2005年の衝撃トレンド・属性のコモデティ化(その2)
さて、コモデティ化の話の続編である。わざわざこのネタを2回に分けてひっぱったのは、そう、まさに今日が2月14日、バレンタインデーだから(笑)。
前回エントリのようなことを考えていてあちこち見ていたらぶち当たったのが、catfrog氏のブログの一昨日のエントリである。「美人のコモデティ化」という、強烈なタイトル(笑)。お察しの通り、切込隊長ブログの2月12日のエントリ「性格の悪い美人」へのカウンターエントリであるが、隊長のエントリがタイトルに何のひねりもなく、当たり前すぎる話で終始しているのに対し、catfrog氏のこの記事のタイトルはたったの9文字の中に近代の価値論的転倒が包含されている(柄谷行人風)。
(16:45に続きを追記しました)
しかも、衝撃的なのはタイトルだけではない。catfrog氏ご本人はおそらくネタのつもりで書いているのだろうが、内容がただのネタ・瞬間芸に終わらず、筆者の意図を超えて時代の真実を深くえぐっている。この記事は、もしかして「2005年のアルファブログ」のノミネートエントリになるんじゃないかと予感するほどだ。
美人という属性がどうコモデティ化しているのかはcatfrog氏のエントリを読んでもらうとして、これが意外にも的はずれと言えないのは多くの人が感じるところではないだろうか。実際、catfrog氏のエントリのコメント欄にも激しく共感した女性からのコメントがいくつか寄せられている。
catfrog氏によって「美人のコモデティ化」の例証として挙げられているのが谷(旧姓:田村)亮子であるが、僕はここに紀宮清子様(サーヤ)も加えておきたい。catfrog氏の、「酒井順子は『負け犬の遠吠え』の中で美醜に一切触れていないが、負け犬が負け犬たる主な理由が(R30注:不釣り合いに)『美人』だったことをなぜ言わない」というのは、非常に鋭い指摘だと思う。
このエントリのコメント欄が、また面白い。
「『亮子が結婚できたのなら、私は10回結婚できるはず』と思っている負け犬は多いと思います。」とか、「彼氏いない歴○年の一見カワイイ、モテ(でもつき合った男はことごとくだめんず)な友達が、別の友達に紹介してもらった男を『私ってこの程度なの?!って感じの人だった』と言っているのを聞いて複雑な気持ちになった」とか、なんつーか怪気炎が立ち上っている(笑)。
このエントリを読んで、マーケティング的にR30が思うこと。
- 「美人属性」のコモデティ化というのは、東浩紀が「動物化するポストモダン」の中で論じた、2次元キャラのデータベース化・パラメーター化が、3次元空間(笑)に拡張された結果ではないか
- かつて男性は金&権力、女性は美貌という、互いに入手不可能な価値物の贈与が成り立っていたが、女性が金(収入)を手に入れてしまったがゆえに「美人属性」は(常に"等価"交換される)贈与価値でなく取引上の一条件に成り下がり、その価値を細かく値踏みされざるを得なくなったのではないか(つまり、「収入がこのくらいある人ならこの程度は美人じゃなくても…」などのトレードオフ要件としてもデューデリ(資産査定)されるようになった)
- 世間的に離婚が当たり前になり、結婚当初の一時的な交換価値よりも再販価値(Resale Value)や生涯価値(Life Time Value)が重視されるようになり、俗に言う「3日で飽きる」美人属性よりも「一生続く」他の属性に評価ウエイトが移っているのではないか
とりあえず、ここまでアップ。コモデティ化を回避する戦略(笑)については、後ほど追記します。
(16:45追記)
さて、それでは「美人」という属性のコモデティ化が及ぼす影響及びそれに対処する戦略について、少し考えてみよう。
前のエントリで挙げたHPやソニーに見られるような、いわゆる「○○商品がコモデティ化した(技術的・デザイン的優位性を失った)」という事態と根本的に異なるのは、「美人」という属性それ自体は独立した商品ではなく、「声音」「収入」「コミュニケーション能力」といった他の属性・能力とともに、1人の個人に属するものであるという点である。
