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2005/02/26

マスコミって一昔前の銀行業界みたいだよね

 NHKが、職員の給与削減を発表。でも28億8000万円って、職員1万2000人でならしても1人24万円ですよ。年俸300万円で24万円カットなら大騒ぎも分かるけど、年俸総額(1378億7000万円)÷職員数で計算したら平均年俸1148万円じゃないですか。24万円なんか耳くそ以下の額じゃん。そんな程度のことで経営陣の総退陣なんか求めるなよ日放労は。バカかてめえら。じゃああれか、社員の年俸1割カットしてCEOに昇格した経営者は公開斬首刑(以下自粛)。

 最近はTBSもリストラ敢行したみたいだし、表に出ないところでもマスコミ業界のあちこちでざくざくとリストラが始まってるわけだが、正直言って全然生ぬるい。しかし、辞めた人間がどうこう言うのも反則気味だな。じゃあ昔話でもするか。

 今のマスコミを見てると、一昔前の銀行業界を思い出すよな。不良債権が噴出して国会で大乱闘までして税金投入決めたのが山一、拓銀破綻のあった97年あたりだっけか。それから5年ぐらい、同期の銀行員の連中のボーナスや給料がみるみる減っていった。

 だいたい銀行ってのは30歳になって役付きになってから給料が跳ね上がるんで、それまでの収入は、実は大したことない。なのに、リストラのしわ寄せを受けるのはだいたい30代以下の連中ばっかり。取材の時に「僕も最近マンション買っちゃいましてね」と話していた広報担当のお兄さんのいた銀行、その後ボーナス90%カットとかになったんだよなあ。どうしてるかな、あの人。

 それでも若いうちは給料が多少減っても食っていけるものである。生活の給与弾力性(経済学用語で、○○の増減によって××がどのくらい大きな影響を受けるかというのを、「××の○○弾力性」という)は、学齢期の子供のいる中高年の方がずっとシリアスで、若者の生活なんて大した問題じゃない。だから若い連中の給料から削るというのは、ある意味経済合理性にかなったリストラ策だと、僕は思う。

 だが、数年前の銀行業界の若手社員を襲ったのは、そういうレベルの問題だけじゃなかった。給与カットとともに、人事制度も大きく変わったのだ。むしろあれの方がずっと悲惨だったと思う。

 僕の先輩で、大学を超優秀な成績で卒業して今はなき日本興業銀行に入った人がいた。当時、興銀といえば東大を除く国私立大学からは各数名しか入れないと言われていた、銀行界のスーパーエリート集団だった。ただ、ちょうど先輩が入った2年後ぐらいかに、不良債権処理などとともに「投資銀行として生き残る」みたいな新戦略が打ち出され、新卒社員の人事体系も大きく変わったといったことが伝わってくるようになった。

 僕が記者になって数年後、たまたまその先輩が赴任したという地方支店のあるところに取材に行く機会があったので、取材ついでに先輩と久しぶりに飲もうと思い、連絡を取った。そうしたら「忙しいけど、つき合ってやるよ」と返事をもらえたので、喜んで行ってみた。

 夜になって先輩に地元の居酒屋に連れて行ってもらい、「最近どうですか」と水を向けると、彼はおもむろに「本当にさ、忙しいんだよ。毎日、毎週。大変だぞ銀行員は」と言う。「どんなことしてるんですか?」と目を輝かせて聞く僕に、先輩は強い酒をあおってから口を開いた。「そりゃもう、夜は毎日寝ずに週末の仮装大会の着ぐるみ作りやんなきゃいけないとか、よその支店対抗のスポーツ大会の企画とか、本当に忙しいんだよ。日中は窓口にボーッと座ってジジババ相手にワリコー売ってるだけだけどな。先週なんか、課長が絶対にウルトラマンやれっていうからその衣装作ってて、寝る間もなくて本当に大変だったんだぜ…」

 それまで興銀は、新卒入社して2~3年は窓口業務、その後支店の営業や融資、審査などを経て、6~7年目から本店や大都市の支店に戻り、シンジケートやプロジェクト融資を手がける、というキャリアだったと思う。ところが先輩が入って2~3年後に人事体系が変わり、新卒入社後すぐに支店の融資担当や本店の債券運用などあちこちの職場を半年ぐらいのローテで回し、その中から本人の適性に合った業務を選んで3年目以降すぐにエキスパート職に就くというキャリアパスに切り替わった。

 一番悲惨だったのは、その人事体系変更の直前に入社した先輩のような人たちである。待てど暮らせど窓口業務を引き継ぐ新人社員は配属されず、4年も5年も延々と窓口業務と支店のイベント雑用ばかりやらされるはめになったわけだ。大学を出た時の彼の知的能力の高さは数年下の入社組と何にも変わらないはずだったのに、まさに不幸としか言いようがない。

