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2005/02/16

低コスト社会に必要な中小商店

 久しぶりに並河助教授@埼玉大から伝統食のエントリにTBをいただいた。日本のコンビニ前史みたいな話で、非常に興味深い。

 1970年にセブン・イレブンが東京の芝(だったかな?)に1号店を出して以来、日本のパン屋・米屋・酒屋などの中小零細商店をことごとくコンビニ化してきた話は某オレ様のNHKの人気番組、「プロジェクトX」でも放映されて有名なお話ですが、その前段階にこんなエピソードがあるとは知らんかったとです。

 そのコメント欄で交わされている議論もちょっと面白いし、何より僕の専門だったところなので少し割り込んでみようかな。

 並河氏のエントリには、確か「食の伝統というのが都市設計によって作られることもある」という前置きがあったような気がするんだけど、消されたのかな?それとも僕が寝ぼけてたかしら。

 そう言えば「こち亀」の初期の頃とかを読むと、角のたばこ屋兼駄菓子屋のお婆ちゃんというのがちょこちょこ出てきたりするよね。そっか、駄菓子屋というのは江戸の町内の木戸番が発祥なのか。

 実は僕はタイに留学している時に家でたばこを売っていたことがあって、駄菓子とかたばこっていうのはちょっとまとめ買いしても大した金額じゃないし、買う人もそれを小分けして買いたいものだから意外に利益率は高いしと、何らかの理由でそこにじーっと留守番をして座っていなければいけない人にとっては割といい商売だということを知った。

 でも今の日本は、家の造り自体が通行人に開かれたものじゃないから、たばこ屋も駄菓子屋もなりたたないわね。住宅の構造問題だな。

 ただ、並河氏のエントリのコメント欄に、地方(あるいは東京の下町以外の地域)の商店街について語っている人がいるけれども、僕自身は実は中小商店の先行きにそれほど悲観的でもない。

 店の大きさというのは、その店に必要な品揃えのボリュームと、そこから上がる利益で支払える地代とのバランスで決まるというのが流通業界の定石であった。圧倒的な量の商品を並べまくっても、その店がそれほどの集客力(商圏ともいう)を持たなければ当然儲からないわけで、そんな巨大な店の地代は払えないので縮小せざるを得ない。

 ところが、最近田舎では過疎化による人口減少で、地代が(特に借地料ではなく地価そのものが)タダみたいに安くなってきた。しかも90年代に吹き荒れた大店法規制は骨抜きにされ、形骸化してしまっている。

 となると、際限なく巨大な店がガッコンガッコン林立しそうな気がするのだが、これがそうならない。なぜか?イオンみたいなところが米国並みのでっかい店を作ってみて初めて、店の広さを決めるもう1つの要素があるということに気がついたからだ。それは、「買い回りやすさ」である。

 米国人と違って日本人はちびでしかも時間にうるさい人種なので、巨大なバスケットのついたショッピングカートを押して、広大な店を数百メートルも歩き回って買い物するのに慣れていない。特に、地方に行けば行くほど歩くのさえ億劫な老人が増える。

 地代がタダみたいな田舎では、商圏人口を増やさなければ成り立たないということもあって、売り場面積数万平方メートルとかいうような巨大店がたくさんできはじめたが、これらの店に客が集まるのは週末がほとんどで、平日昼間は開店休業状態である。広大な店内を歩き回る体力のあるファミリーや若者層ばかりがお客で、体力のない老人や、時間のない勤め人が会社帰りに買い物に行きたくなるような店ではないからだ。

 数は少ないけれども、こうした傾向をつかんでわざと店舗を小規模にし、地元のパート主婦や老人の絶大な人気を集めているチェーンは、全国に現れ始めている。

 こうした動きを察知し、何とか取り込もうとしている大手流通チェーンなどもいくつか出てきているが、たとえば最近のニュースだとヤマダ電機あたりの例が思い浮かぶが、これなんか見るとなんつーか「中途半端だなあ」という印象だ。

 実はヤマダは一昨年末頃から、和歌山県や鹿児島県で1000平方メートルクラスの小型店(ヤマダの通常業態は売り場面積5000平方メートルが標準)を出店して試していたが、おそらく自社物件での出店はペイしないと判断したのだろう。それで、商品供給だけに絞ったフランチャイズ化を考えているのだろうと思う。

 だが、これは家電販売店に対する顧客ニーズを本当に把握した結果だろうかと疑問に思う。平日の会社帰りの主婦やサラリーマンが家電店に頻繁によることは考えにくいから、やはりこのクラスの店舗の主要顧客は老人だ。しかし、老人にとっては1000平方メートルの店でも広すぎる。電球1個、電池1つを買うためだけに、30メートル四方の売り場は要らない。

 顧客を老人向けに絞って成功している店は、家電にしろ化粧品にしろせいぜい100~300平方メートルの「コンビニサイズ」が基本である。食品、衣料品はもう少し規模が大きくなるが、それでも500~800平方メートルがいいところか。

