ヤフーはブログサービスを買収するか
奥一穂氏のブログ経由で、米Internet Stock Blogの「Yahoo! to acquire Six Apart?(ヤフーはシックス・アパートを買収するか?)」という記事を見た。
こういう完全な飛ばし、というか100%憶測だけで記事が書けるところがブログの素晴らしい(笑)点である。しかもそのノリそのままで、引用した奥氏は「日本ではどうなのか?ヤフーが買うとしたら、やっぱり、はてな?」などと、風説を流布しまくりだ。さっそく僕も悪ノリして風説の流布に荷担してみたい。
ご存じとは思うが、シックス・アパートとはもっともメジャーなブログアプリケーション「Movable Type」を開発した会社で、日本でもネオテニーと合弁で日本法人を作り、@niftyココログなどのサポートを受託している。ブログ業界でほぼ唯一「儲かっている」会社かもしれない。
その米親会社が先日、米国でブログホスティング大手「Live Journal」を買収し、自社のホスティングサービス「Type Pad」とあわせて650万人のユーザーを抱える、業界最大手のホスティングサービスになった。ところで皆さん、検索マッチング広告におけるYahoo!のライバル、Googleは「Blogger」を既に買収している。MSNは「スペースブログ」を始めた。ヤフーにはブログサービスってありませんよね?じゃあヤフーがシックス・アパートを買うなんて時間の問題じゃないですか、というのがリンク先の元記事の内容である。
僕でも10秒で思いつくような単純な理由だけでこんなにも断定的な風説を流布させるわけねーだろうと思い、POP辞書とか使って一生懸命英文を読んでみたが、本当にそれだけしか書いてない。アホかこいつ。もうちょっと謎めいた話でも書いていてくれれば、こっちもあれこれ謎解きでいじって楽しめたのに。
この際、未上場企業であるシックス・アパートがどういう株主構成になっていて、株主がIPOやら売却といったエグジットをどこまで考えているかは問題にしない。その上で、ヤフーにとって本当にブログホスティングあるいはブログアプリケーション開発の会社を今買うメリットがあるかどうか考えてみよう。
InternetStockBlogのロジックはこうだ。広告の市場規模、単価ともに急成長している検索マッチング広告において、より多くのカネをかき集めるためには、よりたくさんのブログを広告出稿先として「直接」抱えなければならない。なぜなら、ブログユーザーは自分のブログに入れるキーワードマッチング広告がGoogle AdsenseなのかOverture Precision Matchなのか、そんなことはどうでもよくて、要はブログの開設と同時に契約できて口座が開ければいいのだ(米国では、TypePadが既にAmazon.comのアフィリエイトをブログ開設と同時に契約できるようにしている、とのこと)。
もしブログ開設と検索マッチング広告契約とを同時にできることが、検索マッチング広告市場におけるシェアを左右するのならば、検索マッチング広告で稼ごうと思っている企業はブログホスティングサービスでもシェアを取らなければならないことになる。だから、ヤフーはシックス・アパートを買収しにかかるだろう、というものだ。
なんていうか、まるで電機メーカーに対して「彼らが自社製品を最もたくさん売るには系列店で売るのが一番楽だ。だから家電量販店を買収するにちがいない」って言っているような無茶さですな。んなわけねー(笑)。だったらAmazon.comもブログサービス持たなきゃいけなくなっちゃうじゃん。
確かに、大手ポータルでブログサービスを持ってないのはヤフーだけになったっていえばそれはその通りだけど、じゃあ米GoogleのトップページにBloggerへのお誘いメッセージとリンクが貼ってあるかというとそんなものないわけだし、OvertureなんかそもそもまだAdSenseみたいなブログに貼れる広告さえやってないわけだし。OvertureがAdsenseやったら、「両方どちらでも使えます」ってうたうブログホスティング業者が絶対出てくるだろうし。
まあ、米国のヤフーのポジショニングについてはよく分からない(そうは言ってもやっぱり広告の垂直統合を目指すつもりなのかどうか)のだけれど、「日本のヤフーがはてなを買うのでは?」という奥氏の予想に至っては、まず今の状況では絶対あり得ないと思う。
