寄付する前に立ち止まれ
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紅白FLASH合戦にみる、コンテスト型企画のイノベーション

2005/01/04

国際人道援助の投資戦略

 案の定、スマトラ島沖地震災害で知り合いを亡くした方から前回のエントリに対してクレームが来た。

 ま、そりゃそうだろうなとは思う。新年早々、目の前で死んだ人たちやその家族をどうやって助ければいいか、涙をこらえつつ必死で活動している人たちと、遠く離れた日本でパソコンの前に座って好き勝手書き散らしている僕みたいな人間と、互いに理解できないほどの温度差はあって当然だ。それに、それぞれの立場にいるからこそ見えているもの、見えないものというのはある。

 だから僕は未曾有の災害に遭った人たち、それを助けようとしている人たちの活動についてとやかく言うつもりはない。「頑張って下さい」としか言いようがない。

 ただ、救援のための資金を動かせる立場にある先進国の僕たちには、被災地現場の人々を思いやる以外にも、考えて行動に移すべきことがある。それは僕らの富をどうやって大規模災害の救援に役立てるのがもっとも多くの人のためになるか、といったことだ。

 日本が国際社会でどうあるべきか、そのために常日頃から何をすべきかという問いへのヒントは、どんな分野においてもたいてい80年代後半から90年代前半に起こった出来事に遡れるのではないかと思っている。

 例えばサッカーに関して言えば93年の米国W杯最終予選での敗北(いわゆるドーハの悲劇)だろう。あのとき、日本人は「カズやゴン程度の個人プレーでは到底世界のW杯に出られないのだ」ということを学び、システムサッカーの必要性に目覚めたのだろうと思う。

 一方、今の日本の外交戦略の原点は90年の湾岸戦争だ。あのとき、日本の海部内閣は国民1人当たり1万円もの増税を敢行し、合計135億ドルもの戦費を米国に支払いながら、米国からは「湾岸戦争で貢献度の低かった国」に名指しされた。30歳以上の人なら忘れもしないだろう、あの理不尽な仕打ちと屈辱。カネをただ出すだけでは決して国際社会の中で認められないし、尊敬もされないということを、嫌と言うほど日本人は学んだ。

 僕が前回エントリで「日本人はもっと寄付リテラシーを持つべきだ」と言ったその意味も、まさにそこにある。要するに、自分が出したカネがどのように使われるか、もっときちんと考えて寄付しろよと言いたいのだ。

 使い道をきちんと考えるためには、払ったこともすぐに忘れちゃうような金額じゃダメだろと。数百円、数千円なんてケチなことすんな。福沢諭吉先生を出せ。身銭を切れ。ちょっとでも無駄遣いされたらその団体の事務所を焼き討ちするぞぐらいの呪いを込めて寄付をしろ。

 こと、この話になると僕は完全に国粋主義者である。以下の論調は多分に偏向しているので、そのことにご留意しつつ読んでいただきたい。

 こうした大災害や戦禍が起きた地域への国際人道援助というのは、国際社会における各国のプレゼンスを競い合う、あるいは海外援助という「産業セクター」の存亡を賭けた「もう1つの戦場」である。

 緊急人道援助活動には、現地政府や関係機関との密接な関係構築から、援助の最も効果的な地域への迅速なベースキャンプ設置、優秀な現地スタッフの確保など、初動のスピードと大変な政治力が必要だ。そして、このスピード感覚と政治ノウハウを蓄積した組織はますますプレゼンスを高め、政府から受け取る補助金額も増え、雇うスタッフを増やし、したがって次回の援助の際にも有利になる。

 国連傘下の各機関や海外の大手NGOなどはこうした人道援助産業の「コングロマリット」を形成している。彼らにとって、日本というのは活動資金となる「寄付」を集める巨大な資本市場だ。例えばユニセフを例に取ると、2003年の総収入16億8800万ドルのうち、日本政府は1億ドル日本ユニセフ協会は1億1830万ドルの資金を提供している。政府援助では米、英、ノルウェー、スウェーデンに次いで5位、民間寄付額では2位のドイツを3000万ドル以上引き離してダントツのトップだ。米国の民間寄付額など、日本の3分の1にも満たない。

