はてなの将来と「参加型ジャーナリズム」
なんか前のエントリで「詳しくは週末に投稿します」とか言ってたら年末進行で忙しいはずの山本一郎@切込隊長がなぜかものすごい勢いで類似エントリを放り込んできたので、生煮えでも早くネタ提供しておくべきかなと思って参戦する次第。
その前から湯川氏@時事通信のブログで「参加型ジャーナリズム」のための技術革新の話、それから報道ビジネス研究会のブログでも「特ダネ競争よりも配信経路にニュースの価値があるのでは」という、techdirtのサイトの投稿が紹介されていた。
いやね、techdirtの話はね、もう分かってる人は分かってて、後は「誰がやるか」ってことだけなんですよ。えーと具体的に誰とか聞かないでね(笑)。今まで僕がやろうとしてきたこともまさにそういうことだっt(以下検閲削除)。そういう意味では「技術革新なんか別に要らなくて、そういうビジネスモデルを実際に企画してやるやつがいねーだけなんだよ」という切込氏の主張に全面的に大賛成するものであります。
で、このエントリのタイトルなわけですが、つまり人力検索システムとしての「はてな」というのは、切込氏が言うような「専門性」つまり読者をその関心対象や得意分野によって分類しコミュニティーに帰属させる仕組みと、「モデレーション」つまりポイントを使って読者により有用性の高い知見を表明するよう動機づけ、出された知見を評価する仕組みとを、既に両方持ちあわせた秀逸なシステムなわけですよ。これだけでも十分湯川氏に対する反論になってると思う。
僕が思うに、もしかして参加型ジャーナリズムのプラットフォームになるかもしれないはてなに今決定的に足りないものは、2つある。1つはこういうニュースあるいはトピックの知的消化のスパイラルシステムをまさに必要としている人(切込氏の言う「実際に問題に直面しているマネージメントクラスの社会人」)を、リアル社会からはてなの中にまで引っ張ってくるだけのプロモーション手段と資金力。
もう1つは、はてなでのQ&Aを、切込氏の言う「消費されるトピックとしてのフロー」ではなく「構造的な議案についての知見」と見なし、これにオープンネットでタダであふれかえるフロー情報とは全く別次元の商品価値を与えて、僕の言う「特定多数向けのビジネス」に変える商才、である。
おそらくこの2つは、ご覧の通り鶏と卵のような関係でもあるので、現状のはてなが自身の中から生み出すことはできないものだと思う。ぶっちゃけて言えば、リアルのメディアと組むことでしか実現しえない。(今回の住所登録義務化の話だって、正しいビジネス化のプロセスが分かってないからあんな話が出てきたのだ、と僕は思っている)
前回のエントリで書いたように、誰もが「特定多数」のコミュニティーに属し、その中で渦巻く「コミュニティーの人々のための情報」にしか関心を持たなくなるような意識構造が、膨大なマスコミ情報の氾濫とネットの普及という2つの流れの中で世の中の人にどんどんできあがってきている。
マスコミの情報洪水から身を守るため、あえてコミュニティー内に閉じこもって情報を遮断して暮らそうとしている人々にてめーの情報(ニュース)を伝達しようと思ったら、内容を極めて万人向けの安易でサプライジングなものにするか、あるいはそのコミュニティーに情報を流通させる権限を持っている人に気に入ってもらうか、どっちかしかあり得ないわけだ。
経営組織論という学問の中で、この「外部情報と接触して、それを選別して組織内に流通させる権限を持つ人」というのは「ゲートキーパー」と呼ばれる。ゲートキーパーとされるのは、組織内にごくわずかしか知り合いがいないような一見窓際系に見える人であることが多いが、実際には組織内の誰よりも圧倒的な外部情報網を持ち、それゆえに組織トップの意思決定をはじめ、組織内のメンバーの行動様式に大きな影響を持つ存在とされている。
参加型ジャーナリズムでは、メディア(ジャーナリズム)がコミュニティーに属する人々からこの「ゲートキーパー役」のポジションに見なしてもらえるかどうかで成否が決まる。従来、人がコミュニティー内においてただのメンバーなのかそれともゲートキーパーなのかを可視化して知ることはできないと考えられていた。しかしはてなのようにコミュニティー内で頻繁に流通するポイントを使ってモデレーションを行えば、それが可視化できる。つまり可視化できるということは、メディアが自分の「ゲートキーパー度」をきちん確かめ、それによってコミュニティーを統計的にマネジメントすることが可能だということだ。
