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2005/03/02

何を今さら…留学退職対策も「お役所仕事」なのね

 むなぐるま氏のところやid:pogemuta氏@ダメオタ官僚日記などであれこれ語られているようなので今さらではあるが、読売新聞のこの記事。

若手官僚、留学後の退職多発…費用返還ルール作り悩み(Yomiuri Online)

 何を今さら問題のように書き立ててるんだか、読売は。ネタ古すぎ。産経なんかまったく同じ話を去年の8月に記事にしてますがな。人事院記者クラブの弊害ですかね。

 それにしても記事を読んで驚いたのは、転職する人というのが「留学経験者の10人に1人」ということ。職業柄元官僚の留学経験者ばかり会ってきたからか、財務省筋の元官僚に知り合いが多いからかよくわからんが、実際にはもっと多い気がしてたけどな。この程度なら全然OKなんじゃないの?どうせ人材は天下の回りものだし。

 てか、この手の問題は商社とか銀行とかの民間企業は、もっとずっと前から留学経験者のダダ漏れの流出に手こずってきたわけですよ。それで今は、あの手この手で流出防止策を講じてる。

 そうした大企業の最近の流出防止の必殺技は「33~4歳から留学させる」、これです。なぜこれが必殺技なのか。それは国内の転職市場を見ていれば分かる。

 海外の大学院留学は速習コースでも1年、普通のMBAとかポリサイであれば2~3年だ。これまではだいたい25~7歳で留学に出していた。そうすると帰ってくるのが28~30歳と、ちょうどこれから仕事で猛烈な生産性を上げる年齢にさしかかる。年俸2~3000万円で外資系の戦略コンサルや投資銀行が引き抜いても、3~5年死ぬほどこき使えば、十分元が取れるわけだ。

 しかも転職すれば、本人にも大企業の経営者に向かって「あなたのおっしゃることは間違っている」などと偉そうな口を堂々ときく立場が与えられ、3年もすれば「戦略コンサルファームでコンサルタントとして、ナントカ業界の合併再編を支援」などという箔が履歴書につくわけだ。で、30代後半で再び、今度はベンチャー企業や外資系事業会社の役員や社長として転職というコースができあがっていた。

 その間元の日本企業にいたとしたら、どうなるだろう。相当のトップクラスの大企業でも30歳代前半の社員の年俸は1000万円を超えるぐらいがせいぜい。しかもやらされる仕事は係長とか課長クラスで、巨大組織の重箱の隅をつつくような実務の日々。自社の経営陣と新事業参入の提案を巡って丁々発止のやりとりなんて、この年代の社員じゃ望むべくもないわけだ。で、40歳になったら社内政治のしがらみでがんじがらめ、身動きのとれない事業部長が関の山。これじゃ転職しない方がおかしい。

 ところが、最近の銀行・商社は留学時期を従来より5年以上遅らせ、係長~課長職クラスを派遣するようになっている。こうすると、帰ってくるのは35歳以降。転職市場での人材価値が一気に落ち込んでからとなるわけだ。つまり、MBAなどの箔をつけて帰ってきてもそれほど有利な条件では転職できない。

 個人的には、MBA資格取得者なんて流動化してナンボと思っているので、商社や銀行のやり口はせこいと思うが、辞めてもらいたくないならそれはそれで1つの合理的な対策だ。本当に若くしてコンサルキャリアの道を歩みたければ、自費で留学すればいいわけで。役所も何でそうしないんだろう。30代半ばの課長代理を留学に出せない理由でもあるんかしらね。

 こちらのブログでも書かれているように、日本という国が職業選択の自由を憲法で保障している以上、「公費での留学経験者が役所を辞めて外資系ヘッジファンドで荒稼ぎするなんてケシカラン」とか、言ってみたってしょうがないわけですよ。良い条件とやりがいのある職に乗り換えていくのは本人の責任じゃないんだから。それよりはpogemuta氏が言うように、「外部を経験した目から見ても魅力ある組織に役所を変える」ことが先決だと思うわけだ。

 これについては、面白いエピソードがある。MBA留学後1年ほどして財務省を辞めて民間に転職した僕の知り合いが話してくれたのだが、彼は帰国後、省内で仕事のやり方を変えるようにいろいろと提案を出したのだそうな。