 巨大店舗は、従業員のうち数人がちょっと仕事をさぼっていても店は何とか回るが、コンビニ業態の店舗は常駐する従業員が2~3人だから、仕事をかたときもさぼらせない高度なオペレーション管理が必要になる。その意味で、小型店チェーンを展開するのは大型店を展開するよりある意味でずっと難しい。

 でもそれがうまくできた企業は、団塊世代が死に絶える2030年までの25年間は隆々としていけるだろうと僕は思う。それが、少子高齢化という日本の現代の「中小小売店」の行き着く姿なんだろう。

 で、僕自身はこういう店が増えてくるのは、ある意味でとてもいいことだと思う。

 なぜかというと、1つには年寄りや忙しい人にとってより利便で優しい。ま、これは当然。あと、「地域リスク」が低くなる。

 どういうことかというと、米国でウォルマートが叩かれる理由の1つが、「出店してきて地元の中小商店を根こそぎなぎ倒しておきながら、採算がとれないとなるとあっという間に店を畳む」からだ。根こそぎなぎ倒された中小商店街が復活しない以上、その地域は生活インフラのすべてをウォルマートに依存することになる。彼らが撤退すれば、町1つ丸ごと消滅にもつながりかねない。

 その点、小規模な店がいくつもあった方が、1つ1つの店舗の撤退が地域に及ぼすリスクと影響を分散できる。

 あと、並河氏が述べた江戸時代の「町内の木戸番役でもあった駄菓子屋」のように、小規模な店舗が結果的に地域内の犯罪防止や緊急避難の拠点となり、「地域のゲートキーパー」の役割を果たすようになるというのも、理由としてはある。

 コンビニ業界は、既に昨年からこうした「セーフティステーション」化の取り組みを始めているが、こういうどこにでもある小規模店舗に商業以外の部分での生活インフラを任せるというのは、生活コストを下げるために非常に大切なことだ。コンビニと同じ数だけ、警察官を常駐させた交番を作るのとどっちが安上がりか、考えればすぐに分かる。

 というわけで、かつての中小商店は消えるかもしれないけれど、イオンみたいな巨大店で中小商店の機能は代替もできないし、ちゃんとその代わりとなるものも現れてきてますよ、という話でした。おしまい。

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コメント

正確には、セブンイレブンの第1号店は1974(昭和49)年5月に江東区豊洲で開業しました。この店は現在も盛業中で、視察客も多いようです。

投稿: asktaka | 2005/02/17 12:59

データの補足と、エントリ違いですがTBもありがとうございます。>asktakaさん

HPの話、その後もう少し分析して考えてみたんですが(http://shinta.tea-nifty.com/nikki/2005/02/commoditization.html をご参照下さい)、はっきりと「カーリーのここが間違っていた」というのは指摘しにくいんですよね。四半期の予想業績未達は、解任の口実に使われた可能性も高いんだろうなと。とすれば、「問題」は専らHPの取締役会の側にあるわけで。

彼女は今後政治家になるんじゃないかという声もあるみたいですが、ソニーがヘッドハントしてCEOに据えたりしたらものすごく面白いことになると思います。

投稿: R30@管理人 | 2005/02/17 13:42

うむ、TBがうまく送れませんでした。

投稿: mgkiller | 2005/02/18 10:35

フィオリーナ女史とソニーの話は拙著でも取り上げているし、両方とも頑張ってほしい(ほしかった)というのが本音です。女史に関しては、確かにコンパック買収時のイザコザが根っ子にあったのでしょうか。でもジュニアは今回の件は寝耳に水だそうですが。ソニーのCEOがフィオリーナになれば夢のよう!でもフィオリーナで動く体質とは思えないですが・・・。

投稿: asktaka | 2005/02/18 15:38

 むしろ、フィリオーナ会長がソニーに来たら、ソニーにとどめを刺す事態に成りかねないと思いますが・・・。(フィリオーナ会長の素質が問題なのではなく、ソニーとHPの病理が、全社規模での戦略の迷走という根本が一緒のため。これは、マーケッターでは対処できないのでは。)

投稿: うみゅ | 2005/02/18 23:12

ソース失念ですが、大画面テレビVIERA躍進の陰にナショナルの
お店が、というお話があるようです。
その家の寸法、置き場所がわかり、設置もしてくれる街の電器屋
さんという位置も、これからは見直されてくるのではないでしょうか。

投稿: あおしま | 2005/02/25 21:03

コメントどうもです>あおしまさん

VIERAの話は、家電業界なら誰でも知っている有名な話ですね。昨年はDVDレコーダーと薄型大画面テレビの大ヒットで、全国のNショップは笑いが止まらなかったようです。電化のやまぐち(東京都町田市)やセブンプラザ(鹿児島県鹿屋市)が全国的な話題になったこともあり、パパママ電器店はおっしゃるとおり、見直しの機運が高まっている分野の1つだと思いますね。

投稿: R30@管理人 | 2005/02/25 22:28

 さあしかし、町の電気屋さんを家に上がりこませてくれるお得意が、どこまで残っているものでしょう。待てよ。要員が点検と称して上がりこむ? 寸法がわかる? どこかがJCOMを巻き込むんじゃなかろうか? と言ってみるテスト。

投稿: 並河 | 2005/02/26 01:16

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