 日本が官民合わせて2億ドル以上の資金を拠出していながら、ユニセフの人道援助で実際に現地に行って活動するのはほとんどが欧米人のスタッフである。つまり日本人はカネを払うだけで、日本国内にほとんどノウハウが残らない(ユニセフもさすがにこの状況がまずいと思ったのか、スマトラ島沖地震の緊急支援では日本人スタッフも現地に行っていることをHPなどで告知し始めているが、組織運営のイニシアチブを日本人が持っていないことは変わらない)。

 こんなケースはユニセフだけでなく、そこら中に転がっている。ここには「カネだけ出しておけばとりあえず自分の良心のとがめはなくなるからいいか」という、90年代前半に痛い目を見たはずの日本人のあのさもしい心情がそっくり残ったまま、頭のいいガイジンどもにいいように利用されているのである。

 それでも、国内に「これではまずい」と考える人々だっていないわけではない。日本にも、「日本のイニシアチブで国際人道援助活動で競争していこう」と考えるNGOが、いくつか生まれ始めている。

 赤十字やユニセフが緊急人道援助のコングロマリットだとするならば、日本のNGOはまだ生まれたてのベンチャー企業だ。ほとんどの団体が本部職員数人の規模でしかない。あまりにも小さくて、虫眼鏡で見ないと見つからないほどだ。

 だけれど、ベンチャーにはベンチャーなりの良さもある。政府による支援や巨大NGOの手が回らない地域や特定分野に特化して、小回りの効く機動的な緊急援助を実施しているところもある。日本人なら、赤十字やユニセフではなく、そういう「国産NGO」にもっと寄付して応援すべきだと僕は思う。

 え?いちいちそんな小さなNGOを虫眼鏡で探しているヒマがないので寄付していられない?いや、まったくおっしゃるとおりだ。我々は忙しい。だからこそ、そういう“ベンチャー企業”をまとめて適切に寄付金を配分する「人道援助のベンチャーファンド」が1999年に生まれたのだ。「ジャパン・プラットフォーム」である。詳しくはHPをどうぞ。

 前回のエントリでも述べたように、日本ユニセフ協会は寄付収入の20%以上を事業経費として使っている。その中にはオンラインでクレジットカード募金を受け付け、即座に領収証まで発行するなどの決済システムや、みかまま氏にまで送りつけられてきたメールのダイレクトマーケティングシステムなどへの億単位の情報化投資も含まれる。これだけの投資が行われてきたからこそ、年間100億円超の寄付を集められるのだ。ちなみにそのうち75%が、個人によるものだ。

 一方、ジャパン・プラットフォームの2002年度の会計報告を見ると、ユニセフと全く逆であることが分かる。たった7億足らずの総収入に占める外務省の助成金比率が80%を超えており、支出の部を見ると一般管理費と雑費が合わせて3%、2000万円しかない。これは、主たる収入である外務省の助成金が、一般管理費として使ってはいけないという縛りをかけられたカネであるためだ。

 つまり、民間寄付が集まらない→政府助成金に頼る→寄付集めのための投資やマーケティングができない→さらに寄付が集まらなくなる→助成金に頼る…の、悪循環に陥っているのである。だから彼らが募集しているスマトラ島緊急援助の寄付も、窓口は基本的に郵便振替しかないのだ(12月29日から東京三菱銀が振込手数料無料のサービスを開始した)。

 ユニセフの事例を考えても分かるように、数億円のシステムやマーケティング投資をしても、そのレバレッジ(てこ効果)として寄付が100億円集まれば全然問題ないはずなのだ。ところが、日本政府が出す金というのは、こうした投資に使うことを認められない。民間の寄付者も「私の寄付したカネは1円も残さず被災者のために使え」と迫る。そういう声を聞くと、僕は無性に腹が立つ。NGOのスタッフには、かすみでも食ってろと言いたいのかお前らは。

 国際コングロマリットNGOにあって日本のNGOに足りないのは、大規模災害への人道援助という目先のやり繰りを超えたところでの、こうした活動維持・拡大のための長期的なスパンを見据えた先行投資の発想である。

 だから僕はあえて声を大にして言いたい。この国のことを思う日本人なら、数万円単位で寄付をしろ。それも、きちんと日本人を現地に派遣するNGOに寄付をしろ。そして、できれば被災者への援助に対する寄付ではなく、NGO自身の日常の組織運営やマーケティング投資に資する寄付をしろと。

