【ヲチ撤収】CXグループの怨霊を呼び覚ましてしまったホリエモン
今ごろ新聞各社の記者さんたちは、今日の夜に明らかになる、フジテレビのニッポン放送株TOBの結果と、おそらくその後に判断が下されるはずの、ライブドアによるニッポン放送の新株予約権大量発行の差し止め仮処分申請の結果を予想しながら、関係者への必死の取材と予定稿作りに明け暮れていることだろう。
当初はライブドアの謀略勝ちと見られていたこの勝負も、フジ日枝会長の根拠なき強気とニッポン放送の常軌を逸した新株発行計画、そして事の決着を裁判所に持ち込むという反撃によって市場関係者からは「フジ逆転勝ちかも?」の読みが飛び出し、一気に不透明感が漂っていた。ところがさらにここに来てフジサイドにもハプニングが起こり、ことの成り行きはさらに混沌としつつある。
湯川氏@時事通信をして「メディアの立つ瀬をなくさせるブログ」と呼ばしめたR30のことであるから、ここでもまったく容赦しない。明日・明後日の朝刊のネタをごっそり先取りしてしまおう。
上にも述べたように、このディールの今後を左右するポイントは、冒頭にも述べたように2つある。1つは今日の夜に締め切られる、フジテレビのLF株TOBが成功するかどうか。そしてもう1つは、その後に発表されるLFの新株予約権発行に対するライブドアの差し止め仮処分申請が裁判所に認められるかどうか、である。
フジテレビは、LF株式の25%を買うTOBはほぼ成功と発表しているが、これが今2つの新たな事実によって揺らぎ始めた。1つはトヨタが保有するニッポン放送株を売らない、と表明したこと。他の企業ならいざ知らず、トヨタである。表向きは株主代表訴訟のリスクを恐れたものだろうが、何か別の意図もあるように感じる。
そして、その後出てきたのがこれだ。「鹿内家が大和証券SMBCにニッポン放送株の返還を要求」という、NHKのスクープである。
isologueの1月23日のこの記事でも「鹿内氏がTOBの予定をちゃんと知っていた上で売却したのであれば(中略)『OK』」と書かれていた、まさにその前提が違っていたという話だから、これは大変なことだ。しかもフジのTOB目標であるLF株25%には、この鹿内家から譲り受けた大和証券の持つ8%分が含まれているので、この返還要求が妥当な内容だとすると大和証券=インサイダー取引、フジ=TOB失敗が確定してしまうという、とんでもないビーンボールである。TOBの成否が読めなくなってきた。
一方、ニッポン放送による新株予約権発行に対するライブドアの差し止め仮処分申請は、結果がどう出るか神のみぞ知るところではある。ただ、少なくとも明らかなのは、「敵対買収にさらされている企業がこんな施策を打てるのなら、日本のどんな企業に敵対買収を仕掛けても絶対成功しないことが確定」してしまうということだ。
多くの人が「どちらの買収が企業価値を上げるか」という議論をしているが、そんな話は水掛け論に過ぎない。裁判所は実現してもない企業価値の予想についての判断を下すべきでないというisologueの意見に僕は賛成だし、実際の仮処分の判定もそこまでの判断には踏み込まないだろう。ちなみに、「ライブドア傘下に入ればフジサンケイGとの取引をうち切られるから企業価値が下がる」というニッポン放送側の新株発行理由の説明そのものが、明確な独禁法違反であるという指摘もある。
しかもこのマターは、経産省などがまさに法制化を検討してきたところのものでもあるので、さすがにそれをシカトしてニッポン放送側のルール違反を認めてしまうという判断はあり得ない。もし認めたら、日本の上場企業のコーポレートガバナンスはほぼ完全にモラル破綻するだろうし、それに伴って株価を上げる経営努力も失せるから、株式市場全体の暴落(カタストロフィー)が起こると思うからだ。もちろん、社運をかけて借りたカネで買い付けたLF株が紙切れ同然と化すライブドアは、おそらくその瞬間に崩壊するだろうし。
しかしながら、何度も言うが裁判所というのは経済の常識とは何の関係もない丁半博打のようなところなので、明日以降この最悪のシナリオが実現してしまう可能性も、ないわけではない。
というわけで、この2つのポイントの分析をまとめたのが右のようなクロスチャートだ。
下半分は実質的にフジテレビの独り勝ちだが、フジ以外の日本の株式市場関係者総負けという壮絶な結果を生むだろうと思うので、まずあり得ないとここでは仮定しておく。問題は恐らく上半分のところで起きるだろう。
