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2005/02/08

マーケターというお仕事

 湯川氏@時事通信に「潰されない記者ブログ」というエントリで、「R30さんは(中略)頭のいい人なので、明快な論理と切れ味のいい文章でどんな批判も簡単に論破してしまうのだろう。」と評されてます。えーと誤解なきよう申し上げておきますが、僕は別に頭は良くありませんし文章も切れてません。批判も論破してません。好き勝手言いたい放題しゃべってるだけです。

 それでも炎上しない理由をお教えしましょう。批判コメントがついても、すぐに答えない。「放置」、これです。そうすると不思議なことに、必ずやそれを見かねた他の読者様がどこからか現れて、反論して下さいます。

 あと、僕の言い分を完膚なきまでに論破するようなトラックバックが来ても、それも放置。世の中の方にR30のバカさ加減を知っていただき、より正しいご意見の方のサイトへご案内できればそれが僕の本望と思ってますんで。そういうのを2ちゃん用語では「釣れた」とも言いますが(笑)。

 最近では、財務省ネタのエントリに見事なまでの反論を送ってきてくださった官僚系ブログの大御所、Bewaad氏なんかがそうですね。いやまじめな話、そういう方は素直に尊敬します。ちなみにそのエントリ、コメントは1つもないんですがついてるトラックバックが日本の経済・金融系ブロガーの英知を結集したような顔ぶれです。常人には頭が痛くなって半分も分からないかも(笑)。

 で、そんな話がしたいんじゃなくて、本題は別の話。「専門職と丁稚奉公」という、後輩と飲み屋で管を巻きながらしゃべった話をそのまま書いた(笑)エントリが、なんか予想外にあちこちで引用されているのでびっくり。世の中、何の話が受けるか分からない。それがブログの面白さ。

 そのエントリのコメント欄に、いろいろな方から人生相談のごときコメントが寄せられたわけだけど、なかなか皆さんの言葉が味わい深かった。

 その中でも僕が書いた「消費者にモノを売る会社はますます辛くなる」というくだりに反応して、消費財マーケティングの分野の人はどうなっちゃうんでしょう?という話がちょっと興味を引いたので、ここで改めて雑感を書いておく。

 よく、マーケターの人のHPとかに「ヒット商品は狙ってできるものではない」とか書いてあるが、僕に言わせれば「あんたがソレを言っちゃあおしめーよ」とか思うわけだ。それって「実は僕、無能なんですが」って言ってるのと同じでしょうに。

 実際のところ、これまで「ヒット商品」と言われたものの多くが狙ってそうなったものではないというのは、ある意味事実かもしれない。ただ、そういうヒット商品が今も生き残っているかというと、ほとんど見かけなくなっているのではないか。日本では米国より消費の回転スピードが速いと言われる。その理由を多くの人は「消費者が飽きっぽい」と言うが、僕は違うと思う。ヒット商品をブームにせず長く売り続ける、そういうマーケット・コントロールの能力が、日本企業には低すぎるのだ。

 これは、多くの日本企業で「マーケター」という役割の専門職が存在せず、事業企画とか営業推進とかいう部署の人が片手間にマーケティングをやっているのがほとんどであることも影響している。

 これらの部門はいわゆるマネジメント(管理職)予備軍の扱いであり、専門スタッフとは思われてないから、部長や部門長や役員、場合によっては社長や会長が開発中の新商品の中身などにどんどん口を挟んでくる。そいつらはみんな、当たれば「俺のアドバイスのせいだ」と手柄にしたいし、失敗しても現場の責任にして埋めてしまいたいからこそ、実質的にはマネジメント直轄でありながら、責任の所在を不明確にしやすい組織にマーケティングの仕事をあてがうのだ。

 専門職といっても、マーケターの仕事の大半が社内の様々な部門との調整やすり合わせ、根回しだったりするのは、これは当たり前の仕事である。よく学生で「マーケター志望です」とか言う奴がいて、よくよく話を聞いてみると自分の思いついたアイデアを事業にできるからというのが理由だった、みたいな話があるが、それはとんだ勘違いだ。

 マーケターの主たる仕事というのは、突拍子もないアイデアを考えつくことではない。世の中のマーケティング・コンサルタントと呼ばれる人を見ると、クリエーティビティー溢れるアイデアマンに見えることが多いが、それはほんのほんの上澄みの部分だけである。言うなれば、巨大な氷山の水面上に出ている部分というか。あれは、営業上のカムフラージュなのだ。

 マーケターが毎日やることというのは、緻密な市場調査、データ収集、エクセルでの分析、退屈なインタビューとその解析、進行中のプロジェクトの抜け穴潰し、そしてどうしようもなくわがままで理不尽な顧客対応である。業種によってはこれらのどれか1つが生活のほとんどになる時もある。

 例えばあるコンビニ向けの雑貨卸会社の話を以前に聞いたことがある。その会社の「マーケティング担当」の社員の仕事は朝から晩までパソコンに向かい、エクセルを使って商品アイテムの売れ行き動向を分析し、1ヶ月先までの需要予測と発注、取引するコンビニ各店舗への納品数を決めることだった。まさに24時間パソコンに使われる生活。そこの社員の離職率は異常に高いので評判だったが。

