“集団自殺”するテレビ局、ソースを出す日経
今回の騒動を海外メディアは「M&Aでは当たり前すぎる話」と、ほとんどニュースバリューを認めていないらしい。まあ、確かに大騒ぎするほどのファクトは何も出ていないわけで、なのに毎日の紙面最低1ページ程度をこのネタで埋め続けなければならない新聞各社の担当記者さんたちのムダな苦労のほどは想像に難くない。
だが、そういう下らなさすぎる既存メディアのコンテンツ面での低能乱痴気騒ぎとは別に、2005という暦年と「ライブドア」という言葉は、恐らく日本のメディア史上永遠に刻まれるだろうという確信がある。
(23:00追記 コメント欄での指摘を受けて、本文を大幅に書き直しました)
その理由の1つは、もうテレビに頼らなくても映像ニュースの配信は十分できる、というか人々に「テレビよりネットでニュース映像を見る」というビヘイヴィアが植え付けられ始めた、ということだ。
昨日20時半、僕は家でカミサンと一緒に遅い夕食を食べながら、テレビではなくパソコンの画面を眺めていた。パソコンの画面には、ライブドアの記者会見中継映像が全画面表示で映り、3メートル離れた食卓からでも十分見られるようになっていた。すぐ横にあるテレビは、消していた。
これだけ毎日マスコミがあおり立てて話題になっているのだから、今日の記者会見でほりえもんがどんなことをしゃべるのか、また口を滑らせてとんでもないことを言うんじゃないかとか、誰だってリアルタイムで見てみたいだろうと思うのだが、首都圏の地上波キー局でインタビュー風景を生中継したチャンネルは1局もなかった。視聴者の見たいものを、すぐにでも生中継できるものを生中継で見せない。信じられないことだ。テレビの自殺行為である。
これと対照的だなあと思うのは、日経新聞の動きだ。ニッポン放送に対して、東京地裁が下した仮処分命令の要旨、本文、債権者・債務者双方の法廷での主張、本件(新株予約権)の要綱などを、すべて生データでウェブサイトに掲載したのである。これも、国会冒頭での首相の所信表明演説さえ全文ではなく要旨しか載せず、まして個々の民事裁判の判決をデータベース化されるのを裁判所が極度に嫌がるのを知っている新聞にとっては、極めて異例のことだろう。
実は、前にいた雑誌でウェブサイトを作ったときに、どんなコンテンツを載せればいいかという話になり、上司から「記事の元になったインタビュー取材を、記事に書かなかった部分も含めてそっくり全部載せたらどうか」という提案があった。当時、ウェブサイトのディレクションをしていた僕は「記事のソースのインタビューを全文載せても、読者には読まれません」ときっぱり断ったことがある。
あの時の決断は、当時としては間違っていなかったと思っている。なぜなら、僕のかかわっていた雑誌の読者はウェブサイトで記事のソースを読みたいとは思っていない、というマーケティング上の確信があったし、ソースを出しても誰がそれをかみ砕いて伝えるのか、という点が何も解決されていなかった。
でもそれからかなりの時間が経って、今や無数のブログがインタビューそのものや役所、企業の公式発表を読みくだし、解釈してニュース記事を生成するようになった。ソースを解釈して記事を書くのがマスメディアの独占的役割だった時代は、そろそろ終わろうとしている。日経のこの判決文全文掲載というアクションは、こうした圧倒的な速報性の求められるニュースでは、インターネットに対していちいち解釈した(=タイムラグのある)ニュースではなく、スピーディーに「ニュースソースそのままを提供する」ことこそがマスメディアに求められていると、彼らなりに結論づけた結果ではないだろうか。
今朝の朝刊を読んでないので分からないが、さすがにこれらの文章が全部紙面にも掲載されたわけではなかろうし、紙面には載せる価値もないと思う。だが、要約や解釈のないニュースが読者にとって読むに耐えないのと同じぐらい、ニュースソースのはっきり示されていないニュースが読むに値しないということを、ネットの世界の人々は既に知っている。専門情報紙である日経新聞がそのことに気がついて、ネットを後者のために活用し始めたのだとしたら?