はてなが株を売るかどうかは別としても、そもそもブログユーザーというのは、最大手のライブドアでさえ20万人、はてなが10万人、その他にも数万人を擁するサービス業者が10社ぐらい並んでいて、端的に言って「どんぐりの背比べ」状態である。その中でよほどマーケティング、技術上のアドバンテージがあるのでもない限り、ヤフーがどこか1社にカネをつぎ込んで買収するなんてことは考えにくい。
それに、津田ふみかの日記のM&Aアーカイブあたりを見ていただければだいたい分かるが、今の日本のヤフーは親会社ソフトバンクの通信関連投資資金を捻出するためのキャッシュ・カウ(金のなる木)扱いされていて、新サービスに対する自前でのM&Aはほとんどしていない。
むしろここ数年の同社の動きで目立つのは、リクルート(Yahoo!リクナビ)やブライダルネット(Yahoo!ウェディング)など、外部の企業とのアライアンスである。これらはいずれも、外部の企業を“買う”のではなく、ヤフーの持つ圧倒的なリーチ、PVを外部の企業にまとめて“売る”ことで収益化しようという意図のほうが強いように思える。
ブログは必ずしも「広告-コンテンツ-ユーザー」という3つの間に垂直統合の関係ができるかどうかが明らかにもなってないうえ、米親会社が買収したOvertureの営業戦略が広がってこないことには収益化できるかどうかも分からない。となると、PV稼ぎ以外のメリットが見えない中で日本のヤフーがブログ関連企業への積極的な投資に動くとは到底思えないというのが僕の結論だ。
彼らが腰を上げるとすれば、ブログホスティング業者がある程度淘汰されて、残った企業のどこかと組めば、ユーザー、PV、収益などをうまくシェアできると見た時だろう。正直、そうなるまでにはまだあと2~3年は少なくともかかる気がする。…あれ、風説の流布に荷担するつもりだったのに、反対の結論になっちゃった(笑)。
まあ、確かに今のヤフーのメニューに個人HP、スケジューラー、掲示板、メッセンジャー、出会い系など主要なインターネットツールが一通りそろっている中でブログが入っていないのは違和感があるかもしれないよね。だけど、「横綱相撲」を取るプレーヤーが乗り出してくるほどには、ブログというのはメジャーでも何でもない世界なんだと思うよ、きっと。
あと、もし万が一ヤフーがブログ買うとしたら、はてなじゃなくてヤプログとかの方がいいんじゃないかなあ。雰囲気からしても、ヤプログの方がヤフーと親和性高いと思うけどな。絵文字とかあってカワイイし。ま、これは蛇足。
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コメント
一応GEOLOGってものもありますけど……。
全然本気じゃなさそうなサービスですが。
http://geocities.yahoo.co.jp/v/gl/
投稿: ishinao | 2005/01/19 14:06
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050131-00000013-rbb-sci
正式に発表されましたね。
上のGEOLOGの延長上なのでしょうか。
投稿: cerberus | 2005/01/31 18:54
cerberusさん、どうもです。
やや言い訳がましいのですが、上のエントリで僕は「ヤフーはブログを“買収”することはないだろう」と予測していたので、GEOLOGも含めて「自社開発のブログでトライしてくる」ことはあり得るだろうとは思っていました。
優秀なSEに聞いていただければ分かりますが、ブログアプリケーションを作ること自体は、別に難しくも何ともないことなのです。だから、それを外から買うなんてことは、彼らはしないだろうと。
ただ、自社開発で参入するメリットも、本当にあるのかどうか疑わしいとは、今でも思っています。まあ増大するトラフィックを無視していられないということなのかもしれませんが、ぱっと見た感じ、Yahoo!BLOGってshabbyですよねえ。
これから改善していくのかもしれないけど、このBLOGにしろ、はてなの真似して作った「知恵袋」にしろ、最近のヤフーは大企業化して親会社に収奪されるあまり、自分でツボをついたサービスを開発する力が、めっきり落ちていると感じます…。
投稿: R30@管理人 | 2005/01/31 20:59