日本の出版社には市場価値がない件について
すでにあちこちのブログが詳細に語っているやや古いネタですが、徳間書店の清算について。
1週間ほど前からスタジオジブリの独立というのが話題になってましたが、それって結局徳間本体を清算するつもりで、そこからジブリと雑誌だけを救うスキームだったわけね。
でも徳間書店のサイト見てみたけど、雑誌もめぼしいのはアサヒ芸能しかないのか。あとはアニメージュ関連の本とかそんなのばっかり。よくこんなボロ会社で600億円も借金できたな。マスコミって不思議だ。むしろ、コンテンツ産業のマジックなのか?
徳間書店の債務超過がどのくらいのものなのかよく分からないが、日経の記事によれば600億円の債務をジブリと出版の営業譲渡で400億ぐらいまで減らして、その後1~2年で会社を清算するらしい。まともな事業価値の部分は200億だけでした、ってか。貸し込んだ三井住友は、いったい何やってたんだ。
とかびびっていたら、ブログを検索していたらもっとすごい記事が。19日日経の朝刊に載っていた記事がここのブログに引用されているので、それを見たら、ピークの2001年には1300億円もの借金があったらしい。壮絶だな。
徳間の出版部門はほとんどアニメの収益回収部隊みたいなもんだからどうでもいいとして、焦点はジブリの営業譲渡が150億円ぐらいになっちゃうのがどうかってことだろうね。この記事は徳間側からのリリースだろうから、少なめに見積もっているような気もするんだけどどうだろうか。
ジブリは昨年までの4年間の営業利益が200億円というから、普通にならしてアバウトにNPVを計算すれば時価総額500億。コンテンツ産業ということで、収益のボラティリティは当然大きいと思われるので、少し少な目にみても350億円ぐらいじゃないのかなあ。VCの小林雅ブログでも「GDHのM.Capが300億」って言ってるし、株式上場すればファンが多くて知名度がある分、もっといくんじゃないかしら。過去のコンテンツのIP(知的財産)収入でも、まだまだ稼げそうだしねえ。
とか思っていたら、社長になる鈴木プロデューサーは、ジブリの経営権を少数の関係者以外の人に渡したくないんじゃないか、というこちらのブログでの考察が。つまり株式上場さえもしたくないってことなのかもね。宮崎駿、鈴木敏夫の2人は作品解釈でもよく指摘されているように、アンチ資本主義の気持ちがすごく強い人たちだから、実際そうである可能性はかなり高いと思う。
ま、残りの借金を放棄させられるメーン行がそれでもOKと言っているなら、外野の我々が2人の気持ちを尊重したスキームに異論を挟む余地はまったくないわけだ。考えようによっては三井住友偉すぎ(笑)。ジブリにはこれからもがんばって資本主義に抵抗しながら楽しい作品を作ってほしいです。
しかし一方でスピンオフするもう1つの出版事業の評価額が50億にもならないというのはどういうことなのか。悲しくなるがアサヒ芸能しかないんじゃこれもしょうがないわな。思うに以前ジャーナリズム論争の時にfinalvent氏も日記で書いていたが、出版っていうのは完全に鬼っ子というか、石にかじりついてでもやりたい人だけがやればいいというか、横にジブリみたいな豊富なコンテンツでもない限り、今後は絶対儲からない世界になりそうな気がする。
前にある外人投資家としゃべっていた時に、彼が「日本の出版会社を買収しようと思っていろいろとサーベイしたのだが、これまでに発行した書籍やコミックの権利をきちんと社内で管理していない(つまりすべては社員編集者と作家さんとの間の口約束のレベル)ので、資産評価のしようがなかった」と言って頭を抱えていたのを覚えている。
出版社なんて典型的なIPで食っていく類いの業態なのに、日本の出版ビジネスのIP管理って、音楽や映像の業界よりもさらに遅れてるんだよね。
まあ、石をかじってカスミを食ってもオレは生きられるという方々はともかくとしてですね、出版業界におられる方々はこれからIPの管理をきちんとしないと、斜陽業界がますます斜陽になっちゃうよ、と警告じみたつぶやきでもって今日は終わり。
(10:30追記)そう言えば先日できたばかりのライブドア・パブリッシングから「今度3月末に出す書籍の中でおたくのブログを紹介してやるから自分で紹介文書いていただけませんでしょうかこの野郎」って連絡があったので、「紹介するのは勝手だけど俺に書かせる紹介文ぐらいは原稿料出せ、ていうかお駄賃くださいお願いします」ってお返事申し上げたところ、満面の営業スマイルとともに「それなら紹介文は結構です」ってあっさりスルーされた。さすが公開企業幻冬舎、マジで偉いよ偉すぎる。
(17:00追記)隊長のとこにも来た模様。小心者なR30と違い、レバレッジを最大限にきかせて暴れていらっしゃる(爆笑)
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コメント
TBありがとうございました。
そうですか、日本の出版社のIP管理はそんなに遅れていますか。とある外国の出版社から日本の出版社を買収したいとの打診があったのですが、最大の資産がそんなにお粗末では話にならないかも知れないですね(笑)。
投稿: はぐれバンカー | 2005/02/21 10:32
惜しいですね。株券の電子化なんか進んでいなければ、宮崎駿サイン入り株券で一般公募増資というウルトラCがあったのに。
投稿: 並河 | 2005/02/21 12:53
ああ、なるほどそうですね。>並河先生
でも鈴木さんなら、そのアイデアを債券でパクるかもしれませんよ。次回作の資金調達のため、宮崎駿サイン入りの私募ファンド「ジブリ債」を5億円発行します、とかやりそう。満期が来ても償還してくれなくていい、というファンが続出しそうで面白い(笑)
投稿: R30@管理人 | 2005/02/21 13:01
>私募ファンド「ジブリ債」を
もちろん私は買いますよ。
投稿: 並河 | 2005/02/21 13:57
「ジブリ債」欲しいなぁ。
ナウシカの書き下ろしイラストつきとかで。
投稿: まろ | 2005/02/21 15:47
徳間の借金は、昔の住友銀行が合併した平和相銀の頃からのものですよ。オーナーの故徳間社長はメディア界での隠然たる政治力で銀行からカネを湯水のように引っ張り出していたのは有名です。平和相銀と住友の合併でも裏工作を盛んにして、住友に恩を売ったのではないでしょうか。昭和の怪人物の一人ですね。
投稿: ぷ | 2005/02/23 17:43