これもホリエモンのおかげと言ったらさすがにマスコミの人間に良い顔はされないだろうが、しかし2005年早々に投下された21世紀の「FAT MAN」に、マスメディア業界の日本と米国の差を一気に何年も縮めるほどの、想像を絶する秩序破壊とブレークスルーのパワーが潜んでいたことは、おそらく後世の誰もが指摘するに違いない。そして、フジテレビの日枝会長は昨夜半「ライブドアと話し合ってもいい」と、従来の発言を翻したというニュースまで飛び込んできた。
イノベーションは徐々にではなく、ある日突然起こる。日本のマスコミがネットによって大変貌を遂げるのも、米国に比べてそれほど遅くならないのかもしれない。
(念のため注記:文中で用いたレトリックは決して米国から見た広島・長崎の出来事を正当化する等の意図を持ったものではありませんので誤解無きよう)
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コメント
片鱗ぐらいは認めてやっても…
http://news.ft.com/cms/s/f1188036-929a-11d9-bca5-00000e2511c8.html
http://news.ft.com/cms/s/f3ab2088-923b-11d9-bca5-00000e2511c8.html
投稿: シャイロック | 2005/03/12 17:18
ご指摘どうも!あっさり認めました。>シャイロックさん
投稿: R30@管理人 | 2005/03/12 17:33
PDF号外が発行されていることに関しては特に何を今更驚いていらっしゃるのか、私には分かりません。
(すみません、空で投稿した部分は消してください)
投稿: 78 | 2005/03/12 20:37
確かにテレビでは全く報道されてませんが、ネットでは各社普通に報じてますがね。もっともこの手のM&Aが当たり前という事情を踏んだ上での話かもしれませんが。
http://news.google.com/news?hl=en&edition=us&ie=UTF-8&ncl=http://www.bloomberg.com/apps/news%3Fpid%3D10000080%26sid%3DaM_SFIvlqeGI%26refer%3Dasia
投稿: 通りすがり子 | 2005/03/12 21:11
コメントどうもです>78さん
あ、PDFの号外ってずいぶん昔から普通に出てるんですね~。知らなかった。でもここまでリアルタイムにPDFをウェブサイトに載せたケースって他にあるんですかね?
投稿: R30@管理人 | 2005/03/12 21:18
どこが最初か存じませんが、長野五輪の頃から各社取り組んでいたように記憶しています。
投稿: 78 | 2005/03/12 22:50
78さん、ご指摘どうもありがとうございます。
注釈をつけるとか取り消し線引いて書き直すとかいろいろと考えたのですが、話の骨子が大幅に変わる話でもあると思ったので、結局文章の中盤をごっそり書き直すことにしました。
これからも気がついたこと、どんどんコメント欄に書いて下さい。よろしくお願いします。
投稿: R30@管理人 | 2005/03/12 22:58
自転車通勤で一部方面では著名の
ブ◯ー◯◯ャ◯ターのディレクターの堀江氏に対するコメント
http://www.melma.com/mag/03/m00016703/a00000213.html
このメールマガジンは肩苦しいものではないんで目くじら立てるのもとは思いますが
素朴過ぎな感想が.....
投稿: 小僧 | 2005/03/12 23:11
コメントどうもです>小僧さん
そうですかね?新株予約権発行って聞いた瞬間に「それ、違法だろ」って事実関係を確かめもせずにうろ覚えの知識でエントリ書いちゃうここのブログの管理人より、100倍地に足がついててよろしいんじゃないかと思いますけどね。
人間、地に足がついてるのが一番ですよ。マスメディアにいると、人間というのはいつの間にか空中浮遊してしまうのです(笑)。
投稿: R30@管理人 | 2005/03/12 23:21
いつも楽しく拝見させてもらっています。
今回の報道で、日経のWEBを見たときに、判決の前文が載っているのを見て、非常に感心しました。
インターネットでできることは、こういうことですよね。いつも、新聞では要約しか載りませんが、判決の全文には非常に多くの情報が載っていることがわかりました。情報は全て開示され、それらをどのように解釈するかということが重要なってくる、そんな時代に代わりつつあるように思います。
投稿: ヤマグ | 2005/03/13 05:58
いつも楽しみに読ませていただいています。日経のWebページの記事、カテゴリーが「IT」になっているのは日経の微妙な意思表示と見るのはうがちすぎですかね・・(M&Aと見れば経営なり、マネーなりのカテゴリーの方が妥当のように思えます)
投稿: fareaster | 2005/03/13 08:55
それってたぶん、ITのカテゴリーのデスクがたまたまネットに理解のある人で、「判決全文載せろ」って指示しただけかと…。新聞ってそんなものですよ(笑)>fareasterさん
投稿: R30@管理人 | 2005/03/13 09:49
はじめまして。
今回の仮処分、土曜の日経本紙にも一面全部使って判決文が載ってましたよ。本当に全部だったかは、今手元にないので確認できませんが……。
投稿: ぼ | 2005/03/13 13:23
先日書いたディレクターさんがエイ(枻)出版の自転車雑誌「バイシクルクラブ」4月号の
エッセイで件のメルマガに書かれていたことを詳しく具体的に書いているので件のツッコミは
取り下げさせていただきます。削除の必要はありません。
(ライブドアが 800 億円の資金調達で下方修正付き転換社債型新株予約権付社債を使用した事や
そういうファイナンスの手法は貸し手たる「より多くのものを持つもの」を利すことなどの指摘)
そちらの連載に書かれている事はちょっと目を通した限りではまともなので
某番組の変なコメンテーターよりもそちらのコメントを出して欲しかったり。
投稿: 小僧 | 2005/03/19 23:00