 同じような憂き目にあった僕の同期の都銀マンは、ほとんど都銀を辞めた。でも興銀の先輩にはその後連絡が取れていない。今頃あの先輩はどうしているだろうか。

 がちがちの年功序列、新卒プロパー至上主義でやってきた会社がその人事体系を突如中途、引き抜き等何でもありの実績主義に切り替える時、一番悲惨な被害を蒙るのは旧人事体系の最下層か、そのちょっと上(管理職一歩手前)ぐらいにいた人たちである。人事体系が変わると、彼らの後ろから入ってくる新しい人たちは2種類しかいない。最初から幹部候補コースに乗って数年間でマネジメント予備軍としてのエリート教育を受けてどんどん出世していくごく少数の人たちと、従来の半分ぐらいの給料で黙々と単調な仕事をこなすアルバイターのようなその他大勢の人たちである。

 興銀は既にみずほに吸収されてなくなってしまった。今の都銀マンを見てみるといい。千人単位で採用しているが、幹部候補と言えるのはその中のほんの数十人であろう(人事もそんなことは言わないに違いないが)。残りは全部、従来とは比較にならないぐらいの安い給料でこき使われる永久支店営業マンだ。だから僕は、幹部候補待遇でならまだしも、今どき営業職待遇で都銀に入りたいと思う一流大学の大学生の気が知れない。

 今のマスコミを見ていると、まさに97年あたりから銀行業界で一斉に起こったこうした変化の波が5年ほど遅れて押し寄せているように見えてしかたがない。

 インターネットが「人と会い、話を聞き、そこから何かしらのアイデアを生み出し、それを他人に向けて発信し、再び出会いに結びつける」という、メディア人だけに許されていた特権を一般人に解放してしまった。ネットがメディアに求めることは究極的に言えば、1次情報を地道に集め、淡々と記事にして流し続けるという、面倒くさくて誰もやりたがらないような単調な作業だけだ。体系だった日本語の訓練を少し受けさせれば、バイト君をかき集めて半分以下の人件費でもできるような仕事である。

 実際、テレビ局や出版社の仕事はどんどん社外の格安の番組制作会社や編集プロダクションに流出し、社内には外注管理のスタッフと、仕事のために仕事する官僚しか残らなくなりつつある。新聞業界だけが取材執筆のチームを社内に抱えて生き残っているが、地方紙は既に経営が立ちゆかなくなりつつあるし、そこにニュースを配信している通信社は既に緩やかな縮小均衡に陥っている。大手全国紙クラスでも、紙面を外注に切り替え大リストラに踏み切る動きが出てくるのは、もはや時間の問題だろう。ライブドアvsフジテレビのドタバタなど、業界崩壊のほんの前兆にすぎない。

 この問題についてはいずれ続編を書きたいと思っているが、既にその兆候は新卒就職市場の動向に現れている。早い話が、人事制度の抜本的な変化の予兆が表れた業界には、実際に制度変更が行われるまで迂闊に入ってはいけないという「教訓」を、人材市場のプレーヤーたちは不思議にもちゃんと知っているということだ。ちなみに成果主義、実績主義の人事体系に移行した業界で勝ち組になる企業というのは、どこから人材を連れてきても自社のカラーに染められるシステマティックな社内教育のノウハウを持つ。外資系企業を見ればそれがよく分かる。
 
 どの業界でも言えることだが、人間というのは今年より来年の、来年より再来年の収入が下がると分かっていて元気が出る人などいない。たとえ今年の収入が半分になっても、これから10年間は右肩上がりでやっていけると思えた方が、どんなにか幸せなのだ。だが残念ながら左前になってしまった企業ほど、自分では抜本的な改革策を打ち出せず、小手先の給与カットでじわじわと従業員を不幸にしていくものである。頭では思い切ってばっさりやった方が良いことが分かっていても、いざ自分がばっさりやられる段になると拒否してしまう。経済学で言う「合成の誤謬(ごびゅう)」というやつですな。

 「合成の誤謬」から抜け出すためには、自家中毒に陥ってしまったそのシステムに思い切って経済外部性を持ち込むしかない。企業であれば、経営者のクビをまったくの外部からの人間にすげ替えるか、それとも個々の従業員(自分)が(物理的、あるいは精神的に)システムの外部に出て新しい血を取り込むか、どちらかしかないわけだ。

 ライブドアがニッポン放送を本当に手に入れたら、ニッポン放送の社員は一人残らず辞めてしまうだろうと言った人がいたらしいが、そんなことあり得ない。というか、それってフジテレビ株だけ手に入れて後はゴミ箱に捨ててもいいやって思ってるほりえもんの一番望むところだし、だいたい一流大学出の年俸1000万円もらってるマスコミ人が「1人残らず」辞めて皆さんどこに行くんですか。隅田川の川岸にでも?んなわけねえ。