新株発行が止められたものの、LF株の25%を確保すれば、フジテレビには最悪ライブドアが50%超のLF株を市場で買い付けてLFに役員を送り込んだとしても、フジサンケイグループ本体への経営に波及するリスクを最小限に抑えられる。
また、ライブドアが50%を確保するまでの時間を使って、LFにフジテレビ株を市場で売却させたり、優秀なLF社員をグループ企業に転籍させたりといった「焦土作戦」を展開する時間的余裕が生まれるわけだ。フジもライブドアも、早い段階での次の一手が問われる展開となるだろう。
逆に、鹿内家の介入などによりTOBの失敗が明らかになれば、フジテレビにとっては正直非常に面倒なことになる。そのままで行けばグループ全体にライブドアの影響が及びかねないので、LF株の買い取り価格を引き上げて再度市場から買い集めるなり、フジ自身が再度特定株主に向けて多額の増資をするなどしてLFの持ち株比率を下げるなりの、緊急対策が必要になってくるだろう。
ま、おそらくはこの両方をやってくるだろうけれど、そうするとフジ自身のキャッシュを投じなければならないので、投資信託としてのライブドアにあぶく銭を与えることになり、結果としてライブドアの作戦勝ちが濃厚となるわけだ。もっとも、どっちにしろライブドアにはニッポン放送のキャッシュと放送免許などの「抜け殻」しか残らないわけで、それがホリエモンの手に入れたかったものなのかどうかは、僕には分からないが。
フィナンシャルな切り口から見ると戦況はこんな感じだが、今後注目していきたいのは、ここに来て日枝会長率いるフジサンケイグループにとって長年の「喉にささったトゲ」であった鹿内家が、NHKの報じたようにまたぞろトラブルの種になりつつあることだ。
引き金を引いたのがホリエモンだったというだけで、この話はもともとホリエモンと何の関係もなかった話である。しかし、歴史も浅く大した闇もないライブドアに比べて、こっちの闇はこちらの記事などでもまとめられているように、そもそもの話が50~60年代の政治主導の反共政策などにさかのぼるだけに闇も深い。
切込隊長も社長日記の方で書いているが、「汐留の上の方が迫撃砲を仕込んでいる」あたりのくだりを読むと、こりゃかなりヤバイものがあるなあと感じる。
鹿内家の名前が出てきたことで、この戦争は周辺の無関係な人間も巻き込んでの市街地銃撃戦になることがはっきりしてきたように思う。ホリエモンは、フジの日枝会長が10年かけて封印したフジサンケイグループの「怨霊」の入った箱の鍵を、うっかり開けてしまった。TOB成功目前というこのタイミングで鹿内家が出てきたことは、ホリエモンや村上ファンドといった既視のプレーヤー以外に、日枝会長一派の失脚を狙うもっと上の黒幕が背後にいる可能性を示唆しているのではないかと思う。それは、たとえばホリエモンの登場とは関係なくこういう意見がCXグループから出てきていることでもわかる。
確かにこのまま行くと死人が出るかもしれない。そういう危ない地雷原には、隊長のように個人で実弾を握って戦えるような人を除いて、踏み込んではいけないというのが世の中の教訓である。というわけでしがない一サラリーマンに過ぎないR30は、新たな展開が見えて闇の危険が遠ざかったことが確信できない限り、この問題については以後コメントを控えたいと思います。あしからず。
(3/9 3:00追記)隊長、やっぱり巻き込まれちゃったようですね。かわいそうに。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
私は株は専門外なのでこちらで勉強させていただいております。中国系企業に買われた某多国籍企業某部門に友人がいますが、「新年に出社してみたら上司が辞めていた」そうです。「部門が維持できない人数になったら自分も出る」と言っています。焦土作戦は命令によって起こる場合と、勝手に野火が出る場合があるので注意が必要です。
宴会嫌いの並河ですが、うーん客員教授との交流会だけは行こうかなあ。西和彦教授のコメントが聞きたくなってきた。
投稿: 並河 | 2005/03/07 11:43
R30さん、根本的に読み違えてますね。
25%ではなく、フジが33・4%を取るかどうかが焦点です。(もう取ってるようですが)
そしてライブドアが51%取るかどうか。
フジが33・4取れば、株主総会で重要議案を否決できます。
ライブが51取れば、6月の役員改選で取締役を過半数抑え、ホリエモンが社長になります。
その問題に、発行差し止めが絡んでいます。
そういうクロスチャートを作って、分析しなおさないと、説得力がありませんよ。
投稿: keieikiki | 2005/03/08 02:09