つまり、「美人」属性そのものは今や安定的(メガネやプチ整形によって価値が大きく変動したりしない)かつブラックボックスな(製造プロセスを独自技術等によって完全に隠蔽できる)ものではなくなり、他の属性によってトレードオフされたり、あるいは資本の投入によって加速度的に生産量(美人度)を高めることが可能(つまりeconomies of scale:規模の経済が働く)になっている。
したがって、極めてボラティリティの高い「美人」属性に対して、正面から資本の力でもって差別化(例:グラビアアイドル)したり、速度での差別化(例:ガングロ→色白→メガネなどへの急速展開)したりできない個人は、なるべく技術リスク(陳腐化)や信用リスク(毎週の合コンで彼氏ゲット)の高い領域から抜け出して安定化させ、その上で他の属性のバンドリング戦略による経済性(モテ)を獲得した方が良い、ということになる。
つまり、滝川クリステルや真鍋かをりクラスの人はともかく、普通の女性がメガネで美人度を上げるなどというリスクテイクをしてはいけない(男性側からも同じことが言える。結婚というsubscription方式の契約に対し、「美人である」などというvolatileな価値を対価として想定してはいけない)というのが、マーケティング戦略から導かれるセオリーと言えよう。
ちなみに蛇足ではあるが、「美人」属性のボラティリティ・リスクをavert(回避)するためには、当然ながらより変化幅の小さい、あるいは経験曲線の働く属性を選び、強化することが重要だ。
その代表が「コミュニケーション能力」である。その強化が必要である、ということ自体はあちこちでさんざん言われていることだが、ここでマーケティング・コミュニケーションの手法に基づいてそのプロセスをまとめると、やらなければならないのは以下の3つである。(参考:マーケティング・コミュニケーションの役割)
(1)認識(cognitive)の段階
まず、こちら側の情報を開示(disclosure)し、相手に認知を求める。一般に向けたdisclosureを「マス広告」、個別の顧客に向けた選択的なdisclosureを「販促」あるいは「ターゲット広告」と分類できる。コストを低廉に抑えるためには、早期に顧客の嗜好を把握し、マス広告からターゲット広告へステップを移すことが必要
(2)情動(affective)の段階
ある程度こちらの情報に関心を持ったことを把握できたら、次に感情部分の結びつき(linking)を強化して「何となくいい感じ」という選好(preference)、そして「好き」という確信(conviction)へとステップを踏ませる。Linkingを維持するためにも、同一のcommuityへの所属を促す(あるいはこちらが所属する)は非常に重要
(3)訴え(conative)の段階
相手がこちらの価値を認め、比較対照されている競合製品がない(あるいはあったとしても決して売り負けない)ことを確認し、購買決定へ向けて最終的な訴求。つまりプロポーズ
聖なるバレンタイン・デーということで、世の中には(1)や(2)の段階にさしかかっている人がたくさんいると思いますが、50年以上昔のマーケッターが考えたこの普遍のセオリーをもう一度復習して、がんばってください(笑)。
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コメント
自分の披露宴二次会の挨拶で「いやあ日本の化粧技術はすばらしい」と口走ってしまったのを思い出しました。それだけです。仕事します。
投稿: 並河 | 2005/02/14 12:35
いやー、笑いました(笑)
僕は大体美人を非難する方向(といいつつもブスを援護しない方向)で、
女性について好き勝手に書いてるんですが、喜んでいただけて何よりです。
女性からはブーイングがあるだろうと覚悟して、というか
ブーイングを期待して書いたんですが予想外な反応で拍子抜けというのが正直な感想だったり。
(などと書くと手厳しい意見が来そうで怖いですが)。
いつも楽しく拝見してるR30さんに取り上げていただいて
非常に嬉しく存じます。今後もよろしくです~。
投稿: catfrog | 2005/02/14 13:12
DB的に言うならばまずは声だと考えられます。
