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2005/02/10

フィオリーナ会長辞任に思う、HPとソニーのたどる顛末

HPクラッシュ 理想の企業を揺るがした1億ドルの暗闘 HPのカールトン・フィオリーナ会長兼CEOが辞任した。(ITmediaニュース)

 やっぱりなあ、という諦めにも似た虚無感だけを、ただ感じる。米国資本主義の限界というか、そういう印象。新しいCEOは36年間HPにいる超ベテランらしいが、だからといってもう昔のHPは戻ってこないだろう。永遠に。

 フィオリーナ氏そのものに会ったことはないが、HPは昔からいろいろとおつき合いのあった会社だった。僕が最初にHPを取材したのは、横河電機との合弁会社だった「横河ヒューレット・パッカード」の時代だったような気がする。いや、もしかしたらもう分離していたかもしれないが…。その頃は外資によくありがちなギスギスした感じのまったくない、何とも家族的で牧歌的な社風の、良い会社だった。

 その後、1999年11月にデバイス・計測器部門をアジレント・テクノロジーとしてスピンオフ。分割後のHPはプリンタ、パソコンなどのコンシューマエレクトロニクスと、ソリューションビジネスの会社となった。

 この時、既に業界スズメな人たちは「おいおい、HPがデバイス・計測機器を分離しちゃったよ・・・これからHP大丈夫なのか?」と、眉をひそめて語り合っていた。

 HPは独自技術を重視する社風があった。というか、もともとの出自は独自開発の計測機器であり、むしろアジレント・テクノロジーこそがHPの伝統を最も受け継ぐ会社だ(松下電器製作所の本業だった電球製造が、今は松下電器でなく松下電工に残っていて、電工の人たちが「我々こそ松下の本家」と名乗るのと似たような感じかな)。実際、アジレントは今も昔の古き良きHPの社風を最もよく残している。

 のちにHPを2分割したルー・プラット前CEO(92~2000年)が「HPは独自技術、独自のやり方にこだわりすぎた」と話していたが、デバイスメーカーが独自技術にこだわらなくなったら、それこそおしまいである。そもそも、この2分割からHPの方向性が揺らぎ始めたと言っていいと思う。

 翌2000年、プラット会長は、AT&Tの交換機製造子会社だったルーセント・テクノロジーの社長で、一事業部長から会社を上場させるまでに育て上げたカーリー・フィオリーナをスカウトし、HPの社長に据えた。

 この頃のHPは、ソリューションカンパニーとして発展していこうという方向を、強く意識していたように覚えている。日本でも米国のHPラボの研究の一部を持ってこようだとか、ソリューション部隊に人員を大量採用しようだとか、そういうのがいろいろ動いているという話をあちこちで聞いた。今となっては懐かしいが、2000年にプライスウォーターハウス・コンサルティング(PwC、現IBMコンサルティング)の買収に乗り出して失敗したのも、こうしたソフト=ソリューション強化路線の延長線上に出てきたことだったと思う。

 だが、PwCの買収に失敗してから、「ソフトやソリューションでいくら頑張ってもIBMに勝てない」というムードが米本社上層部にまん延しはじめたらしく、日本でもスポットライトを浴びていたソフト研究やソリューション部隊が次々解散したり縮小されたりするようになった。んで、「むしろ一番売れていて収益も稼いでいるのはプリンターやPCじゃないか」って話になり、今度は突然コンシューマ・エレクトロニクスを強化しようという話になり、2001年後半に盛り上がったCompaq買収話の登場とあいなったわけだ。

 HPは当時、ソフトウエアでIBMがやっていたような「オープンシステム」と言いつつプロプライエタリな(IBM以外のベンダーに柔軟に開発を頼めないようになってる)システムの営業をぶち壊そうとしていて、当時革新的なアーキテクチャをいくつか提唱していた(今ではLinuxがあってそっちの方がずっとオープンだけれど)。正直、現場を取材していた僕としては、HPに頑張ってほしいと心の中でエールを送りたい気持ちが強かった。

 ところが、ハード強化路線に舞い戻ってからはとにかくひたすら安いパソコンやプリンターがバカスカ出てくるばかりで、応援する気がどんどん萎えていった。PCも確かに激安ではあったが、「ソーテック並みの値段で出されたパソコンの信頼性なんかあるわけねーだろボケが」と内心バカにしきっていたし、実際あれだけ「日本でPC、プリンターともにシェア挽回を目指す」とトップが言っていたにもかかわらず、社員の人たちからは明るい話がちっとも聞こえてこなかったところを見ると、内部は相当疲弊してたんだろうなあと思う。

 冒頭に表紙写真を載せた、「HPクラッシュ-理想の企業を揺るがした1億ドルの暗闘」という、米BusinessWeek誌のハイテク担当副編集長が書いたHPのコンパック買収にまつわるフィオリーナ会長と創業家(David W. Packard)とのプロキシーファイト(委任状争奪合戦)を描いたルポルタージュを読んだことがあるが、ここでもフィオリーナは「演説とマーケティングの天才」みたいに評価されていたと思うし、実際日本のHPの人たちに聞いた話でも「彼女の講演を聴くと感動して涙が出てくる」と言うほどらしい。人の心を動かし、ものを買わせたり働かせたり株価を上げたりすることには極めて高い能力を持つ人なのだろう。

 だが、マーケティングの天才が同時に経営の天才であるかどうかと問われれば、これは必ずしもイエスとは言えないのが苦しいところだ。マーケティングは自社(自分)に与えられたシチュエーション、制約条件の中で最大限の成果を上げることが目的であるのに対し、経営というのは自社に不足する資源(人材、お金、取引基盤、ブランドetc.)の何が足りないか、それを何年後までにどうやって補充し、育て、自らの競争力の中に加えていくかということを考える仕事である。

