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2004/12/15

プロのジャーナリズムとは何かについて考える・最終回

 シリーズ最終回となる今回、通常の1.5倍の長文です。覚悟されたし。

 前回(3回目)のエントリで、「既存の商業ジャーナリズムのコアバリューは調査報道であり、ネット・ジャーナリズムがどんなに技術革新によって進化しても、こればかりはどうしようもない」ということを書いた。

 で、これについてコメント及びTBでまたいろいろな人から反論、指摘をいただいた。1つ1つ目を通して議論の中に位置づけ、文章を書くというのは、はっきり言って非常にしんどい。しんどいが自分1人で考えを煮詰めていたのでは出てこない思考にも出会えるし、マゾ的な快感もある。

 恐らく、「読者からの意見、反論に(取材、熟考の両方で)徹底的に答え続ける」というこのマゾさが、次世代のジャーナリズムにとって重要な要素のかなと思ったりしている。こうしたスタイルのジャーナリストというのは、マスコミの中にも既に存在する。もちろん、ポスト・キムタケを目指す朝日新聞の新米ブロガー某氏ではない(笑)。「日経コンピュータ」という業界誌の記者だった(現在は日経ビズテック編集委員)谷島宜之氏である(氏のコラム及びそのリンクは、ITproの「谷島の情識」に集められている)。

 彼は、ウェブ上の投稿やメールで受け取った読者の声に対し、丁寧に答えたコラムを書く。最近舞い上がっていたどこかのブログご本尊様と違い、どんな反論も決してスルーせず、取材先にもう一度裏を取りに行ったり、自分の過去の取材ノートを全部ひっくり返してまで説明を試みたりする。

 今やIT業界で谷島氏の名前を知らない奴はモグリと言われるほどの有名記者だが、以前にそのご本人と話したことがある。その時、彼はITproなどで連載している読者との双方向コラムについて、こう話していた。

 「よくいろいろな人に『谷島さんは読者の声に本当に丁寧にお答えになるんですね、親切ですね』と言われるんですが、僕は親切心でこんなことをやっているわけじゃないんです。むしろ毎日、読者から送られてくる意見を読んで『くそっ、こいつどうやって反論してぐうの音も出ないように叩きのめしてやろうか』って必死で考えながらコラム書いてるんですよ。ある意味、悪意の固まりだと自分では思うんですがね」

 うはははは。ま、彼一流のレトリックだとは思うのだけれど、それにしてもすごい。まあ、普通の人間は親切心だけで毎日数百通の(中には悪意に満ちたものもある)投稿に1つ1つ丁寧な反論しようとは絶対思わないわな。いくら仕事だからってそんなことしたら気が狂ってしまう。ジャーナリストにとって悪意は大切だ(笑)。

 それはともかく、ブログ登場のずっと前からブログ的コミュニケーションによる取材・執筆を実践してきた谷島氏のような人は、ネット時代のジャーナリストの1つのあり方を考える参考になるだろう。

 さて話を本題に戻して(今の話も本題でしたが)。これまでのエントリにコメント、TBいただいた方々の反応を見ていると、大きく2つあるように思う。1つは前回エントリの「人々は調査報道をやってくれると信じているから新聞を定期購読する」という僕のロジックに対するご批判。前回エントリへのわたなべさんのコメント、simonさんの「日常/非日常Blog」のエントリなどがそれ。

 「新聞や雑誌はクソ記事も含めていろいろなニュースがパッケージにされているから読むんだ」「レイアウトによるニュースの重み表現(レーティング)があるから読むんだ」とのご意見。まあその通りではあるのだが、個人的にはこれもあっさりとGoogle Newsなどによって乗り越えられるだろうと思っている。

 既にNews&Blog Searchなどがやろうとしているが、読者がどんなニュースに日頃から関心を持っているかをサーバ側に記憶させておき、個々のユーザーごとにトップページをカスタマイズして見出しをレーティングするというようなことが、将来は実現するだろう。そうすれば、レーティングを知るために新聞を読む意味はますますなくなる。パッケージだって同じことだ。「紙が便利だから」ってのは、新聞がメディアとして生き残る大きな要素ではあると思うが、ジャーナリズムの要素とは関係ないのでここでは論じない。

 「調査報道」というのは商業ジャーナリズムが「公益性」を主張する際の核になる部分であり、だからこそ僕も「既存のマスコミにできてネットにできないこと」として挙げたのだが、実際のところ多くの人はただ「惰性的な慣習」としてだけ新聞を定期購読しているのかもしれない。固定電話の回線契約みたいなもんか。だとすると結論はさらに悲観的にならざるを得ない。過去の不合理な慣習によってのみ築かれたマーケットは、その習慣を持たない人口が増えれば自動的にシュリンクするのみであり、企業側の自発的な努力で売り上げ規模を回復させるのはほぼ不可能としか言えないわけだからね。そういう結論にはしたくなかったんだけど。

 新聞という旧習に代わる新しい慣習として「Googleをジャーナリズムだと思っている若い人が増えてきている」と指摘してくれているのが、埼玉大学の並河助教授のブログである。えーちなみに私全然疲れてませんよ?>並河さん