つまり、「声がこのくらいアニメ・ゲーム声な人ならこの程度は美人じゃなくても…」などのトレードオフ要件としてもデューデリ(資産査定)されるようになった訳です。
これが発展して
「コミケでこのくらい有名な同人作家ならこの程度は美人じゃなくても…」
「コスプレがこのくらいネコミミな人ならこの程度は美人じゃなくても…」
というように発展します。
オタクの世界に入ってくれば良く分かります(爆)
真面目な話、オタクの場合は互いに
「いかに互いのオタ趣味が上手に適合するか」かが
ステディへの最大の判断となっていますね。
投稿: kagami | 2005/02/14 13:19
カミラ夫人のほうが契約後の品質が期待できるし、再販価値も高い、とチャールズは判断したわけか。
投稿: 仙蔵 | 2005/02/14 13:22
こんちわ、いつも読んでます。
他人のブログの引用で申し訳ないんですが
北沢かえるさんの「もてる迷惑 その2」に書かれている記事なんか
今回の主題にあわせて読むと興味深いかと
http://d.hatena.ne.jp/kaerudayo/20050130#p2">http://d.hatena.ne.jp/kaerudayo/20050130#p2
投稿: にゃにゃしぃ | 2005/02/14 15:00
美人の価値が相対的であることは、実は昔から変わっていないのではないでしょうか。
結婚において美人であることが、「重要ではあるが決定的な要素ではない」ことは歴史的に見れば変わっていないでしょう。
今は全ての人が結婚する権利を持っているかのように思われていますが、かつては金持ちの娘だけが本妻となり、美人は妾となり、結婚もできず下女となる人も多かったと聞きます。
これは文豪の作品に出てくるような昔の話でもなく、じいちゃんひいじいちゃんに妾がいたという人も、結構いるのではないでしょうか。
現在は結婚において「恋愛」が重視される傾向にはありますが、「制度」であることからは決して逃れられないでしょう。
だから、結婚のキーファクターが「容姿」や「コミュニケーション能力」には決してなりえない。実際そうだったらもっと離婚率とか上がっているのでは?
結婚率・離婚率を律するのは結局、
社会の結婚制度維持に対する圧力 × 個人の結婚制度に対する受容性
なのではないかと思います。
現在は、世間体みたいな圧力もなくなり、恋愛結婚バンザイみたいな幻想も消え、両方が下がっている状況なのでしょう。
恋愛は美人とでないとできない人も、結婚は誰とだってできます。制度ですから。
・・・というか、このエントリ、バレンタインのためのネタなんですよね?
投稿: 三島八雲 | 2005/02/14 22:34
昔、AERA で、「美人はつらいよ」といった特集があったのを思い出しました。なんのかんのいって、女の人は、「美人」って言葉に釣られ易いんですかね。
「負け犬」の理由のくだりは、確かにいいところを突いてますよねぇ。
投稿: 粘着電脳研究者 | 2005/02/14 23:11
顔で差別化できなくなったら、次は「胸」と思ったら、なるほど、昨今の巨乳ブームは、美人顔がコモデティ化したからだったのかと納得しました。
グラビアアイドル的には巨乳もコモデティ化してしまった今、エロで差別化しているインリンか、バカで差別化している若槻千夏か…
コミュニケーションに行く前に、差別化ポイントして「性格」と言うのがありそうな気がしますが、いかがでしょう?
投稿: sandman | 2005/02/15 14:39
連続ですみません。
「パーツフェチ」と言う「ニッチ」を狙う戦略が思いついたものですから。
投稿: sandman | 2005/02/15 14:41
そもそも、切込隊長さんのエントリーの時から、ソニーのことをいっているのかと思っていました。
他山の石にしたいです。
ああ、美人ともハンサムともいわれたことはないですが...
投稿: ひでき | 2005/02/15 14:57
コメントどうもです>ひできさん
そうか、隊長のあのエントリはソニーのことを指していたのか…。あまりに内容がアレゴリカル(寓話的)なので(しかもわざわざハーディングなど引用してあったので)まったく気がつきませんでした。不覚を恥じます><
投稿: R30@管理人 | 2005/02/15 15:45