 特に彼が強く問題にしたのが、kanryo氏の日記でも話題になっていた「キャリアのサービス残業」の問題だった。ちょうどその頃、財務省でも過労やノイローゼで年に何人も自殺者が出ていたらしい。だが、それを引き合いに出して就労環境改善を訴えた彼に対して、財務省の上層部が返した答えというのが、「我々はサムライである。民間人や他の省庁とは格が違う。いざという時には国のために命を投げ出すのがサムライたる者の役目だ(だから過労死対策など要らない)」というものだったらしい。彼はその答えに絶望し、その後しばらくして辞表を出した。

 その後日談というのがあって、最近彼は古巣の財務省の先輩に呼ばれたんだそうだ。さすがにこれだけ人材が流出したから、少しは以前の彼の提案を受け容れてくれるつもりにでもなったかと思って行ってみたら、「そろそろ我が省としても一度民間に出た諸君らを再度採用する制度を作りたいと思う。ついては君も戻る準備をしておくように」って命令口調で言われたとか。彼は「いったい何様のつもりなんだろうかね、あの人らは」と呆れ返っていた。

 役所って本当にいろいろな意味で遅れてるよね。その知り合いの話聞いて、僕はもう今さらあれこれ言う気も失せたけどさ。どうせ同じ税金を使うなら、いっそ官僚じゃなくて、民間から「留学後は最低10年役所で働くこと」っていう条件の奨学金でMBAやポリサイの大学院への海外留学希望者募ってみたらどうかな。って書いてから10秒で、「絶対人集まらねえな」とか思ったよ、ゴメン。

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コメント

 学費などの留学費用を「貸し付ける」ことにして、何年在職したら返済しなくてよし、というルールを作っている私大の例は普通に聞くんですが、普通には聞こえてこないくらい特殊な例なのかしら。
ttp://www.houko.com/00/01/S22/049.HTM#s2
 労働基準法第14条~第16条の規定によって、3年を超える拘束的労働契約は原則違法だからそれを超える誓約書などは無効で、拘束には労働条件の明示が必要。第14条の1を使って5年拘束するなら、5年拘束する労働契約を結んで(期間の定めがなければいつやめてもいい)おかなければいけません。また修士号以上の取得につながらない留学の場合、厚生労働大臣が定めた基準に該当しないので、一般ルールに基づき拘束は3年まで。ttp://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/02/h0213-3.html
 留学中の賃金を払う場合、離職時に学費などと合わせてその返還を求めることは労働基準法第17条との関係で微妙。
 キャリア作りは戦争だから、当事者なら戦時国際法はそりゃ知ってるものだと思ってたけど、雇用側は考えてもいなかったわけですね。

投稿: 並河 | 2005/03/02 08:23

TBありがとうございます。
多額の費用を払ってまで海外留学させるのなら、いっそのこと留学先で優秀な成績を収めた職員は、帰国後思い切ってに出世させて、学んだ知識を思う存分発揮してもらうような制度を作る必要がありますね。
現在の状況では、留学して最新の知識を身につけても、時代遅れの上司に囲まれて仕事をするわけですから、役所を飛び出したいと思うほうが当然で、留学した職員の離職問題は、役所の体質全般が原因です。
とはいえ、役所をやめるのは本人の自由ですが、外資系に引き抜かれるほどの実力を身につけることが出来た要因のひとつに、国の金を使った留学が挙げられるのは事実ですから、退職者には留学費用の返還を求めていく必要はあると思います。(法的な義務付けは困難ですが)
役所の人事制度に問題があることと、税金を使って留学したことは別の次元の話ですから。

投稿: s-essay | 2005/03/02 22:40

まず自費で留学させておいて、戻ってきて官庁で勤務している官僚には手当てのような形で一般のキャリアより給与を高くする仕組みにしておけば、不公平感はなくなるのかなぁ。やめたければやめればいいし。

能力を磨いて国家・国民のために尽くす官僚には報いてあげたいと思います。国家・国民のために尽くす官僚がどれだけいるか知りませんが。

投稿: はぐれバンカー | 2005/03/02 22:55

どうせ人材は天下の回りもの・・・確かに同感です。

投稿: jack | 2007/03/23 17:20

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