 話がまた脇に逸れるが、このブログにはもう1つ面白い話が出ている。知り合いのプロの物書きさんの「プロとは良い原稿を書くのではなく、締切を守る人間のこと」という発言が紹介されている。そういえば僕も入社したての頃、デスクに「遅くて良い記事より雑でも早い記事の方が価値は高い」と言われた覚えがある。

 この「締切」というのは、マスコミ(特に紙媒体)に「印刷」というコンテンツの確定プロセスが必ず入るために発生するタクトの概念だ。マスコミの中には、締切がないとまったく仕事ができないという人が存在する(笑)。だがこのような一種の依存心も、ネットによって崩壊する。

 何度も言うが、情報そのものに価格を付けて扱うジャーナリズムの世界が、インターネットの普及でそのクオリティやビジネスモデル、従業員1人1人の意識に至るまで根本的なルール変更を迫られているという現実は、こういうところにまで表れている。

 さて、TBやコメントに共通していたもう1つの反応は、こちらが数としては圧倒的に多いが、「どうやってカネを稼ぐか」をめぐる意見だ。

 これまでにもあった意見の代表として、kensuke氏のブログ「New UnderGround Commune Style」のエントリを例に挙げておこう。ダン・ギルモアの主張する「参加型ジャーナリズム」の収益源としてGoogle Adsenseはどうよ?という話なのだが、TB元エントリのコメント欄に張ってあったURL(「電子テキストについて考える」というタイトルの、山形浩生氏のHotWiredでのコラム)あたりがずばりこれに対する答えだろう。

 要するにネットの世界では「キャッシュで読める」「過去ログで読める」と思うから誰もカネを払ってテキストを買わない、と。テキストの換金システムとしてはやっぱり紙媒体のほうが圧倒的に優れている。ジャーナリズムではないが、ネットで全部タダで読める「電車男」の書籍を、どうして50万人もの人が買い求めるのかといったあたりにこの話は収斂しそうだ。

 では、どうやってカネを集めればいいのか?そんな質問に答えられるようなら、僕はこんなところでこんなこと書いてませんがな。ま、ここからは一般論は何の意味もなくて、個別のビジネスモデルの話になっていくんでしょうね。で、僕が頭に思い描いていたビジネスモデルの一端を知りたいという方はこちらのエントリをお読み下さい。それ以上はもうしゃべりません。

 ただ、あえて一言言っておくとするなら、冒頭に書いた谷島氏のような人が何人か“事務局”とか“世話人”というかたちで専従し、その回りにシステムを介して多くのアマチュア・ブロガーや読者が集まるというような組織を想定できるんじゃないかと思う。で、読者が「これこれについてどうよ?」と疑問を投げかけ、よってたかって論点を整理したら、事務局の専従ジャーナリストが「じゃ、俺それ調べてきます!」ってすっ飛んでいって取材する、みたいなね。

 で、そのコミュニティーに参加する“ショバ代”みたいな感じで、毎月一定額を支払うとか。あるいは他人のブログのコラムを読むたびに小銭が引き落とされるので、自分で面白いコラムや知見を披露できない人だけはちゃんとお金払って読まなきゃいけない、みたいな仕組み。einzbren氏のエントリにある「革新派」と「保守派」のちょうど中間を取ったシステム、と言ってもいいと思う。

 要は、頭のいい人、面白いことの言える人、1つのことに粘着して徹底的に調べられる人に、みんなが自然に(無意識に)お金を渡す仕組みがあればいいと思うのですよ。で、その中の何人かは専従ジャーナリストになって、調査報道に精を出すと。で、読者やブロガーの中から、「俺さあ、1年だけこのネタ徹底的に調べてみたいんだけど、カネくれない?」みたいなこと言う奴が出てきたら、それも1年間だけの契約で専従ジャーナリストにするとか。

 湯川氏のブログでも書かれていたが、ダン・ギルモアがマーキュリーニュースを辞めてやろうとしているのも、そういうことなんじゃないかと思う。NPOとしてのネット・ジャーナリズム。支えるシステムはもうできつつあると思う。日本でも、誰かやってみませんかね。ちなみに、僕はこの12月でマスコミを辞めます。そういうのをやりたい方がいたら、微力ながらご協力はする所存です(笑)。

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コメント

マスコミはまだ公益性をもち社会に不可欠なシステムとしてしばらく、いや長く君臨するであろうに、そこからあなたのような人を失うというのはどういうことを意味しますか。
いやいや、お世辞じゃなくて。
こういう動きが加速して、参加型ジャーナリズム完成前にマスコミが骨抜きになったら、空白時期が出来てしまわないかしらん。

投稿: はまなこ1号 | 2004/12/15 20:55

コメントありがとうございます>はまなこ1号さん

別に僕1人辞めたからといって今すぐ会社が崩壊するものでもありませんし(笑)、マスコミはマスコミですよ。ご心配(ご立腹?)には及びません。僕自身については、今後もう少し上流からの社会的アプローチを試みるつもりです。

マスコミの公益機能が今後も保たれるかどうかをご心配なさっているなら、自分の身の回りからそれを守っていくために動かれれば良いのではと思います。いきなり全国規模の巨大マスコミを変えようとしてもそれは無理というものですが、http://fujisawa.bblog.jp/ こちらのサイトなどではローカルな参加型メディアの具体的なあり方をいろいろと模索なさっているようですし、ご参考にされてみては。

投稿: R30@管理人 | 2004/12/15 22:17

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