 フィオリーナ会長はその意味で、不世出の「マーケティングの天才」ではあったが、構造的業績悪化でアイデンティティ・クライシスに陥っていたHPに、経営という意味では何も残さなかったように思う。彼女が君臨した2000年9月から昨日までの4年あまりの時間は、HPにとって「HP Way」という過去の大きな経営の大黒柱を完膚無きまでに叩き壊した後の、"大きな空白"だったと総括されるのではないか。そんな気がする。

 これからHPは、どっちの方向に行くのだろう。技術競争力の源泉であったデバイス事業はもう今さら戻ってこないし、ローコスト・サプライチェーンのビジネス、ハイクオリティー・ソリューションのビジネス、どちらにも既にデルとIBMという隆々たる巨人がいて、今さらHPが出ていくような隙は残っていない。それに、コンパックを買ってしまったのれん代償却があるうちはPCビジネスを手放すこともできないし、「追い込まれたなあ」という印象しかない。誰がCEOになろうが、茨の道であることは事実なようだ。

 してみると、「就任当時はマーケティングの天才ではあったが業績悪化局面において何らビジョンを示せずに社員や世間からの突き上げを食らっている」という経営者では、フィオリーナ以外にも日本ではソニーの出井伸之会長がいるではないか。なんかこの2人、国も出自ももちろん性別もまったく違うのだけど、今置かれている状況というのは非常に似てるなあと思いましたですよ。

 最後に一言。でもフィオリーナ氏がHP会長を辞めたからといって、女性のビジネス界におけるプレゼンスが低下することがないように祈りたい。彼女が1人で支えていた部分は、相当大きかったと思うので。

(関連記事:ITmedia「フィオリーナ氏更迭の背景にあるもの」

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コメント

HP/Compaqの件と言い、AOL/Warner の件と言い、2000年前後の米国の巨大合併話は昨今、後始末状態になっていますね。とはいえ一方でIBMみたいに好調な会社もあったりして。どういう差なんでしょうか?やっぱり「本業」の意義を維持できるかどうかなんでしょうかね?でも「本業」の意味ってすごい難しい問題です。

投稿: SATO Atsushi | 2005/02/10 11:28

SATOさん、どうも。

そんな深遠な問いかけに僕がまともな答えを返せると期待しないで下さい(笑)。ただ、1つ思うのは「株式市場"だけ"を見てる会社は必ずコケる」ということなんじゃないかと。かつてそれでゼロックスがコケましたし、HPもいろいろなアクロバットはやらかしましたが、今から考えると、「賛否両論言われようが、マーケットにインパクトを与えりゃあ勝ちだ」とフィオリーナ氏が思っていたように見えます(最近はHPをさらに3分割する計画を立てていたらしい)。

でも、大企業っていうのはいろいろな事業が無駄にごっちゃに詰まっているように見えて、それはそれで意味があるものなので、単純に「ここを切り出したらマーケットからもっと高い評価が得られるに違いない!」という発想で切り張りすると、大変なことになっちゃうよということなんじゃないでしょうか。

頭が悪いのでそれ以上分かりませんが(笑)。

投稿: R30@管理人 | 2005/02/10 12:11

R30@管理人さん:
|> 大企業っていうのはいろいろな事業が無駄にごっちゃに詰まっているように見えて、それはそれで意味がある
含蓄のあるお答えです。ありがとうございました。

投稿: SATO Atsushi | 2005/02/10 13:28

一年ほど前、ある案件のからみでHPの財務筋の方から「トップは四半期決算しか見ないから短期でインパクトのあるM&A案件しか興味ない」って冷たく言われたことを思い出しました。まぁ、そういう会社だったってことで。

投稿: はぐれバンカー | 2005/02/10 16:27

面白い記事でした。ソニーを持ち合いにだされ
たのもいいのではないかと思います。
それぞれをテクノロジーのライフサイクル
の時期に置き換えて考えてみたいですね。

投稿: sukima_japan | 2005/02/10 16:55

私の中ではHPというとHP-85(PC)で、横河電機がテスターとかオシロ(測定器)なので、分離したときは「横河電機を捨てて本業に帰る」という印象を持ちました。
ハコものとしてのPCに集中すると、独自技術の放棄と価格競争にならざるを得ないわけで、分社化後の路線の上ではがんばったんじゃないかと思います。がんばっても結果が出なければ叩かれるのは出井会長も一緒ですが。
# 出井会長が叩かれてるのって業績が理由ですか?

独自技術というと例えばHP-UXとプロセッサですけど、DECを買収したCompacを買収したけど、一番おいしいところ(StrongARMとAlpha)はIntelに持っていかれた後だったとか、提携したらItaniumがコケたとか、華もなし、運もなしという感じで。1位の部分ってあるんでしょうかね。(フィオリーナ会長はインタビューで顧客満足だと言っていた気が)
マーケッターとしては、「これからこうすべき」という明るいビジョンで締めてほしいなあと思ってみたり。あ、これって荒らしかも。:)

投稿: maki | 2005/02/10 22:00

IBMは米企業にしては企業内文化を
重要視していると何かで読んだ覚えがあります。
意図的にそういう部分も残しておくことで良い面もあるようですね。

投稿: to | 2005/02/12 01:09

我が社は ウイッグを生産する会社ですから 買主を もとめます
できれば お教えてくださいませんか。

投稿: anan191109 | 2006/06/15 15:30

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