 「被災者の人たちがカワイソウ」という目先の感情だけで言い訳程度に数百円、数千円の寄付をしたところで(もちろんそれにまったく意味がないとは言わないが)、それは国際人道援助分野において今日本が抱える本質的課題の解決にはまったくつながらないのである。

 あと可能ならば、どうせ領収証など発行してくれないはてなのポイント寄付が、こうした国産NGOへ重点的に配分されるようになることを一国粋主義者として今後期待しつつ当該サイトへトラックバックを打っておく。

06:09 午前 経済・政治・国際

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偽善を打破せよ! 〜名誉のプレゼンス〜 トラックバック ロリコンファル @2005/01/04 11:34:56
R30氏の以下の2本のエントリについて、文章を書かせて頂きました。 国際人道援助の投資戦略 http://shinta.tea-nifty.com/nikki... 続きを読む

慈善事業へのバックボーン トラックバック fareaster @2005/01/04 22:35:54
昨年末に起きたスマトラ沖地震では多くの犠牲者が出てしまいました。そして、世界の色 続きを読む

首を突っ込むということ トラックバック 一日一喝 @2005/01/05 12:11:41
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あなたの出した義援金や寄付は、あなたが漠然と想像していたように使われているのか?。もしかしたら、漠然とした想像である限り現実は別ものかもしれない。 スマトラ島... 続きを読む

 NGOとガバナンス不在世界 トラックバック セカンド・カップ はてな店 @2005/01/09 13:13:05
国際人道援助の投資戦略 http://shinta.tea-nifty.com/nikki/2005/01/donation2.html#more R30... 続きを読む

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Excite エキサイト : 政治ニュース 「欧米に比べて、日本での民間の寄付が少ないことについては「『寄付の文化』が多少、諸外国と違う。個人がもう少し寄... 続きを読む

NGOも外資系志向?? トラックバック ブログエイド @2005/02/15 22:25:25
R30さんのエントリーで、国際人道援助の投資戦略、を読ませて頂いた。 〓〓〓〓〓... 続きを読む

Comments

このエントリについては恐らく理解なさったうえで書いておられるのでしょうけれど、
>カネだけ出しておけばとりあえず自分の良心のとがめはなくなるからいいか
これがある(残っている)というのは違うでしょう。
あくまで、自分の生活や伝わってくる情報の圏外にある
組織の挙動に対するあまりの興味の無さが原因であって、
上記のような発想は生まれすらしないのがむしろ問題点でしょう。
まあそれだけ無頓着だからこそ沢山の個人寄付が集まるような
国民性を形成しているのかもですが。
しかし無頓着な善意と強い意識の両方を兼ね備えることになれば
それは本当に素晴らしいことなので、全体としてはまったくもっておっしゃるとおりです。

まずは金集め支部でない大型の日本組織に寄付するところからでしょうか。

POSTED_BY:スープ @2005/01/05 3:58:23

こんにちは。このエントリーを書く動機にもなっていることだと思うので、細かい点ですが、質問です。
>米国からは「湾岸戦争で貢献度の低かった国」に名指しされた。30歳以上の人なら忘れもしないだろう、あの理不尽な仕打ちと屈辱。
とありましたが、
あの頃米国から貢献度が低いと名指しされたでしょうか?戦後にクウェートから感謝する国のリストが発表されたとき、日本が含まれていなかったということがあって、それは屈辱であるという議論になっていたと記憶しています。僕のアンテナにひっかかって無いだけかもしれませんが、あの頃米国に限って言えば、日本が金を出したことに関して、ちゃっかり評価してみせて、日本からの金を不透明な処理のままに戦費として受け取っていたと思うのです。日本国内で、金だけ出して血も流さないのは屈辱である・卑怯であるという議論はあったと思います。

POSTED_BY:さる @2005/01/05 9:12:54

どうもー。
早速追加記事をありがとう!大変興味深く読みました。数万円単位の寄付、私はどこへとかぎる程の知識はないけれど、「他人事」じゃなくしようとしてくれる日本の人たちが沢山でてきてくれるといいなあと思います。

POSTED_BY:sahya @2005/01/06 0:57:40

皆様、コメントありがとうございます。

僕がこのエントリで書いたような発想で寄付をする人というのは、全体の2~3割もいれば十分だと思います。寄付者の全員がそうなる(組織の挙動に対する強い関心を持つ)必要もないかと思います。ま、あくまで「俺意見」ですね。「あたしはそう思いませんよ」という方はもっと多くても問題ないかと。>スープさん

