ネット上の論争を整理するツールが登場
真に優秀な技術者というのは、社会の中の人々の動きを観察し、人々が(無意識にのうちに)究極の目的としていることとそれにたどり着けない原因とを見抜いて、そのオーバーヘッドを劇的に低減させるツールを瞬時に作ってしまう人のことだと思う。そして、インターネットにはそういう感性と情熱を持つ技術者が多い。
最近相次いで勃発したブログ上の論争(ネットジャーナリズム、ニート、オタクetc.)に参画する際に、僕は自分の記事の中に、密かにこうした技術者の人々をインスパイアしそうな「工学的視点」を盛り込んで書いてきた。優秀なエンジニアならきっとそれに気がついて、何らかのリアクションを起こしてくれるに違いないと思っていたからだ。
そうしたら、あっという間にその動きが表面化してきた。しかも全く別々のところから2つも出てきましたよ。僕としては、狙ったとおりのことが起こりつつあるという意味で、非常に嬉しい。
本当はこういう便利なツールの存在はこっそり自分だけの秘密にして、ブログの内容をブラッシュアップするために使いたい…なんてことを文系人間としてはすぐ考えたくなるのだが、インターネットというのはそういう“囲い込み”を許さないところだし、そういうことをしてもツールは進化しない。なので、このブログを読んでいる文系、理系の皆さんにぜひその先駆者たちの偉業を見ていただき、さらにたくさんの意見を募りたいと思う。
では、その2つのツールのご紹介と、それらに対する僕自身の意見を述べておきたい。
1) ブログの論争追跡システム「BmfEdit」
トラックバックを元に、あるテーマの議論が複数のブログ上でどのように展開していったのかを追跡し、ツリーににして見せる「Blog Marshalling Feed(ブログ整列フィード)」というXMLドキュメントのフォーマットを作成・表示するツール「BMFEdit」が、maki氏によって開発され、登場した。
昨日公開されたばかりのver0.1(仮)は、まだあらかじめ作られたBMFをツリー表示し、リンク先のブログエントリをツリーの下の窓に表示する機能しかない。しかし、例えば論争勃発のきっかけと思われるブログのURLを入れるだけで、そのトラックバックをざーっと追いかけて取り込み、ツリー構造にして自動表示するという仕組みができれば、これはものすごく便利と思われる。
また現時点ではツール上に表示されていないが、BMFのドキュメント内にはXMLの一般的なページ説明要素「description」とは別に、「excerpt」つまり「要約」のタグが設置してある。maki氏がどういう意図で作ったのかが分からないので何とも言えないが、長文のエントリにいちいち全部目を通さなくても、エグセクティブ・サマリやキーワーディングだけを樹形図にしてざっと斜め読みすることもできるようになりそうだ。
この部分については、現在は手動で作成しているようだが、例えばMS-Wordをインストールしている人はBMFEditからWordの文書要約作成機能のOLEを呼び出して、ウェブサイトの文章を食わせて要約文を自動作成できるとか、それが一般的でないならそのツリーの中に頻出するキーワードでそのエントリをGoogle検索した際のサマリ文をインポートして表示できるようにするとか、いろいろな工夫ができそうだ。
いずれにせよ今後の機能追加が期待されるユニークなソフトである。makiさん、がんばってください。
2) Blog論争のまとめ検索システム「matome.jp」
BMFEditが、おそらくは今のところリンクやトラックバックという外形的な要素でしかブログ間の論争を追跡できないのに対して、こちらはGoogle、Yahoo!からBulkfeeds、未来検索、はてな、Wikipedia、ぐるなびに至るまで、ネット上の特長あるすべて検索エンジンを駆使してあるキーワードを巡る議論を展開しているサイトを全部かき集めようというウェブアプリケーションだ。
例えばmatome.jpで「参加型ジャーナリズム」というキーワードを検索すると、Googleでは湯川氏のブログの記事がトップに来るわけだが、ここではkazumaro氏の「参加型ジャーナリズムのリスクとコスト/ネット上のジャーナリズムについてゆっくり考える その1」という記事がトップにヒットする(ちなみに、この記事は考察がきちんとされていて非常に良いです)。
この記事はgoo検索からピックアップされたもののようだが、Googleでドメイン限定で検索しても、この記事はヒットしない。つまりGoogleのクロール対象になっていない小さなサイトも含めて、matome.jpはかなり広い範囲を網羅していることになる。カバレッジにあと2ちゃんねる検索が加われば、もはや国内最強か。2ちゃんの場合、過去ログも網羅するとなると有料になってしまうところが苦しいが。
最初は単純なメタ検索システムなのかと思ったが、あれこれ試してみているとどうもそうではないようだ。試しに「まとめ検索」というキーワードで検索してみたところ、まとめ検索のトップページはどこにも出てこず、まとめ検索についてコメントしたブログが延々と並ぶ。これってある意味ですごい「まとめ」機能かも(笑)。まとめ検索について誰がどう思ったか、ネット上の意見をすべて回収できるわけだ。
このmatome.jpの検索結果が、トラックバック、リンク、掲載日付などの外形基準とキーワード出現頻度などのセマンティックな基準の両方で解析され、BMFのような議論の樹形図に加工され出力され、しかもそれがmaki氏の言うような「まとめフィード」のような形でリアルタイムにRSS配信される、みたいなことになってくると、既存のマスメディアの「まとめ」機能はたぶん本当に必要とされなくなってしまうだろう。
僕は、ブログ的コミュニケーションを用いたネット・ジャーナリズムが成立しうるとすれば、素早い解説・論点整理の機能をベースにして専従のジャーナリストによる報道性をミックスしたものだろうと、以前のエントリで述べた。
だがこれに対し、奥一穂氏からは「速報性にこそウェブのビジネスチャンスがある」という指摘もされている。確かに、BMFEditやmatome.jpを見ていて思うのは、1次情報の速報性まではたどり着かないかもしれないが、報道・解説的な部分のスピードは、もうまもなくリアルのマスメディアが逆立ちしてもウェブにかなわなくなるだろうという現実だ。
文系人間と理系人間のコラボレーションが快感だなあと思うのは、こういうアプリケーションが登場するのを目の当たりにした時である(笑)。引き続きこの分野の技術開発動向については、ウォッチを続けてみたい。
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