 ま、これはかなり極端なケースではあるが、実際ほとんどの企業のマーケティングというのは気の狂いそうなほど単調でめんどくさく、それでいて緻密さと粘着性の要求される仕事である。それを延々積み重ねて、それだけでは解決できないある段階まで到達したごくごく限られた者だけが、学生のイメージする華やかな「アイデアの飛躍」を許され、「凄腕マーケター」として世の中にその名を知られるチャンスを与えられるのだ。

 こんな大変な仕事、「専門職」としての誇りでも与えられていなければ、到底やっていけない。だから実際多くの会社は「将来経営者候補なんだから」というアメをぶら下げられた文系管理職があてがわれて、でも彼らもめんどくさくてそこまでやりたくないから「結局ヒット商品なんて狙ってできるものじゃないッスから」とか言いつつ手抜きして、それで売れないと責任をうやむやにしてどこかに埋めてしまうのである。ヒット商品が出ないのはお前らのせいだよ、そこのうやむや手抜き野郎め。

 突拍子もないアイデアを次から次へと口にし、生産部門や営業部門に尻拭いさせて遊び回るだけのマーケターを社内に増やす必要はもちろんないが、セオリーに従った市場調査やデータ分析をとことんやり抜き、マーケット・コントロールにプロとしての責任を持つ「マーケティング専門職」というのは、特に消費財を扱う会社は必ず抱えなければいけないコア人材の1つだと思う。

 ところが、日本で組織としてそういう人材をきちんと育てている会社というのはほとんどない。たいていが親方と弟子の間の口伝か、外部のコンサルタント依存かである。世界的に有名なマーケター養成企業としてはP&Gがよく挙げられるけど、僕は最近は松下電器のマーケティングの仕事が、日本企業では群を抜いて良いと思っている。マーケター志望者が今目指すなら、松下のP&Nマーケティング本部が穴場かも。

 IT関連と違ってマーケティングは組織文化として根付かせないといけないものでもあるので、新商品を作るたびにそこらのコンサルタントに頼んで間に合わせてというだけでは、長期的な企業の文化風土には結びつかないと思う。その意味で、今後は社内大学など教育研修充実のニーズは高まるだろう。

 あと、最近はIT関連の影響か、「技術マーケティング」とか言われて新技術の開発動向もちゃんと考えろとか言われるようになってきているので、勉強しなきゃいけないことは死ぬほど多い。向学心旺盛でしかも長期持続型の粘着質な努力のできる人でないと、つとまらない商売になってきているように思う。これからマーケターを目指すという人は、そのあたりをちゃんと覚悟してもらいたい。

 そう考えてみると、ブログのタイトルにうたってるにもかかわらず、僕みたいな飽きっぽい人間は、実はマーケティングって全然向いてないのかも(笑)。マーケターを観察するのは大好きなんだけどねえ。本質的に、自分にないものを持っている人たちに興味が湧くからかなあ。ま、そんなところで。

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コメント

むしろ、出版業界のヤツラへ読ませてやりたいエントリだわぁ(号泣)。
コメントを残しだしたら、ものすごく長くなりそうなのでやめときます。なにかの機会に直接お会いするようなことがあれば、ぜひR30さんの御話おうかがいしたいです。

投稿: てけてけ | 2005/02/12 00:52

うまく言語化できなくて、心底ツライのですが……

一昔前とはちがって「先行者利益を確保する」なんて消費財についてもはやあり得るのかぁ? と、思っちまいます。
新たにヒット商品を開発するよりもそれを猿真似しちまった方が、はるかに効率いいという。
そのようにして、全てのプレイヤーが儲からなくなるまで新規のプレイヤーが参入をつづける……これって「結局は全員が敗けるゲーム」なのではないか? ならば<ヒット商品をブームにせず長く売り続ける>なんてあり得るのか? と、途方に暮れちまいます。

アタマの悪さ全開ですね。すいませんでした。

投稿: てけてけ | 2005/02/13 14:09

コメントどうもです>てけてけさん

猿真似できる商品、つまりコモデティなら(詳しくは後のエントリを読んでいただきたいのですが^^;)、2つに1つです。つまり「最初に作って(ブームにならないように注意しつつ)高い値段で売れる時だけ売って、値崩れしたら事業をたたんで逃げる」か、「猿真似してブームにしてボリュームを増やして価格競争をしかけ、新規参入者がいなくなるまでコスト競争力を強化し続ける」か、どちらかの戦略を取ればいいのです(実際にはそう簡単に決断できないのが人間というものですが)。そのための手練手管を知るのがマーケティングという学問です。

ただ、出版などのコンテンツの世界は、猿真似はあり得ないだけにその手は通じません。つまり、あらゆる商品でいかにうまく「売り逃げる」かが勝負となります。このあたりも、またそれはそれでノウハウの固まりですけどね(笑)。

投稿: R30@管理人 | 2005/02/13 16:34

かなり気合が入ってらっしゃいますね!!
「沈黙は金なり」って奴ですよね。
しかし、世の中ハッキリとモノを言われる事を恐れている
人間が沢山います。
いつも、フッと思うことは、偉そうに隠れて陰口を言った
って、風邪のたよりによって、こっちまで来るんだぞ!!
って事です。
もしも、犬が口が利く事が出来たら、
世の中どうなるか、お解りかな~?って思って
しまいます。

投稿: EMMA | 2008/02/23 05:56

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