発ツールの普及が、製品の技術的先進性やクオリティとはほとんど何の関係もないことは極東ブログでの指摘のとおり。finalvent氏はこれを「(普及の成否は)それを支えるエンジニアやデザイナーの労働市場に依存するだろう」と書いているが、そうとも言えるしそうでないとも言える。というか、このポイントこそがAdobeとMacromediaのコア・コンピタンスを分けてきたものだ。
Adobeが圧倒的な強みを持つペーパー系のデザインやドキュメント作成ツールについては、広告会社や出版社、編プロ、あるいはそこに人材を供給するデザイナー学校など、ユーザー企業の投資動向に依るところが大きいと思うし、逆にMacromediaが強みを持つウェブ系のツールについては個人のネットワーカーにとってavailableかどうかが大きいと思う。
結果的に、ユーザーから見れば2社は似たような機能の製品群をたくさん持っている。M&Aでそれらの商品ラインナップがなくなるのではないかと懸念する声も大きい。だが、FLASHを使って遊んでいる2ちゃんねらに「最新バージョンではFireworksをPhotoshopのサブセットにしたから3万円ぐらい余計にカネ払ってね」なんて言ったら、たぶん誰もその製品を買わないだろうし、逆にCreative Suiteを使ってDTPをこなそうと思っているグラビア誌のデザイナーに「今Suiteのプレミア版をお買いいただければDreamweaverも付いてきます!」とか言われても「なにそれー」で終わるだろう。
つまり、微妙にかぶっているように見えるプロダクツ群も、それぞれの会社が得意としてきたユーザーが欲する程度の価格と機能で作られてきたのであり、単純に似た機能の群を統合すればどうなるというものではないと思うわけだ。
では、なぜAdobeはMacromediaと一緒にならなければならなかったんだろうか?彼らの狙いは、いったい何か?
僕の勝手な予想だが、それはたぶんXMLのためなのだろう。
Adobeが抱えてきたペーパーパブリッシング系のユーザーは、今おそらく10年に1度の大きな転換期を迎えている。日本でも既に起こっていることだが、ウェブサイトが雑誌や広告の市場を荒らし、紙だけを作っていたのではもう収益を稼げない時代に入ってきた。従来テキストや画像処理など、それぞれの領域だけで進められてきたデジタル化を、プリプレスのプロセス全体で統合し、さらにXML化したデータをリアルタイムでウェブなどにコンバートする技術が必要になっている。
ところが、XDFをウェブの世界に持ち込めるかというと、これがつい2年前ぐらいまでは全く「ノー」だった。ウェブの世界はブログが出てきてやっとXMLベースのサイト構築がメインストリートに躍り出てきたものの、これまではDreamweaverを使ったゴリゴリのHTMLカスタマイズですべてが作られていたからだ。それがようやくXMLベースで議論ができるようになってきた。
でも、AdobeにはXMLの原則は分かっても、それをウェブデザイナーに納得させて使わせるだけのアプリケーションを開発するノウハウがない。なんせ何十万円もするような高級ソフトばかり作って企業向けに売ってきた人たちに、2ちゃんねらでも使えるようなソフトをばらまくマーケティングのノウハウなんて、あるわけない。彼らは常にソフトウエア界の貴族だったのだ。
というわけで、じゃあユーザーをMacromediaごと買っちゃって、彼らウェブデザイン系の人たちと我々パブリッシングデザイン系の人たちで共有できるXMLプラットフォームをちゃんと決めましょう、というのがAdobeの狙いなんではないかと、思っている。
実際のところ、「DTPソフトに入力した記事を、そのままウェブサイトのフォーマットに変換してページを自動生成して、しかも著作権保護をかけたFLASHにコンバートしてPDAブラウザ向けにばらまけないのか」とかいうことをしょっちゅう考えていたが、こんな壮大なコンテンツ配信のフロー、ある程度のアプリケーションがなければできるわけがない。そして、今はXMLというバックエンドのDBにリアルタイムでジョイントできるDTPソフトも、ウェブ開発ソフトも、マルチメディアオーサリングソフトも、まだ存在しない。
というわけで僕はかの業界を見切ってしまった。今になって思うと、僕が転職したのはAdobeやMacromediaのせいだ。そうに違いない(笑)
なんて意味のわかんないことを書いてしまったが、極東ブログが言うように、AdobeだってMacromediaだって、彼らの製品群が技術的・市場的にデッドエンドに来ていることに対する自覚ぐらいはあるだろう。そして、フロンティアがむしろその背後のXMLフォーマットの領域にあることも。だからAdobeはSix Apartと提携したのだ。今や、XMLの世界で最も枢要なアウトプット・アプリケーションを握る同社と。
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コメント