モデレーションシステムを通じたコミュニティーメディアの働きの可視化という点では、はてな以外にもスラッシュドットなどがその先駆事例だと思う。要は、ネットの世界はたいていの技術は探せばどこかにある、のである。
どうもこのことに、ライブドアも気がついているらしいということは、某社長日記でも明らかにされている。湯川氏が「技術革新が起こるまで~」とか間抜けなことを言っている間に、分かってるやつはもう動き出してるってことなのですよ。Welcome to the NEW ECONOMY!ニューエコノミーの世界へようこそ!!(笑)
あーあ、全部言っちゃった。まあいいや。切込隊長みたいに分かりやすく喩えを並べるなんて親切まったくしなかったし(切込氏があのエントリ書いたのは、デビルマンネタを参加型ジャーナリズムと結びつけて語ったら面白い!って夜中の12時ぐらいに思いついたからに違いない。絶対そうだ)、この抽象的な文章読み切る奴なんてほとんどいないでしょ。ま、分かる人なら分かるってことでそれ以外の人はスルーしてよし。では。
(8:00追記)蛇足ながら付け加えておくと、コミュニティー・マーケティングというのは究極のダイレクト・マーケティングである。この領域に踏み込むということは、メディアがマスからワン・トゥ・ワンへ、マーケティングスタイルを180度転換するということに他ならない。だから(ビジネスモデルから、スタッフ一人ひとりの意識に至るまで)これまでの成功体験をいったんすべて捨てる決断が必要なのである。
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コメント
切込隊長氏に新しいエントリまで立てて議論の俎上に上げてもらい、大変光栄かつアクセス急増中。ただ「親切を胎盤に忘れてきたようなブログ」と言われたので、本当はサービス精神が旺盛なところもちょっと見せておこうかというスケベ心がてら、読みに来てくれた方々に参考になるかもしれないURLをご紹介しておく。
【秘書をめぐる環境変化】1997年3月の福永弘之氏の研究
http://www.b-jitsumu.com/06_journal/15_3.html
ここに「ゲートキーパー」という概念の懇切丁寧な説明、及びこの概念が実は新聞社の報道担当デスクの研究から見出されたことが書かれている。さすがにこれは僕も知らなかった。今も昔も、メディア業の原点はここにあるというわけです。
ちなみにこの論文では、ゲートキーパー(=秘書)の機能が現代のデジタル技術によってどのように取って代わられているのかいないのか、という話も書いてあってとても面白い。
投稿: R30@管理人 | 2004/11/26 18:42
「特ダネ競争よりも配信経路にニュースの価値があるのでは」
http://http//blog.livedoor.jp/mediabusiness/archives/9794417.html">http://http//blog.livedoor.jp/mediabusiness/archives/9794417.html
上記URLは下記へご修正いただけますか。
http://blog.livedoor.jp/mediabusiness/archives/9794417.html">http://blog.livedoor.jp/mediabusiness/archives/9794417.html
投稿: anonymous | 2004/11/27 16:38
やっと気がついたのですが、「きまぐれ偏拾帖」さんだったんですね。その節はご迷惑をかけ申し訳ありませんでした。わたしのところに「きまぐれ偏拾帖」が閉鎖に追い込まれたのは、お前のせいではないのか」というようなコメントが寄せられました。もしそうであったならお詫び申し上げます。
でも戻ってきていただいて、非常に喜んでおります。これからも冴え渡ったブログを期待しております。
投稿: 湯川 | 2004/11/28 07:13
anonymousさん、ご指摘ありがとうございます。訂正しました。
コメントありがとうございます>湯川さん
10月の一時閉鎖は湯川さんのせいではもちろんありません。他のことが理由です。その節にはご心配かけました。コンセプトを変えて再出発しようと思い立ち、タイトルも変更した次第です。年末進行がんばってください。というか、お互いがんばりましょう。
投稿: R30@管理人 | 2004/11/29 12:19