 何の話だっけ?あ、そうそう。要するに銀行の方々もメディアの方々もがんばってくださいってことで(笑)。それでは。

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コメント

減収分が番組制作費カットではなく、業務の効率化と給与削減で相殺されるということは、受信料を納めている人に対しては筋が通っているのではないでしょうかって思いつつ、業務の効率化約185億円って何?って気になるところです。
ニッポン放送社員の今後については、仮にライブドアが手に入れることが確実になったところで、フジダメダメ社員とニッポン放送優秀社員の総入れ替えなんて手荒なこともアリかも。よく、マイナスよりもゼロの方がいいなんて言うので...。

投稿: antiECO | 2005/02/26 19:41

挙げ足取りみたいですが「合成の誤謬」という言葉の意味は、ミクロでおいては合理的にとった行動でも、マクロの総体では望ましい行動にはなっていない、という意味です。例えば、節約という行為は一人のみでやればお金をためることができますが、みんな一斉にやると不況になる、というものです。

投稿: ゆーき | 2005/02/26 19:58

コメントどうもっす>antiECOさま、ゆーきさま

さすがにそれは、労組が許さないでしょう・・・ってニッポン放送に労組ってあったのかしら?w>社員の大量転籍

そうですね、確かに語句の用法が違いますね。お恥ずかしい。ま、恥さらしのためにそのまま放置しておきます。>ゆーきさま

ああもう徹夜続きで疲れ切った。たすけてくれ・・・orz

投稿: R30@管理人 | 2005/02/26 21:28

都銀時代に私が身に付けた最大のスキルは宴会芸なので、なんか当時を思い出して、ぐっと来ました。
私の元上司もボーナス80%カットとかで、「ローンが返せない。保険証書を見るとマジで思い詰める」って嘆いていました。
マスコミ@高給取りから「銀行は給与が高い、けしからん」と槍玉にあげられたものですが、因果応報ということでしょうか。ざまーみろ(笑)。

投稿: はぐれバンカー | 2005/02/27 00:17

>合成の誤謬
 いや、いいんです。それに一番気づいてないのは大学だから。個人を研究業績だけで評価しておいて、研究以外のことを組織として約束しようとしても、誰もついていきませんわな。みんな抵抗しますわな。

投稿: 並河 | 2005/02/27 01:05

象徴的ですね・・・。
個人的には、楽天の社長が今回の騒ぎで「TV放映に乗り出す?そんなの、今まで考えた事もなかったです。」というコメントが全てを表していると思います。もう、既に興味を持たれるような職種じゃないんですよね。

投稿: うみゅ | 2005/02/27 01:24

mixiにトラ貼らせて頂きました。
取り急ぎ、ご報告まで。

ちなみに私は底辺@マスじゃないマスコミ(!?)に身を置いております。
こっちはカツカツです。
お金・保証どころか、
基本的人権すらありません。。。orz

投稿: 美音鈴 | 2005/02/27 03:17

初めまして、どうもお邪魔致します。
ほとんど関係ない記事で心苦しい限りですが
トラックバックさせて頂き且つ
誠に勝手ながら当方のリンクに加えさせて頂きました。
取り急ぎのご報告とさせて頂きます。
ではでは。。

投稿: | 2005/02/27 18:06

> ネットがメディアに求めることは究極的に言えば、1次情報を地道に集め、淡々と
> 記事にして流し続けるという、面倒くさくて誰もやりたがらないような単調な作業
> だけだ。体系だった日本語の訓練を少し受けさせれば、バイト君をかき集めて半分
> 以下の人件費でもできるような仕事である。
あのー、いちばん面白い仕事だと思うんですけど。取材者としましては。

投稿: fratdrive | 2005/02/27 23:23

挙げ足取りですが「経済外部性」という言葉の意味は、ある経済主体の行動が他者に影響を与える、という意味です。例えば、門灯をつけると家の前が明るくなりますが、通行人にとっても道が明るくなり満足度が上がる、というものです。

えーと、徹夜続きでしたね。
それでは私はこの辺で。

投稿: nikkan sports | 2005/02/28 01:51

> 「そりゃもう、夜は毎日寝ずに週末の仮装大会の着ぐるみ作りやんなきゃいけないとか、> よその支店対抗のスポーツ大会の企画とか、本当に忙しいんだよ。
「投資銀行として生き残る」と言いながら、支店ではこんなことをしていれば合併で消滅するのも納得できますね。
投資銀行といえば自分の懐に入る金は1円たりとも見逃さない、というのがモットーのはずで、こんな仮想大会やらスポーツ大会なんてやっている暇は無いはずですが...
落ち目の会社というのは、大きな公約を掲げながら、それを実現するための改革の必要性は感じられない会社かもしれないですね。
まあ、マスコミの場合は「大きな公約」がまず無いですから、改革の必要性はまず認識できないでしょうし、仮に認識したとしても、ほとんどの業務を外注して、社内に残るのが現場知らずばかりでは、改革を実行する力も無ければその方法も見つけられないでしょう。
現場の改革なくして会社の改革なんて出来ませんから。

投稿: s-essay | 2005/03/02 21:48

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