Macromediaには信用が無かっただけ。彼らは良くも悪くもギークだった。
ブリューな時代なら良かったんだが既にプレイヤーが増えすぎて着想さえ良ければ良いというものではなくなったんだ。何故普及したかといえば安かったから。低い信用というリスクを織り込めば納得できる価格でばら撒いたから。しかしそれでは開発が続かない。全く無責任な連中だ。
Photoshopが高いならGimpでもPaintShopでもいいはずだ。所詮ビットマップ。大した障壁なんか無い。しかしプロテクトも無い(CSより前)Photoshopのフルバージョンがこぞって買われたのは何故か。買う価値があるから。最近のElementだけでなくそれ以前のLE版は安くてその恩恵のほとんどを享受できた。値が付いてれば高いというのは余りにずさんな物言いだ。
投稿: しょ | 2005/04/20 17:25
ある意味、両者ともユーザーがお腹いっぱいになる所までソフトを進化させるのには、もう一緒になるしかないと考えたんでしょうか。ユーザーとしては、これがユーザーにとってのメリット増につながると良いと勝手に思っています。
投稿: p-style | 2005/04/20 18:49
Adobeが欲しいのは、いろんなメディアを統合的に扱うCMSでしょう。
2000年頃には既にそんなこと言ってましたもん。彼ら。
投稿: tomo | 2005/04/20 19:46
WEB関連のXMLの話で言えば、AdobeってXMLのグラフィック技術であるSVGの標準化策定をかなり前から中心的に進めてきた会社なんですが・・・。むしろそういう意味ではfla形式に拘ってきたMacromediaよりも、XML関連には根本的な部分から関わりを持ってるので強い筈ですよ。
WEBだけの話で考えれば、むしろFlash Playerの普及率とか、ブラウザ絡みの部分にメリットを感じたんじゃないですかね。
投稿: ぎょろ | 2005/04/20 22:10
R30氏がちょうちん持ちまでして持ち上げてた、ライブドアについての総括を書けよ!
投稿: 7743 | 2005/04/21 06:50
http://shinta.tea-nifty.com/nikki/2005/03/ld_overview1.html
とっくに書いたよ。ていうか別に持ち上げてないし。
投稿: R30@管理人 | 2005/04/21 09:58
R30さんは雑誌のWebページの管理をしていただけで、IT技術全般に詳しいわけではないと思うので、こういう話題だとどうしても視野が狭くなっちゃうなあというのが感想。でもめげずにIT系の話題も取り上げて欲しいなと思ったり。
投稿: とと | 2005/04/21 11:35
XMLどうの言っても、現場レベルからすればチラシやサイトの更新を予算内で納期までに仕上げるので精一杯なだけで、いくら業界の構図が変わっても、多くのデザイナーやクリエーターは新しいスキームを受け入れて自らのスキルアップを図る事に積極的ではありません。デザイン屋はコンピュータがどーゆーロジックで動いているのか理解してない人間が多すぎますし、Web屋は構造化文章やCSSの概念をロクに理解していない連中ばかりです。これから必要なのはWEBとDTPを総合的に見る事のできる、デザイン界のSEの様な人でしょう。この点に関して従来のシステム屋は役に立ちません。
投稿: 名無し | 2005/04/21 13:52
XMLというよりはSVGのようなベクターグラフィックス系の技術力を強化させたいのが本当の狙いなんじゃないでしょうか(SVGはXMLの一部ですが)?
単にXML技術の強化を狙うならSunとかと業務提携した方が良いですしね。とはいえブラウザで表示することを考えるとマイクロソフト社のMSXMLの様な独自路線突っ走りまくりの変なパーサを使わざるを得ませんが。
[W3C]XMLやHTMLの仕様を決めてるとこです
http://www.w3.org/
[apache]Xerces(フリーの高性能パーサ開発)
http://xml.apache.org/
[SVG]SVGが体験できるAdobeのサイト
http://www.adobe.co.jp/svg/main.html
投稿: 通り魔ん | 2005/04/22 01:13
Macromediaもflashで全然XML前向きにビジネス利用してるし、なんか何言ってるの?
みたいなエントリーに思えるのだが。
2ちゃねらーのflashユーザーは同人アニメの部類であり、RIAっていうのも恥ずかしいが、
その辺の開発者と全く住み別れてるよ。
Webでいう、ここんとこのXMLブームは、クロスドメイン、クロスホストで利用できる
アプリケーションサーバ機能の中間ファイル(素材)みたいに考えた方がいいんでは。
この辺も個人ユーザーレベルでは必要なく、彼らはこれから先もhtmlごりごり書いてれば
事足りるわけで。
投稿: バイク犬 | 2005/04/26 07:28