米国ではなくクウェートのリストでしたか。単なる僕の記憶違いです。ご指摘ありがとうございます。>さるさん
イラク派兵など近年の一連の対外政策は、小泉内閣の内閣府・首相官邸のスタッフの湾岸戦争への対処に対する強烈な反省が原動力になっているという話を聞いたことがあります。これに関しては僕もあながち否定する気になれません。

被災者情報検索・登録サイトIAAシステムの立ち上げ、おつかれさまでした。>sahyaさん
プーケットをはじめタイ国内の被害も甚大なものがありますが、こちらはほっといても欧米メディアがガンガン取り上げる話ですし、外資も含め復興資金は迅速に集まるだろうと予想します。やはり今後注視すべきはアチェでしょうかね。

POSTED_BY:R30@管理人 @2005/01/06 7:30:14

1.老舗の国産NGOも支援活動と募金を開始
老舗の国際協力NG0でジャパン・プラットフォームに参加していないところも支援活動と募金を行っています。
例えば、日本国際ボランティアセンター(JVC)によるタイでの支援
http://www.ngo-jvc.net/jp/notice/notice20050105_thai_tsunami.html
JVCは1980年にカンボジア難民支援のためにタイにいた日本人によって設立されたNGOです。
シャプラニールもインド、スリランカのNGOと協力して支援活動を開始しました。
http://www.shaplaneer.org/campaign/tsunami04.htm
シャプラニールは1972年にバングラデシュの洪水被害の支援のために設立された日本の国際協力NGOの老舗中の老舗の一つです。

2.会社員の経験とNGO
うろ覚えですが、シャプラニールは1980年代の終わりに大手企業の管理職を勤めた方が早期退職して事務局長に就任し、継続的な活動の維持のために必要な資金調達のための商品戦略などを革新し活動を拡充しました。又、JVCも1990年代の初めだったと思いますがサラリーマン経験を持っている方が幹部に就任し、売れるカレンダーや年末のメサイヤコンサートの開催、企業との協力関係の構築など運営費確保の基盤を広げたと記憶しています。

3.継続的な活動には事務所経費と専従スタッフが食えることが必要
私は1980年代にボランティアで廃品回収を行い収益を国内外の NGOに寄付したり、1990年代の初めに会社の許可を得て社内でグループを作ってユニセフ外国コイン募金 を行ったりしたのですが、その頃NGOや日本ユニセフ協会の専従スタッフと話したことや、自分自身の経験から、継続的な活動、質の高い活動を維持するには、日本での きちんとしたバックオフィス機能(募金、収支や活動の情報開示、物流)が必要であ り、バックオフィス機能の核には専従タッフが不可欠であること、専従スタッフには 生活できる(子どもを育てることができる)給与が必要であることを痛感しました。
一方で、「『寄付金は全額現地に送ってもらいたい。』『ボランティア活動なのだか ら有給職員がいるのはおかしい』と言われることが結構あるけど、継続的な活動には 事務所経費が必要なことを日本じゃなかなか分かってもらえない」との話もよく聞いたものです。いずれの団体も収支や活動状況をきちんと公開していたのですがね。

アフガニスタンで活動しているペシャワール会は、バックオフィス業務はすべて無報酬、関係者の持ち出しで活動を継続しているようですが、これは中村哲医師という強烈な個性が支援者をしてそこまでのめりこませているではないかと思われ、ちょっと例外的な形態だと考えています。

実際、私が接したNGOのスタッフの中には志はあっても結婚や子どもが生まれたため に、生活のために国際協力から離れざるをえなくなったスタッフもいました。

R30さんのエントリーの枝葉の部分かもしれませんが、参考になれば幸いです

POSTED_BY:よしのずいから @2005/01/07 0:13:54

補足しておきますと、シャプラの今の活動基盤を築いたのは、住友海上の海外駐在員から事務局長になられた川口善行氏(現・東北公益文科大学教授)のことですね。彼は日本のNGOにMBAのマネジメント手法を持ち込んだ、おそらく最初の人だと思います。>よしのずいからさん
http://www.softnomics.or.jp/society/re-social/syakai-kenkyu-2000/kawaguti.html.htm

POSTED_BY:R30@管理人 @2005/01/07 0:30:42

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